第20話 隠れ家での取引

 放課後、オレは公園の近くにある喫茶店『隠れ家』へ来ていた。


 鋼の剣を入れた父の遺品のゴルフバッグを傍らに置きコーヒーを飲んでいると、待ち合わせ時間ちょうどに香織パパが現れた。そして、その後ろには見知らぬ女性が立っている。


「創真君、待ったかい?」


「あっ、いえ、僕も今来た所です」


 オレが後ろの女性を気にしていると、香織パパが言った。


「彼女は東雲君、私の副官だ。今後の取引きは彼女が窓口になるので宜しく頼むよ」


東雲雪シノノメユキと申します。大和様、どうぞ宜しくお願い致します」


 ニッコリ微笑み名刺を差出す彼女は、20代後半の仕事が出来る美人秘書って感じだ。


「大和創真です。よろしくお願いします」


 オレはドキドキしながら名刺を受取ると、3人はテーブルに着き取り引きが始まった。


 最初に香織パパが話を切り出す。


「いや〜驚いたよ。こんなに早く依頼を達成してくれるなんて!」


「ハハハ、今回は運が良かったんですよ〜」


「それで、例の物を見せてくれないか?」


 まるで、ヤクザ映画の取引きの様である。


 オレは、ゴルフバッグから鋼の剣を取出しテーブルの上に置く。

 ちなみに、ここは隠れ家の1番奥の席で他の客からは殆ど見えない。


 香織パパは鋼の剣を手に取り、鞘から抜いて刀身の確認を始める。


「創真君、これは西洋のロングソードだね?」


 鋼の剣は一般的にロングソードと言うらしい。


「はい、短剣より良いかと思いまして」


「これは良い品だ、感謝するよ!」


 香織パパは嬉しそう笑ったが、オレは安物の量産品とは言えず最悪感を募らせた。


「それじゃ、早速支払いの手続きなんだが、東雲君頼むよ」


 東雲さんは携帯バッグをテーブルに置き、中から色々な物を取出した。


「大和様、真壁閣下から事情を伺いまして、勝手な事とは思いましたが、取引に必要な備品を、こちらで用意させて頂きました」


 テーブルには、携帯バッグ、ペン、ハンコ、各伝票、名刺、電卓、スマホが並べられている。


「大和様、今回の取引を通して、これらの備品について説明をさせて頂きますが、よろしいですか?」


 テキパキとして押しが強い。やっぱり出来る秘書だ。いや副官だっけ? オレはうなずくしかなかった。


「では、今回の支払いが200万円になりますので、請求書と受領証、それと登録証に私の言う通りに記入して下さい」


 え〜と請求先はゴブリン対策室 真壁様、6月15日、ロングソード、数量は1、税抜き200万円、最後に大和商店でハンコを押して伝票を切り取って渡すっと。

 あとは登録証に屋号と代表名と口座番号でハンコっと。


「はい、良くできました。次は名刺を見て下さい」


 名刺を見ると、大和商店 武具取扱商社 代表大和創真と書いてある。


 大和商店って商社なんだぁ〜。それじゃ〜オレは商社の社長かぁ〜。少し偉い気分になった。


 更に、名刺の下にはスマホの電話番号とメールアドレスが記載されている。


「大和様、その番号はこちらで用意したスマートフォンの番号になります。このスマートフォンは軍仕様となっており、磁気や盗聴・セキュリティが強化されておりますので、安心してお使い下さい」


 オレは何に安心するんだろうと思いながらうなずく。


「大和様、説明は以上になりますが、何か質問はございませんか?」


「あの〜、僕はスマホの使い方が分からなくて……」


 すると、香織パパが割込んできた。


「それは問題ないぞ、このあと香織がここへ来る事になっている。香織から使い方を聞きなさい。それじゃ、私達はこれで失礼するよ」


 2人は布に包んだ剣を抱え、オレの支払いも済ませて、いそいそと喫茶店を出て行った。


 それから5分後。


 カラン、コローン!


 喫茶店の入店時に鳴る心地よい音がして、香織が店の中に入ってきた。そして、オレを見付けると、満面の笑みを浮かべて駆け寄って来る。


「創真君、待ったぁ〜?」


「いや、5分くらいかな」


「ごめんね〜、パパから電話が来るのが遅くって、学校から急いできたの〜」


 どうやら、学校で待っていてくれたらしい。なんていい子なんだぁ〜。


「香織、何でも注文していいよ」


 オレはお金が入ったのでカッコよく決めた。


「えぇ〜、創真君お金は大丈夫なの〜?」


 香織はパパから詳しい事を聞いていない様だ。


「ああ、バイト代が入ったし、スマホの使い方を教えてもらう訳だしね!」


「それじゃ〜お言葉に甘えて、フルーツパフェを頼んじゃおうかなぁ〜」


「ああ、いいぜ!」


 オレは胸を張って答えた。


 店員さんが来ると、香織がフルーツパフェを注文し、オレもチョコレートパフェを追加注文した。


「やだぁ〜、創真君、お揃いだね〜!」


「ハハハ、そうだな」


 言葉とは裏腹に、デートみたいで凄く嬉しい。


「ところで創真君、パパから喫茶店で創真君にスマホの使い方を教えて欲しいって頼まれたんだけど、どうしてパパが創真君に?」


 ゲッ、あのおっさん、何にも話してね〜のかよ!?

 オレは交渉術のスキル頼みで、つじつまを合わせる事にした。


「あのね香織、先日のゴブリンの件で、君のお父さんと定期的に情報交換する事になっちゃってね、オレがスマホを持ってないもんだから、軍のスマホを支給してもらったんだ」


 うん、ウソは言ってないぞ!


「な〜んだ、そういう事かぁ〜」


 香織はすんなり納得してくれた。


「じゃあ〜、早速始めるわよ〜」


「はい先生、よろしくお願いします!」


 オレは敬礼して、軍支給のスマホを香織に差し出した。


 香織は画面を開くと、対面では話しにくいと思ったのか、オレの隣りに席を移す。


 すご〜く近いんですけどぉぉ〜!?


 隣りから見ると、胸の膨らみが強調され、視線のやり場がなくなる。

 目を閉じれば香織の香りを感じる〜なんちゃってじゃね〜よ。頭の中に妄想がだんだんと広がっていく。


「創真君、聞いてる?」


 オレは、香織の声で我に返った。その後、色々な説明を受けたのだが半分しか理解出来なかった。


「創真君、分かったぁ〜?」


「はいィィ〜!」


 オレは冒険者ギルドと同じだなぁ〜と思いながら、香織と楽しくパフェを食べた。


 喫茶店を出て香織を駅まで送り届けると、さよならの挨拶を交わして別れた。しかし、香織は改札口を過ぎても、こちらを振り向いて何度も手を振っている。


 なんて可愛いいんだぁ〜!


 オレは幸せ一杯の気分で家に帰った。



✒️✒️✒️

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