転生したら、愛の重すぎるライバルでした。~悪の帝国の皇子は、破滅エンドを避けるために善政を積む~

ねくろん@カクヨム

転生


「なにとぞ……なにとぞ!!」


 はい?


 気づくと俺は椅子に座っていた。

 そして眼の前には膝をつき、俺に向かって頭を下げるオッサンがひとり。


 こちらにハゲ頭を向けるオッサンは黒い兜を抱え、同じ黒色の甲冑に身を包んでいる。鎧のデザインはいかにもファンタジーな感じで、現実感がない。


 え、何? オッサン、その年でコスプレはきつくない?


 いや、そうじゃない。何なのよこの状況?!

 それに誰よこのオジサン。怖いんだけど!???


「ユリウス閣下、この敗北者に処遇を」


 は、ユリウス?

 それにオッサンの鎧、何か見覚えが……。

 ん、んんんんん……?


 俺は考え込んで、人差し指を口に持っていく。

 すると、ひんやりとした金属の感触を唇に感じた。


 あっ。


 気がつくと俺も鎧を着ているではないか。

 肌に当たったのは禍々しいシルエットをしたガントレットだ。


 アブねぇ……あたりどころが悪かったら顔面をそぎ落としてるぞ


 視線を下げると、俺は自分が着ている鎧が目に入った。


 ――何この悪役っぽいデザイン。

 無駄にトゲトゲしてるし、ねじれた金の装飾はいかにも「悪」って感じだ。

 あきらかに主人公側が使いそうな装備ではない。


「どうされましたユリウス閣下?」


「待って。」


「ハッ……?」


 ユリウス。そして、この鎧のデザイン……!

 もしかして、もしかすると――


「「ヒッ!!」」

「「わぁっ!?」」


 俺は立ち上がって後ろを見る。

 何か周りで悲鳴が上がったが気にしない。


 とにかく、俺の記憶が確かなら、アレがあるはず!


「――ッ! マジか……」


 俺が座っていた玉座の後ろには、旗があった。

 黒と赤のヘビが絡んだ紋章の描かれた黒い旗。


 これは、アイゼン帝国の旗に間違いない……。

 ってことはここはRPGゲーム『ラスト・ファンタジー』の世界?!


 それに「ユリウス」という名前にも聞き覚えがある。


 ラスト・ファンタジーのメインクエストのラスボスにして、最強にして最凶。

 最悪の人格破綻者にしてバトルジャンキーのユリウス皇子だ。


「あの、ユリウス閣下……いかがなされましたか?」


 その名前で呼ぶってことは、やっぱり俺がユリウスって……コトォ?!


 ってことは、今のこの状況……。

 悪の帝国にありがちな、理不尽な処刑シーンってやつか?!


 そういえばユリウスってよくイベントシーンで「敗北者には死を」とかいって、指揮官や兵士をバンバン処刑していた気がする。今の状況はそれか!!!


「「…………」」


 周囲に重い沈黙が立ち込める。

 振り返ったが、誰も発言しようとしない。


 そりゃそうだ。ユリウスといえば処刑だからな。


 作戦に失敗した指揮官を処刑するのはもちろん。

 主人公の行動を報告しただけの伝令ですら、理不尽にも処刑していた。


 いやむしろ、主人公側のキャラよりアイゼン帝国の重要人物を殺した数のほうが圧倒的に多いんじゃないかな、この処刑マシーン。


 下手な発言をして首を刈られたくないから、みんな黙っているのだろう。


 さて、どうしよう……。

 もし俺が本物のユリウスなら、剣を抜いてサクッと処刑するだろう。


 しかし、俺はただのゲーマーだ。

 剣で人を切ったことなんか当然ない。


 それにマルチシナリオのゲームでも、虐殺Gルートとか行ったこと無いし。


 ああいうのって大体、前回のプレイで親しくなった人をコロコロするから、イベント回収でも心が苦しくなって、進めなくなるんだよね。


 目の前のオッサンは全然知らない人だ。

 かといって、オッサンがひどい目にあっていいといういわれはない。


 ――いや、待てよ? ガチの犯罪者の可能性もある。

 一応、何をしたか聞いておこう。念のため、念のためね……。


 流石に悪の帝国と言えども国なんだし、無茶な理由で処刑しないだろ。

 えーっと、ユリウスのしゃべり方ってどんな感じだったかな……。


 ……ダメだ。敵キャラのしゃべり方なんてちゃんと覚えてない。

 ま、できるだけ偉そうにしておけば良いか。


「貴様、自分が何をしたか言ってみろ」


「ハッ、ハイッ!! ……属州民に帝国の民と同じ食料を与えました。

 厳しい冬を働く労働者に、麦粥むぎかゆだけではあまりにもと思い……」


「……は?」


「千人隊長、貴様自分が何をしたかわかっているのか!

