episode2.ショッピング(ナンパもあるよ)

 俺––山瀬やませ 海斗かいとの幼馴染の春樹はるき結菜ゆいなは校内でも有名なバカップルである。


 これはそんなバカップルの、ショッピングの1話に過ぎない。


「お待たせー!」


「今来たところだよ」


「いや春樹、俺たち2時間前から待ってんだよ」


 一緒にいこうと言われ5時に叩き起こされた俺はブチギレていいだろう。結菜は時間通りである。


「結菜を待ってるんじゃない。幸せを待ってたんだよね」


「結局待ってんじゃねーか」


 結菜の提案で早速服を選びに行く。ショッピングモールなので大人っぽいものから子供っぽいものまでよりどりみどりだ。


「これとこれどっちの方がいい?」


 出ました男子を悩ませる質問第2位。因みに1位は私と仕事どっちが大事なの?です。3位はなんで私が怒ってるか分かる?である。


 結菜は右手に袖が大きく開いている赤いスカート、左手には薄ピンクのロングスカートが持たれている。さて、春樹はなんと答えるのか。


「俺は結菜がいい。好きだ。結婚してくれ」


「はいっ!」


 カテゴリーエラーとかのレベルじゃないだろ。あと返事すんなよ。こんなスカートよりペラッペラなプロポーズなら好きでもOK出すな。


「俺が右を貰う。お揃いにしよう」


 揃ってるのは頭の悪さじゃ。ペアルックに謝れ。


「じゃあ海斗はこのミニスカにしよっか」


「するかアホが」


 初めて女の子に勧められる服がミニスカとか俺惨め過ぎんだろ。


「ほら、俺もこのスカート試着するから」


「やだよ。店に迷惑だし」


「大丈夫だよ。今日は試着した服全部買えるぐらい持ってきてるから」


 出ました、実は結菜、社長令嬢なのである。しかも大手企業の。財閥までは行かないが、少なからずいなくなれば日本の景気が怪しくなるほどには金持ちである。


「なんてご都合主義だ!ざけんな!」


 俺は半端無理矢理試着室に押し込まれる。因みに春樹は自ら入ってった。1番必要な結菜が入ってないのバグかなんかだろ。


 ベルトを外しズボンを下ろす。クッソ。すね毛剃れてねえ。渡されたミニスカは想像以上にミニミニで、ボクサーパンツを隠すので精一杯といったところ。股がスースーするとかじゃなく、銭湯でタオル巻いてる感覚。


 鏡で見る自分の姿は滑稽すぎる。中学では春樹と一緒にサッカー部に入っていたこともあってか肉付きのいい太ももがやけにセクシーだ。セクシーってなんだよ。


「着替え終わったぞー」


「俺もー」


「じゃあ行くよー!せーのっ!」


 俺は自分の滑稽さを紛らわせるため春樹の方を見ながらカーテンを開けた。


「ブブッッッ」


「おい!履けよ!何普通にジーパン履いて出てきてんだ!」


 そこにはジーパンのポケットに手を突っ込みながらロングスカートを持つ春樹の姿があった。マジいい加減にしろよ。


「似合ってるぞ。太ももがセクシー」


「うんうん。華やかさが出てるよ」


 黙れマジで。俺はズボンに履き替える。悪夢だった。冗談抜きで。


 その後は時代遅れのタピオカを飲んだりドーナツを食べたりして時間を過ごした。


「春樹、トイレ行かない?」


「いいぞ」


「春樹、もしかして私を置いていくの?1人にしないで……」


 結菜の必殺技の上目遣いだ。俺じゃなければ普通に漏らしてたと思う。


「行くぞ春樹。さもなくば俺のレールガンが結菜に誤射してまう」


「誤射するまと言っちゃってる時点で狙ってるじゃん」


 結菜の笑い声を背中で受けながらトイレに向かう。用を足し、結菜のもとに戻ると金髪のチャラそうなやつが話しかけていた。ナンパって今時あるんだな。


「いいじゃーん、俺らの方が楽しませられるって」


「おい、俺の結菜になんか用か?」


 既に我を忘れかけている春樹を横目に俺は念の為動画を撮る。


「だっ、誰?貴方たち?」


 おっと、結菜はここで演劇スイッチが入ったみたいです。


「忘れたのかよ!春樹だよ!6年前に引っ越した!」


 春樹は引っ越してません。しっかり小学校から高校までほぼ毎日会ってます。


「えっ?もしかしてハルくん?」


 誰だよハルくん。


「おい、なんか奇跡の再会果たしちゃったっぽいぞ」


「関係ねーだろ。な、結菜ちゃん、兄ちゃんたちの方が楽しいこといっぱい知ってるから」


 無理矢理春樹を剥がし、金髪は結菜の肩を掴んだ。ヤバイッ!


「おいゴラァ!あんま調子乗んなよ?誰に許可取って結菜に触れてんじゃボケが」


「おい落ち着けって、とりあえず深呼吸な?」


 結菜の肩を持ったと同時に春樹が掴みかかる。俺はそれに掴みみかかる。春樹は温厚なのに結菜のこととなると多分銃で打たれても死なない。


「何?やんの?俺英検一級だけど?」


 英検関係ねーだろ。あとそれはすげーな。金髪は挑発しつつも春樹の圧に押され結菜から手を離す。


「上等じゃゴラ!二度と女が近寄れねー顔にしてやる!」


 俺は両腕で春樹を抑える。もうこの猛獣誰か引き取ってくれませんか?


「いいじゃねーか。タイマンじゃ」


 金髪が春樹の胸ぐらを掴んだ。よし引っかかった。


「お兄さん。俺動画撮ってるんです。警察行きたくなければ和解にしません?」


「チッ、そっちが喧嘩売ってきたくせに。クソが」


 捨て台詞を吐きながら、背中を見せて彼方へ行ってしまった。こうするしかないから俺がショッピングについて行くのだ。


「まだ終わってねーぞ!逃げんのか!」


––チュッ


 まだ熱のある春樹に結菜がキスする。これが唯一沈ませる方法なのだ。シンデレラか何かかな?その後も少し遊びお開きとなった。


「海斗、今日はありがとう。これ、お礼的なのだからあげる」


 結菜に紙袋が差し出される。


「マジか、さんきゅ」


 いつもはそんなのないのに。どういう風の吹き回しだ?


 貰った紙袋から折りたたまれて出てきたのは……あのミニスカートだった。

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