episode13.恋心(番外編もあるよ)

 俺––山瀬やませ 海斗かいとの幼馴染の春樹はるき結菜ゆいなは校内でも有名なバカップルである。


 俺たち三人のもう一人の幼馴染、古井ふるい かえで。そして、友達の神崎かんざき りんが描く、恋心の一話に過ぎない。




「おはよー。神崎ちゃん」


「おはようございます。今日来ちゃって大丈夫だったんですか?三人の幼馴染なんじゃ……」


 神崎さんが申し訳なさそうに二人を見る。俺は見てくれない。本当に……俺、何かしたのかな……。


 俺、また何かやっちゃいました?とか考えて現実逃避してないとちょっと辛い。


「良いんじゃね。楓はそんなの気にするやつじゃないよ。大雑把&男勝りな男の子だから」


「女なんだよなぁ……」


 春樹の言う通り男まさりではあるが、アソコは付いてない。でもまあ胸も付いてないので判断は難しいところだけど。


「よーし!取り敢えず行こう!敵陣は病院寺にあり〜!」


 どこだよ病院寺。本能寺とも別に似てないよな。あまり大きくない病院だが、個室はいくつかあり、楓はそこの一つに入院してるらしい。


 ––––コンコン


 結菜がノックすると、奥からどうぞーと声が飛んでくる。


「久しぶり!って……お前…………右半身ボロボロじゃねぇか。大丈夫かよ……」


「春樹の目はどこについてんだ。怪我してんの左足だけじゃねーか」


 ギプスを巻いてはいるが、動けないほどじゃないのか、松葉杖でこちらに歩いてくる。


「なんだ……その、大丈夫か?」


「海斗、私のこと心配してくれてるの〜?もしかして私のこと好き?私はずっと海斗のこと好きだったよー」


 俺が応答する間も無く、松葉杖を離して俺に抱きついてくる。ドキッ?!としないこともないがこういう人なのだ。


「ああ、分かった分かった。取り敢えず座れ。安静にしとけよ」


 肩を持って、ベッドに座らせる。スキンシップが激しいペットみたいなもん。


「本当に久しぶりだね。小学生ぶりじゃない?」


「でも電話とかはするからあんまり久しぶりって感覚ないけどねー。誰かさんは出てくれないけど。そう言えば春樹と付き合ったって本当?」


 楓が結菜に近づく。いつまで身内で会話続けんだ。神崎さん困ってるだろ……。


「そうだよ!付き合って一年と17日と4時間と28分!」


「刻むねー」


 刻みすぎだろ。微塵切りでもそこまで刻まんわ。と、神崎さんが俺より前に出る。


「あのっ!初めまして!神崎 凛って言います!友達やらせてもらってます!」


「初めましてー。凛ちゃんだよね。聞いてるよ。お淑やかなんだよね。凄いなー。私男まさりな性格だからさー。つい熊とかと戦っちゃう」


「つい何やっちゃってんだよ」


 つい癖でツッコんでしまう。「つい」って怖いね。


「あれ?今は海斗がツッコミやってるんだ。昔は私が殴って、海斗が回復して、結菜が踊ってたのに」


「阿鼻叫喚過ぎんだろ。鳥獣戯画ちょうじゅうぎがか」


 前後の文に相互関係全く無かったんだけど。俺がツッコミやってることと、楓が殴ってることの関連性とはこれいかに。


「鳥獣戯画とは、京都市右京区の高山寺に伝わる紙本墨画の絵巻物。国宝。鳥獣人物戯画とも呼ばれる。現在の構成は、甲・乙・丙・丁と呼ばれる全4巻からなる。Wikipedia3勝」


「急にどうした?!」


 春樹がロボットのように話し出す。あとWikipedia何に勝ったんだよ。ああ、クマか。春樹に結菜も続く。


「春樹とは、2007年生まれ、日本在住の人間国宝。アマテラス・ボルジャックマンとも呼ばれる。現在の構成は、甲・乙・丙・丁と呼ばれる全4巻からなる。私ペディア賛賞さんしょう


