第6話 帰途に着いた男は驚いた(館がなくなる)愛人の家族を助けたのは
半日近くの道のりだった、馬車を走らせて久し振りに屋敷に到着したロアンだが、目の前の光景に驚き、しばし、その場に立ち尽くしていた。
大勢の職人らしき人間が出入りし、屋敷の半分近くが取り壊され、庭にはたくさんの資材が運び込まれているのだ、屋敷の改装というよりは取り壊しているようにも見える、門をくぐろうとしたときだ。
足音が近づいてくる、振り返ろうとしたとき、おいと声をかけられた。
「あんた、部外者は立ち入り禁止だ」
野太い声に振り返ると大柄な作業着姿の男が近づいてきた、自分は、この屋敷の住人だ、ロアンの言葉に男は首を振った。
「見てわからないのか、邪魔だ」
男の言葉に驚いた、何をしているんだと尋ねると職人達の宿舎を建てるという返事が、工房だという、働く人間の為の施設だという、信じられない、両親は屋敷を売ったのか、そんな話は聞いていない、何か事情があったのかもしれない、いやそうだとしても自分に何の相談もなく、おかしいではないか。
両親は今どこにいるのか、だが職人は工事を請けただけで、責任者に聞いてくれと素っ気ない答えるだけだ。
館だけではない、家具もすべて売却、処分されているという、自分が別荘で暮らしている間に、一体何があったのか。
責任者に会おうとしたが、今日は午前中に顔を出しているので、こちらには来ないだろう、明後日には来ると言われ、ロアンはがっくりとした。
落胆して馬車に乗り込み、愛人の待つ別荘に帰ろうとしたが、再び、ここを訪ねることになると、時間もかかる。
近くのホテル、いや、宿に泊まろうと考え、ロアンは自宅へ戻るのをやめた。
一人で宿に泊まるなど初めてだ、出される料理も酒も物足りないと思いつつ、仕方ないと諦めていると視線に気づいた。
「隣、よろしくて」
声をかけてきたのは女だ、胸元を大きく広げた派手な色のドレスと化粧、娼婦だ。
こんな宿で珍しいなと思ってしまう、だが、暇つぶしにはいいかもしれないとロアンは女に向かって笑いかけた。
自分は、ずっと眠っていたのか、目を開ける、女の声、妻だ、ほっとした、よくなったのだ、自分だけではない、家族の皆、具合が良くなかったはずだ、病気は治ったのか、大丈夫なのか聞こうとした。
子供達は、自分たちもだが、子供も熱で苦しんでいたことを思い出した。
「ロリアのところだよ」
その言葉に男はかっと目を開き身体を起こそうとした、自分を覗き込む妻の顔を見ると馬鹿っと叫ぼうとした、だが、声がはっきりとでない。
「あいつは、娘は俺たち家族を捨てたんだぞ」
すると妻は違うよと、そしてテーブルを指さした、駕籠の中には果物が山のように盛られていた、いや、パンやハムの塊、野菜が置かれている。
「侯爵家から使いが来てね、あんたが寝込んでいるときに医者も来てくれたんだ」
その言葉に男は、はっとした、熱で苦しんでいたとき、誰かが家族以外の、あれは夢ではなかったのか。
「奥様がね、医者を」
誰だ、夫の疑問に妻はジョゼフィーナ様だよと答えた、嬉しそうに。
「内包物か驚いたな、しかも、これは」
綺麗でしょうと少年の笑顔に男爵の表情は固まったままだ。
茶会が終わった後、別室に案内された少年と夫妻は男爵の様子に意味がわからず、ただ見守っているだけしかできない。
価値のない宝石だ、現実に店でも商品にできない品として扱われていたのだが、偶然、婦人の目に止まり、ただ、同然の値で手に入れたのだ。
「僕、台座が欲しいんです、この石に」
少年の言葉に男爵はそうかと頷いた、だが、次の言葉を聞くと男爵の視線は婦人に釘付けになった。
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