第10話 黄昏



「まぶしいな」



 ライズの声に引き寄せられるように、リィエンもまた、薄暗い校舎の中から扉の外に目を向ける。



「……」



 外は、見事な夕焼けに染まっていた。


 きらきらとした、落ちゆく前のまぶしいだいだいが作る光の波。それが白亜はくあの校舎や、ライズの白衣。そしてあたり一面を同じ色に染めあげている。



「本当にまぶしいね」



 そう言ったときリィエンは、夕焼けではなくライズの後ろ姿を見ていた。


 ライズは、まるで夕陽のような色を持った人だった。


 教師でありながら少年を思わせる面立ちに、清潔感のあるさっぱりとした髪。それを彩る濃く力強い夕焼け色は、毛先の部分だけ淡く溶けゆくように薄い色に変わっている。

 ぱっと振り返ったライズの瞳は、太陽のような輝きを放っていた。



「行こう」



 まぶしそうにリィエンはうなずくと、ライズとともに道に敷かれた石畳を歩き、正門へ向かった。





 道は途中、建物が作る影の下を通る。

 橙から今度は灰色に変わったライズの白衣を眺めながら、リィエンは平坦な道を歩く。


 右足、左足、と。

 単調な動作を続けていると、つい。またあの不安が頭をもたげてくる。



(事態は、思ったより深刻しんこくかもしれない)



 思った瞬間、妙な焦燥しょうそうが込み上げてくる。


 深刻なのは、自分のことではない。

 ライズのことだ。


 今、彼は——。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る