 奴隷に帝国人と同じ食べ物をあたえるなど!!」


 まてまて、ステイ。

 そんだけ?


 俺が戸惑っていると、横に立っていた書記官らしきクール系美女がメガネをただし吐き捨てるように言う。


「属州民は10年の兵役を終えない限り、市民権を持たぬ奴隷である。

 帝国に貢献しない雑種にそのような扱いをするとは……。

 アイゼンの国父たるヴァルガス皇帝陛下もさぞかしお嘆きだろう」


 あぁ……そういえば、そんな設定あったな。


 アイゼン帝国はいろんな国を侵略して、属州として占領している。

 そうして元から住んでいる人たちを奴隷にしていたはずだ。


 帝国には選民思想がガッツリ根付いている。

 自分たち以外の民族を「蛮人」として見下すのが帝国人の普通の感覚だ。


 だから「同じ食料を与えた」ことが罪になるのか。

 うわぁ……めんどくせ~!!


 うーん、どうする……?

 よく見るとオッサン、普通に人が良さそうな感じだ。

 これで処刑ってのはちょっと……。

 でも、帝国の常識に反することをすると、ユリウスとして問題があるな。


 いやまてよ?

 ユリウスには「酔狂」という性格付けがされていたはずだ。


 こいつは「おもしろい」とか言って、メチャクチャな決定をくだすことがあったはず。よし、そのパターンで行こう。


「フン……おもしろい」


「か、閣下?」


「属州民と帝国人を分かつものは何だ?

 血か、技術か? それとも――育った環境か?」


「「…………」」


「冬に限り、属州民に帝国人と同じモノを食べさせても構わん。

 それで何か変わるなら、それもまたおもしろい。」


「で、では……」


「不問だ。下がってよろしい。

 だが、結果が出なかった時は……わかっているな」


「ハハッ!!」


「閣下、よろしいので?」


「冬季における労働者の死亡率は? 大体でいい」


「……冬を超えられぬ者はおおよそ2割、場所によっては5割です」


 あ、あの、それはいくらなんでもヤバくないっすか?

 そりゃオッサンも飯を変えたわけだよ!?


 オッサン悪くない。むしろグッジョブ。

 なのに何で殺そうとしてんの?!


間引まびきにも限度がある。すこし加減してやれ」


「ハッ!」


 ふぅ……こんなもんでいいだろ。

 悪の帝国からいきなり方向転換しても、周りがついてこない。

 でも、ユリウスの気まぐれならセーフだろ。


 そういえば今って、原作でいうとどのくらいの時期だろう?

 ラスト・ファンタジーのストーリーを思い出してみよう。


 世界最強のユリウス皇子は、その強さゆえに孤独を感じていた。

 しかし彼の孤独を癒やした者がいる。同じく世界最強の主人公だ。


 主人公と何度も戦いを重ねると、いつしかユリウスは自分と同格の強さである主人公のことを「友」とよび、異常な執着を見せるようになっていく。


 そして、ユリウスは主人公と戦うためにハチャメチャなことを始める。


 主人公と彼を支援する国々に和平を申し出た皇帝を暗殺。そして、生まれ故郷の帝国を悪魔の生贄いけにえにして、最後の決戦を主人公に挑むのだ。


 決戦で帝国の人々は悪魔の兵士になって、主人公と戦って次々死んでいく。

 そりゃもうメチャクチャ後味の悪い展開だった。とくに悪魔となった母と子供の生前を思わせる断末魔は、みんなのトラウマとして名高い。


 だが、そこまでしても結局ユリウスは敗死する。


 ユリウスは死ぬ時、「友」である主人公に愛をささやく。

 このせいでユリウスはプレイヤ―に「ヤンホモ」というあだ名がつけられた。


 ずいぶん身勝手な死に様だと思う。


 しかし、これを成し得たのはユリウス一人の力じゃない。

 帝国全体に問題があったからだ。


 帝国の人たちは、自分たちの国の信条「支配の力」を信じていた。

 そして、自分たちは世界で一番優れた民族だと思い込んでいた。


 しかしその幻想が主人公の勝利によって何度も打ち砕かれると、次第に帝国の人々の信条は、世界を巻き込んで破滅することにすり替わってしまう。


 俺がこのまま玉座に座ってウンウンうなずいてたらどうなる?

 きっとそのストーリーのままになるだろう。


 そんなシナリオは嫌だ。

 なんとかして破滅ルートを回避しなくては。


 ヤンホモとして死ぬなんて、絶対イヤだからな。





※作者コメント※

悪役転生が人気だと聞いてつい……。

元ネタは某超有名MMOに登場する、例のアイツです。


ガチの悪役に転生した主人公が、前任者とその取り巻きのやらかしに始末をつけていく話です。


ゆっくり更新していきますので、ブクマと評価の方をよろしくお願いします!

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