@ahiu_085p
野村アルモン
第1話
「ねぇ、あなたはこの世界で生きていける?」
それは入学して一月経った頃のことだった。
教室はワイワイと賑やかで、僕も学校に慣れてきて楽しく過ごしていたのだが……
そんな時に突然僕の席に近づいて来たクラスメイトの少女が声をかけてきた。
「……え?」
僕は思わず間の抜けた声を出してしまったが彼女はそんな僕を見てさらに言葉を続けてきた。
「この世界は生きていくには辛すぎない?そう思わない?」
彼女はクラスの女子の中で少し浮いた存在の美人だった。
黒髪のストレートヘアと整った顔立ち、それに制服の上からでも分かるスタイルの良さは男子の注目を集めるには十分なものだった。
そんな彼女が僕と二人きりで話をしているということはそれだけ注目を引いたが、僕はそんなことお構いなしに彼女の口から飛び出した言葉に釘付けになった。
「え!?えーっと……」
(いきなり何を言い出すんだろうこの子……)
「……この世界で生きていくのは辛い?」
僕が返事に困っていると彼女はさっきより少し大きな声でそう言ってきた。
「……はい?何?」
(いきなり何言ってるの?)
「ねぇ、あなたはこの世界で生きていける?」
彼女は少し語気を強めてまたそう聞いてきた。
「……は?」
僕がそれに戸惑っていると彼女は少し悲しそうな顔をしたので僕は思わずこう言っていた。
「まぁ、生きていけると思うけど……」
「ふーん、そうなんだね」
それを聞いて彼女は何故か少し安堵したような表情をして呟いた。
「それじゃあ、今からあなたのアカウントを凍結するわね」
「は!?」
(なんでいきなり!?)
僕がそう言うと彼女はまた少しだけ悲しそうな顔をして僕にこう告げた。
「あなたがこの世界で生きていけるのなら私はそれを尊重したいの。でもね、この世界を生きていくのが辛いのなら……悪いけどアカウントを凍結させてもらうわ」
僕が呆気に取られて何も言えずにいると彼女は僕に向かって右手を差し出してきた。
その右手には白と黒のクラシックな形の機械が嵌められていた。
「ほら、早くしなさい」
「え?え?」
僕が混乱していると彼女はまたも少しだけ悲しそうな顔をして言った。
「私はあなたに……、お願い、私の手を取って」
彼女はそう言って僕の手を力強く掴んだ。
僕はわけがわからないままにその手を握った。
その瞬間に自分の中に何かが流れ込んでくる感覚を感じた。
そしてそれが終わると彼女はこう言った。
「……あなたのアカウントは凍結されました。これから先、この世界で生きていくことは難しいでしょう。それでも私はあなたを応援してるわ……じゃあね」
そう言うと彼女は教室を出ていってしまった。
「え、ちょ、ちょっと待ってよ!アカウント凍結ってどういう……」
僕が彼女に問いかけようとしたその瞬間に僕の手首が光った。
「え?」
(何これ?)
僕が困惑していると突然頭の中に機械的な声が響いた。
『ワールドスコアが上昇しました』
「は?」
(え?なにこれ?どういうこと?)
『あなたの社会貢献度は0から1に変わりました』
「え?なんで?」
(僕のアカウントは凍結されたはずじゃ……)
僕が呆然としているとまた頭に声が響いた。
『あなたのワールドスコアが10万を超えました』
「はい!?」
(さっきからなんなの!?意味分かんないんだけど……)
僕は何が何だかわからず混乱していた。
すると次の瞬間にまた頭に声が響いた。
『あなたの社会貢献度が15万を超えました』
『あなたのワールドスコアが25万を超えました』
『あなたの社会貢献度が40万を超えました』
『あなたのワールドスコアが50万を超えました』
『あなたの社会貢献度が60万を超えました』
『あなたのワールドスコアが70万を超えました』
「ちょ、ちょっと待ってって!!」
僕が困惑の中で叫んでいると今までのそれとは違う別の声がこう響いた。
『不正なプログラムを検知しました。規約に違反する行為があった為、アカウントを一時停止処分します。なお、規約に違反する行為が繰り返される場合、または政府が必要と判断した場合には予告なくアカウントを削除する場合があります。』
そう言い終わると今度は、右手に刺すような痛みが走りふと目をやると…
『96:00 一時停止解除まで』
「この数字は…?」
どうやら96時間経たなければアカウントを再使用することができなくなったらしい。
まずいことになったぞ…
これがないと何も買うことが出来ないし、公共の交通機関を利用することもできない。
防犯上、自分の家もアカウントと紐付いているから帰ることもできない。
これからどうしていけば…
あまりの出来事に思考が止まりそうになるが、そうは言ってられない。
どうにかしなければ。
とりあえず彼女を探して事の詳細とアカウントの凍結解除の方法を聞き出そう。
そう思い立ち、僕は彼女の行方を追う事に決めた。
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