オカルト研究部、実地調査!③
サトルは人体模型の空妖と対峙した。旧校舎で人が消えるというウワサ、足音が聞こえるというウワサは間違いなくコイツの仕業とみていいだろう。ただ、やはり空妖というべきか、厄介な能力を持っている。
「どうなってるんだ、心臓部分に吸い込まれていったぞ。真島が縮んだように見えたけど……」
「ワタシと似ているな、あの中にはいっぱい収納できるみたいだ。ニンゲンも縮められるなら、ワタシよりも便利かもしれん。まあ、それにはルールがあるみたいだが」
そのルールについてわかるコトは、なんらかの動作を3回するといけないらしい。真島が吸い込まれたのと実体験を照らし合わせると――
スマホを取り出す、走る、窓を割る、物を落とす。これらがアウトだ。一貫性はなさそうだ。
「そんなチンケな板がどうしたんだ? 没収されたいのか?」
あと、こんなナリでも教育者を自称している。ますますわからない。
「
言われるままに、刀身に包帯を巻いてバクの口へしまった。人体模型から目を離さずにいると、ジッと見ているだけでなにも手出しはしてこなかった。かえってそれも不気味だが。
では、どうすれば真島を取り返せるのだろう。
「あの……そこの心臓に入ってる人はどうなるんですか」
か細い声で質問したのは樫見だった。樫見はサトルの後ろに隠れ、学ランの裾を握りしめている。
「質問に答えるのが教育者の務めなので教えてやる。ここはな、わしの指導室だよ。不良どもをしっかり教育するためのな」
「どうすれば帰してくれるんすか」
意外とすんなり受け答えしたのを見て、サトルも質問した。
「これから先の人生、真っ当かつ優秀な人間を目指すようになるまでだ」
「旧校舎でサボるコトが、そんなに悪いんですかね?」
「ヤツらがルールを破ってもわしはチャンスを3つ与えた。仏の顔と同じ数だぞ、ええ? それでも破るのなら教育するほかあるまい!」
わざわざ仏を引き合いに出すのは傲慢ではないか。こんな性格ならばルールというのもあの人体模型の『マイルール』なのかもしれない。
では、あれ自身がルールを破ったらどうなるのだろうか。もし破らせるコトができたのなら……。
サトルは樫見の耳元に「向こうへ早歩きするよ」とささやいた。樫見は小さく頷いた。
「じゃあ、アンタもルールを守ってくださいよ?」
樫見に言った通り、手首を掴んで横を通り過ぎようとした。が、
「おい、待て!」
やはり肩へ腕を伸ばしてきた。サトルは咄嗟に空いてる片手で受け止めた。
「なんだねその手は。離さないか」
「今の世の中じゃあ、これでも体罰になっちゃうんすよ? 教育者さん」
「この程度で……。いいか、わしらの時代には――」
それからグチグチと昔話を始めた。興味がないので話半分に聞き流したが、人体模型の空妖の中には教職員の幽霊が取り憑いているようだ。
「――というコトだ。時代に甘ったれているんじゃない、わかったかこの不良生徒が!」
「ん……。あ、はい」
「わかったのなら、黙って教育を受けるんだな」
「いいっすよ。ただし、念を押すけどアンタもルールは守ってくださいよ、言い出しっぺなんだから」
「当然だ」
「……じゃあ、手、離してください」
人体模型は素直にサトルの手を離した。それからニタリと笑った。
「さあて、お前も教育を受けるんだな!」
意気揚々と両手を広げるとなにかがこぼれた。サトルも口角を上げ小さく笑った。
「あれえ? なんか落としましたよ」
屈んで確認する人体模型は絶句した。
「アメ玉? なぜ手にくっついて……」
なんのコトはない。拾ったアメ玉を人体模型が手を伸ばしたときに引っ付けただけだ。予期せぬタイミングで長話を始めたので、いい具合に溶けてくれた。
「物を落とすのは……ルール違反でしたよね?」
「ルールはわしだ! そんなふざけた話が……これでひとつ。……なんだと!?」
自分で言って自分で驚いているのは滑稽だ。面白いモノも見れたし、攻略法も見えた。
「許さん! お前だけは徹底的に教育してやる、覚悟をするんだな!」
教育を受けると、そういう約束だった。ここで約束を破ったらヤツもいいようにルールを変えてくるだろう。こちらはルールを守りつつ、どうにかルールを破らせなければならない。そのためには――
「ゴメン、樫見さん。攻略法がわかった! ヤツに『ルールを破らせて』戦うんだ!」
「えッ!? そんな!?」
人体模型の心臓が開いた。真っ暗闇の中から浴びたコトのないような冷たい風が吹き、身体が宙に浮いた。真島もこうやって吸い込まれていったのか。さぞ怖かっただろう。
「ひ、ひとりにしないでください!」
樫見の顔は保健室で初めて出会ったあのときのように、今にも泣きそうだった。吸い込まれる最中、割れた窓から雨が吹き込んでいるのが見えた。
だから、あのときとは違う。
「大丈夫、ひとりじゃないから!」
「え……?」
断言したところでサトルは消え去った。心臓が閉じると辺りは静寂に包まれた。
「ガタガタ震えている女子生徒がひとり。見るからにこれは……」
ひとりぼっちの心細さに迫り寄る人体模型、樫見の心は折れそうになっていた。
ぎこちない動きで腕を伸ばし、肩を掴まれた。恐怖のあまり目をつむり、あきらめかけたそのときだった。
「――アンタ……その子にどうするつもり?」
「誰だ!」
顔を上げなくても、それが誰なのかすぐにわかった。いつもは姿が視えないけれど、そばにいてくれる――
「夕七の友達よッ!」
そう、凛とした声で言ってくれる。
「……花子さん」
引きつった樫見の目に光が戻った。
ひとりじゃない。それだけで勇気が湧いてくる。今度はわたしが禅院くんや真島くんを助けるんだ!
……ってあれ? 視えるし声も聞こえる? ここはトイレじゃないのに?
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