第10話 なぜ、3カ月で10冊も書籍を出版できたか? 2

 前回の続きを述べて参りましょう。

 私がなぜ3か月というかくも短い期間で10冊も書籍を出版できたかというテーマで述べておりますが、その大きな理由としてすでに原稿が多量にあった旨のことを述べております。

 しかし、ただ原稿があるだけでは出版にこぎつけられるわけではありません。

 少なくとも、一度公開して公衆の目に触れているという「実績」があることも大きい。これは、単にその原稿を書き置いていただけという状態より、明らかに著者の間隔としては大きい要素です。

 その「公開先」というのはこのカクヨムサイトであったり、あるいはアメブロなどの他媒体であったりもしますが、どこであれ、既に人目に触れていて誰かが読んでくれているという「客観的に立証できる事実」があればこそ、なのです。


 詩や短歌などは、誤植などの手直しや改めて推敲することによってより完成度が高まることもあります(前者はともかく後者は、必ずしも高まるとは限らない)。

 基本的には、そのまま掲載してもそれはさほど問題となるわけでもありません。むしろ下手な改変なんかするとかえって良くない場合もあるし、何より今度は「有償」でお読みいただくわけですから、そこはなおさらきちんとした「商品」にしないといけない。そこさえ押さえておけば、あとはきちんと手順に従ってやっていけばいいでしょう。


 とはいえ、こちらカクヨムサイトで書いているものをそのままの状態で紙媒体に出せばいいというモノでないことは、言うまでもありません。

 とりもわけても、リアルタイムで更新してきたエッセイなんかはまさにそう。

 書いた当時はそれでよかったものでも、今度書籍として出す段になった時点ですでに状況が変化しているわけです。また、カクヨム版などであればその都度情勢の変化をビビッドに表現していけばいいかもしれないが、書籍で紙に書いてしまうということになれば、そこを意識しないわけにはいかなくなるものです。

 そう言った、作品そのものが浴びる情勢の変化も踏まえ、単に誤植を直すといった話だけでなく、注を付けるとか、状況に合せてある程度本文をもいじる必要さえ発生してきます。その基準をどこに置くかは、その本の編集方針にもよります。

 その編集方針を左右するのは、題材となっているエッセイの内容、いや、ないようというよりもありようそのもの(少し洒落を入れてみました)に他なりません。

 この後書きますが、それは内容面だけの問題ではありません。実は形式面においても、本質的に変えていくべき要素があるのです。


 もう一つ、これは重要なポイントです。

 書籍化を意識されている方は、こここそをじっくりと押さえていただきたい。


 このカクヨムサイトで公開していたものであれ、ワードに下書き的に執筆している原稿であれ、書籍の枠に落とし込んでいくにあたってはレイアウト上大きく変化することによる「違和感」が否応なく発生します。

 特に、横書が縦書に変わるとき!

 縦書同士や横書同士であっても、レイアウトが変われば変化します。

 いい悪いの問題ではなく、著者の心理の問題として、決して無視しえないものであることをまずは御理解いただきたい。情緒や気持ちといったものに対してあまり重きを置かない書き方をする私が言うのも難ですけれども、ここは声を大にして申し上げておきたい。

 これは単に悪いことばかりでなく、良い影響を与えるきっかけともなります。

 形式面においてもそうです。

 自由詩や短歌のような作品群であれ、普通の文章によるエッセイや小説、ノンフィクション、評論など、その文章の分野の如何を問いません。


 とにかく、形式や内容を問わず、レイアウトが変わることによって、その作品のイメージは大きく変化するものです。

 試しに、同じ文書を内容を一切変えず、書体を変えてみてください。

 カクヨムに限らず、どんな作品でもいい。詩でも短歌でもいいです。

 それをワードに落としてみて、まずは書体を変えてみましょう。明朝を太字にするだけでもいい。明朝を、例えば丸ゴシック体にしてみるといいでしょう。

 それだけでも、大きくイメージが変わります。

 縦書にすれば、書体を変えなくてもそれだけでイメージが大きく変ります。そこをさらに書体も変えれば、なおのこと。面白いくらいに、変化しますよ。

 目先を変えるということが、いかに良くも悪くもその後に影響を与えるかが実感できるはずです。


 自らが書籍として出版するための枠組(レイアウト)ができたら、次は、その枠組の中での見え方をチェックします。実は、枠組を変えることによってそれまで気づかなかったミスに気付くようになるものです。そこからは単に明らかな誤植などを直すだけでなく、全体の形式面での構成をどうするかまでを視野に入れ、本としての体裁がきちんと整えられるようにしていきます。


