第26話 やっぱりヘタレと罵られる王子②


 一方エドワード王子は、セオドアを睨み付け反論します。


「そんな簡単な話じゃない。例え公爵家でも王家側から申し入れした婚約を断る事など出来ないのだから、『ディアナの気持ちを知りたい』と訊いたって嫌だと言えるわけないだろう? それでなくてもディアナは外面を繕って僕から距離を取っていたのだし」


「あ、ああ……やっぱり私の外面がそもそもの原因やないの……」


「あっ、違うぞ。ディアナは悪くないからな?」


 自分を責めるディアナに焦ってフォローする王子。どさくさ紛れでまた彼女の頭を撫でています。その様子を見て、目を細めて茶化す王子と公爵令嬢の従者たち。


「そうですよ。悪いのはヘタレのエドワード殿下です」


「あら、うちのお嬢様もいい勝負ですわ。『私の本当の姿を殿下に知られたら、呆れられて嫌われる~』と仰って、二人きりのお茶会のときもずっと外面で対応していらしたんですから」


「カレン!!」


「何だそれは……(健気で可愛いにも程があるぞ)」


 今度はカレンの暴露に慌てるディアナの番でした。が、それも長くは続きません。何故なら()部分を口の中だけで呟いて妙に真顔になったエドワード王子が、急にディアナを抱き寄せようとしたからです。


「ディアナを嫌いになるわけ無いじゃないか!」


「ひゃっ」


 王子は興奮してディアナを腕の中に閉じ込めようとしますが、


「ストップ! はい殿下、どーどー、どーどー」


「恐れながら殿下、今はお控えください。お嬢様、こちらの椅子へ」


 セオドアとカレンが二人がかりで止めに入ります。


「いやあ、今はこんなガルガルしてますけど、やっぱりうちの殿下の方がヘタレですって。ノーキン侯爵家のアレス殿まで引っ張りだしてきて、ディアナ殿の意思をこっそり訊いてくるよう頼み込むし」


(あ! あの時の質問)


『なぁ。本当はエドとの婚約を破棄したいのは姫様の方なんじゃないの?』


(……殿下に頼まれてたんか)


「それで、ディアナ殿がソーサーク子爵令嬢の書いた小説をお認めになって、殿下に対して恋心があるようだ、とアレス殿から聞いた時の殿下の浮かれっぷりが……ぶぶぶっ……小躍り」


 笑いを堪えながら(堪えきれていませんが)言うセオドアのセリフを消すように、慌てて大声で王子がかぶせます。


「あー! あー!!……アレスの件は仕方ないだろう!! あの時既にヘリオスは信用ならなかった。お前と"影"以外で二心ふたごころが無いと確信したのはアレスだけだったんだから」


「"影"?」


「ああ、王子直属のもう一人のシノビです。でも存在そのものがその名の通り公で無いのでどうぞご内密に」


 指を唇の前に立てて微笑むセオドア。そんな表情もカレンにどことなく似ているので、ディアナはこの短時間ですっかりセオドアに馴染んでしまいました。


「ディアナ殿は彼の声だけは聞いたことがございますね。あの時の烏の鳴き真似ですよ」


「え!? あの特別室の時の?」


 ディアナは過去何度も特別室でのやり取りを思い出していた為、あの烏の鳴き声と羽音も簡単に思い出せます。とてもリアルで本物だとばかり思っていました。


「上手でしょう? でもあの時のファインプレーは彼ではなくディアナ殿ですね。咄嗟に殿下の話に上手く併せてくださったお陰で、敵が誰かわかったんですよ」


「え?」


 ディアナとカレンは顔を見合わせます。流石のカレンもその意味はわからなかったようです。エドワード殿下がいつもの落ち着きを取り戻し、微笑んで二人に話します。


「あらかじめ符丁を決めておいたんだよ。誰かが僕たちの話を盗み聞きしていたら、わざと良いところまで聞かせてからとね」


「!!」


「僕としては婚約破棄するつもりだという話を聞かせるだけでも良かったんだが、君が『先に慰謝料を払わなければ婚約破棄は聞き入れない』と言ってくれただろう? しかもまるで本心かのようにカンサイ弁で」


「あ……!」


 またまた真っ赤になるディアナ。それを見てクスクスと笑うエドワード王子に、目だけでニヤッと笑う従者。王子が続けます。


「それがとてもリアルで効果的だったから、盗み聞きする人間が釣れたわけだ」

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