「どっからツッコめばいいか分かんねぇよ!」


 アマテラス何ちゃらの伏線回収もいらないし、現在の構成って何だよ。あと参照のくだり上手すぎだろ。


「ねぇ、凛ちゃん、この三人いつもこんな感じ?」


「ええ、まあ、大方こんな感じですよ。そう言えば、楓さんはなぜ怪我を?」


 神崎さんがキョトンと首を傾げる。


「あー、それ聞いちゃう?ふふん、何から話そっかなー」


 わざとらしく俺の方をみながら頬を膨らます。その仕草に沸々と怒りが湧いてくる。


「俺、あんまり聞きたくないや」


「ねえ、海斗のそれ、まだ治ってないの?」


「治ってないって何だよ。病気云々って話なら楓の方が重症だろ。話終わったら呼んでくれ。外出とく」


 俺は空気が重いことを知りながらも、早口で捲し立てて、病室を去った。聞きたくねぇよ。


 誰が好きこのんで好きな人が傷つく話を聞かなきゃなんねぇんだ––––。




《番外編》

『イチャイチャのラブコメを私に見せつけないで!』


「あーあ、海斗ってグロいのとかも無理じゃないのに、何で聞こうとしないんだろ……」


「昔っからだよな。悪いな神崎さん。アイツも悪いやつじゃないんだけどな」


 春樹くんがへへっと、くたびれたように笑う。友達想いの笑顔なのに何か裏があるみたい。


「山瀬くんが優しい人なのは知ってるつもりです。それで、楓さんはなぜ怪我をされたんでしょうか?」


「いやー、子猫が木登りして降りれなくなっちゃったみたいで……降りる時にこう、グキッと」


 あははーっ、とさも気にしていないようか笑顔を見せる。本当に良い人なんだ。でも、さっき山瀬くんのこと好きって言ってたし……恋敵になるのかな?でももしかしたら友達の好きかも知らないし……。


「楓さんは山瀬くんのこと好きなんですか?」


「おっ、恋バナしちゃいますー。私はね、もう大好き!すごい優しいの。私が怪我したらすぐ駆け寄って手当してくれるんだよ。だけど…………海斗は私のこと嫌いみたい。電話も出てくれないし、あんな目……誰にもしないのに」


 確かに、さっき楓さんを睨んだ山瀬くんの目は怖かった。言葉もいつもと違って強かったし、表情も笑ってなかった。


 楓さんは悲しそうに俯く。山瀬くんのこと本気で好きなんだな……。私、何やってるんだろ。


 最近は赤井さんが山瀬くんと仲良くしてて、体育祭からクラスも赤井さんの恋を応援しようみたいになってて……。出会ってすぐの赤井さんが一緒にお弁当食べてて。


 私は何も出来てない。楓さんみたいに好きだって言える勇気がない。


「どうしたの?もしかして……凛ちゃんも?」


 楓さんが結菜ちゃんに説明を求めて、コクコクと頷く。恋バナで好きな人が被った時の気まずさは異常。けれど、私は楓さんや赤井さんのライバルにすらなれない。


「あちゃー、こりゃダメだ。凛ちゃんは強敵だ。ほれほれ、どこまで行ったか言っちゃいなよー」


「違います、そんなんじゃないです。本当に、何にも出来てなくて……私も、何とも思われてないんじゃないかって、不安で……」


 言ってるうちに甘えたこと喋ってるって気づいちゃう。何言ってんのかな。ちょっとでも希望があるなんて思ってる自分がひどく気持ち悪い。


「ごめん楓、先に謝っとく。ごめん。本当は俺から言うべきじゃないんだろうけど、ここで神崎さんが諦めたら、誰も幸せになれないから」


 私が「は?」と疑問符を打つ前に春樹くんは喋り始める。


「海斗は神崎さんのことが好きだ。何でかは正直分からない。理由を聞いたらちょっと機嫌が悪くなる。それでも、避けられてるって気づいたら割と落ち込んでるし、好きとも断言してる」


 私は春樹くんの言葉に目を丸くする。私のことが好きだと断言してるとまで言った。でも実感が湧かない。春樹くんの言う通り理由だって分からない。今だに山瀬くんを下の名前ですら呼べてないのに。


「何かしたら好きになるわけでも、何もしなかったら好きになってくれないわけでもない。そんな悲観することじゃないと思うぜ」


 何でここまで言ってくれるのだろう。春樹くんは楓さんとの関わりの方がずっと深いはず。


「え? 答え出ちゃったじゃん……私の入る余地……いや、ここは背中押すべきなのかな。ほら、もう話終わったでしょ、海斗んとこ行きな!」


 楓さんに両肩を持たれる。左足を骨折してるからか、片方だけに力がかかってるのに、その手はどちらも重い。


「ちょっと待って……ずっと黙ってたのに急に割り込んでごめんなんだけど、私はあんまりお勧めしない。今行ったら、春樹が傷つくことになるから、行かせたくないかな」


「結菜?俺が傷つくって、どういうことだ?」


 結菜ちゃんの言葉に、何か大事なことを見落としているような気がしてならない。


「それは……言えないけど、私は止めたよ。だから、行くっていうのならこの後何があっても春樹を恨んでほしくない」


 見たことない顔で、結菜ちゃんが私を見る。真剣そのものなのに、どこかちょっと私を慮る表情が見ていて苦しい。


 でも、答えを貰って、あと導くだけなのに、今まで何もしなかったと嘆いていたのに、ここで行かないのは男が廃る。女だけど。


「うん、分かった。よく分かんないけどありがと」


 私と春樹くんは二人で山瀬くんに会いに行った。




《次回、一章完》(一章とかあったんだ)

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