 私が詩集を出版の軸に据えた大きな理由の一つに、この校正段階での労力の問題があります。普通の文章を作品として出していく場合、どうしても誤字脱字類の確認に時間がかかりますが、詩や短歌などについては、実はこの部分にかける時間がかなり短縮できるというメリットがあるためです。

 その代わり、行替えなどの見える部分でのチェックをより厳密にしていく必要も出て参りますが、それは案外見えやすくなっていることに加え、ある意味積極的な改変もできるからです。もっとも校正段階でやりやすい分、下手を打つと作品として出したときにそのミスが大きく目立ってしまうというリスクは幾分高くなります。


 こちらカクヨムのサイトに限らず、ネット上に公開している文書というのはこの枠組で読みやすくなるように行替えや段落替えを頻繁にする傾向があります。それはもちろん、カクヨムサイトでお読みいただく皆様に対する配慮と誠意のたまものであります。というと、いささか大げさかもしれないが、そのくらいの気持ちで公開しないといけませんよ。

 無料だからまあいいや、で済む話ではありません。


 しかしこれを本にするとなれば、ましてや文章の作品となってくれば、本として読んだときに読みやすくなるようにしていかなければなりません。

 そうなると、元の段落替えのままで済ませるわけには決していかなくなります。

 段落替えを詰めたり、句読点のうちの読点、つまり「点」をできるだけ減らすような措置を取ることもあります。基本的に読点は文章を読みやすくするためにあるものではありますが、多ければ多いほどいいというものではありません。

 最初に書いた段階で結構息継ぎ的に「点」をつけまくっていた作品も、私の場合は存外あります。そんな時はできるだけ「点」を減らし、一分を読みやすくなるように調整します。逆に句点、つまり「マル」については、読点が多くなる分かえって少なくなってしまう傾向にあります。そんな場合はもちろん、文を「マル」で分けて読みやすくなるように変えていきます。


 いずれにせよ、レイアウトを変えることでそれまでマンネリ的な状態下で気付かなかった問題点が噴出してくるものであるということで御理解いただければよろしいかと思われます。


 さて、なぜ私がここでこんなことを必死で書いたかと申しますと、これはもう、私自身がこれまで小説を3冊に加え、十数年前には本名名義で旅行記の形式をとった自伝的な本をすでに出版していて、その出版過程での自著の校正の経験があるからこそであります。

 つまり、これまで次作であれ他の方の作品であれ、校正を通して本をつくるという経験があればこそ、自分で自分の作品を「編集」していくにあたってその時の経験が大きく活きているのだということ。

 これは本を出した経験のない人にはいささか苦しい作業かもしれません。

 私という例については、そこに大きなアドバンテージがある状態にいる者であるという点について、どうか皆さん割引いてお読みいただければ幸いです。


 ただ、経験がない故に気付かれることも多々あるかとは思います。

 書く言う(!)私自身、編集者としての経験はありませんし、出版社に勤務した経験もありません。ただし、勤労学生時代印刷会社に勤めていた折に本の版下をつくる経験もしておりますので、それが確かに活きています。

 編集者や出版社勤務がないからこそ見えてくるものもあるのです。

 もっともおまえは印刷会社で写植機を使って版下をつくる経験をする過程で校正もやっていたのではないかと言われれば、それは確かにそうです。

 角度の違う仕事をしていたということは、そのものずばりの仕事の経験がなくても、また別の視点から見ていたことが大きく役に立つというものです。


 ちょっとまとまり悪くなりましたが、私の場合はここまで縷々述べてきたアドバンテージがあったからこそ、短期間で多数の本を出せたというわけで、確かに誰にも一般化できることではないかもしれません。

 しかしながら、この過程を御紹介することで、自己出版による本の作り方だけでなく、さまざまな仕事の過程におけるノウハウも得られるものと思われます。

 そういう意味では、これを使って何かを成し遂げてやろうというよりも、まずは軽く読み物のように読んでいただければと存じます。


 次回もまた、この話の続きをさせていただきます。

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