第4話 初めて見た

 ドン!


 どこからか聞こえてきた壁を叩いた音。

 お手洗いから出た私は現場に急行しようとしたら、まさに眼の前で繰り広げられていた。


『こっ…これは…!?』


 男子が右手を壁についていた。

 その人の眼の前には女子。壁にピタリと背中がついている。

 そう、これは、アレだ…

 漫画やドラマ、映画で見たことある…


 


 私は隠れて様子を見る。

 壁ドンなんて初めて見た。

 鼻息が荒くなる。

 興奮する自分に落ち着けと暗示する。

 超レアだし、現実に壁ドンやる人いるんだと関心した。


「誰かきたらどうするの?」


 頬を赤くして恥ずかしそうな表情であるが、どことなく目だけはうっとりしているような。

 誰かきたらか…今まさに見てますよ私。

 ふふん、バレとるぞ。


「そんなこと知らん」


 クールだな男子は。

 片方の手も壁についた。

 り、両手だと!?上級者テクニックとやらか。

 ますます鼻息が荒くなるのが分かった。

 ヤバい落ち着け、マジで鼻血出そう。

 鼻血の心配をしながらも、やはり2人のやり取りが気になってしまい見てしまった。

 様子を見ていると、急に男子の方が女子の顔に近付いているような…。

 こっ、ここっ、ここれはー…!?

 吐血しそう、逸らそうか、でも…。


 見・た・い・!!


 唇があと1センチの距離になったその時だった。


「あー、ダリー」


 どこからか聞こえてきた気だるげな男子の声が響いた。

 それと同時に彼らはバッと離れた。

 何事もなかったかのように2人は目で会話するようにして、意思疎通が出来たのか、教室に戻っていった。


 …パタリ。


 私の心は倒れた。

 良いとこだったのに…。

 誰だよ邪魔した男子。

 なんか聞き覚えあるようなないような声だったな…。

 トイレから出て、声が聞こえてきた方を見た。


「あっ」

「よっ!」


 陽気に声を掛けてきたのは、わたっちこと古泉こいずみわたる君だった。

 直ぐに彼に近付いて聞いた。


「さっきダルいとか大きな声で言った?」


 わたっちはポケッとしたような顔で「それがどうしたの?」と言った。


 ムカムカムカ…


「え?何?怒ってんの?何で?」


 分からないのか、そうだよね。

 分かっている。

 彼は知らないのだから、あの名場面を。

 でも、でも、でも…。


「酷い!!」

「はぁ!?」


 私は一目散に教室に戻った。

 慌てているわたっちの事は無視して。

 次の日、昼休みまで私はわたっちとは口を聞かなかった。

 昼休みに「よく分かんないけど、これで許してくれ」とわたっちからジュース1本貰ったことがきっかけで会話が始まったのだった。


 大人げなかったかな、ごめんなさい。

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