第19話 宿が!

 そこにあった看板にはこうあった。


「ファッションホテル・第19話 宿が!へようこそ!

 あなたの夢の一夜を叶えます!

 お好みのお部屋をお選びください!

 料金は、3時間3000円から!

 延長は、1時間1000円です!

 ご予約は不要!

 お気軽にお越しください!」



 2人は、その看板の文字を読んで、顔を赤くし、やっとファッションホテルというのがどんなホテルなのか理解したのだ。


「え、えええ!」


 2人は、そのホテルに入るのをためらった。彼らは、そこがどんな場所なのか、恐れていた。しかし、他に泊まる場所がないという事実に直面し、彼らは覚悟を決めた。彼らは、深呼吸をして、そのホテルの入り口に向かった。


 しかし、派手な若い女性がどう見てうだつの上がらないモテなさそうな男と出てきて、そのまま足早に別の方向に歩くのを見て2人は固まった。


 しかし、吾郎が背中を軽く叩きフリーズを解除する。


「いらっしゃいませ」


 ホテルのフロントで、若い女性の画像を使った端末が笑顔で迎えた。


「こちらのメニューからお好きなお部屋をお選びください。」


 そのメニューには、さまざまなテーマのお部屋の写真と説明が載っていた。例えば、次のようなものだった。


「ジャングルルーム

 熱帯のジャングルを再現したお部屋です。ベッドの上には、ぶら下がる蔦や猿のぬいぐるみがあります。壁には、トラやゾウなどの動物の絵が描かれています。音楽は、ジャングルの鳥や虫の鳴き声が流れます。あなたも、ジャングルの王者になってみませんか?」


「プリンセスルーム

 おとぎ話の世界に迷い込んだようなお部屋です。ベッドは、白いレースのカーテンに囲まれた四柱式のベッドです。壁には、お城や馬車などの絵が描かれています。音楽は、優雅なオーケストラの曲が流れます。あなたも、プリンセスになってみませんか?」


「スペースルーム

 宇宙をテーマにしたお部屋です。ベッドは、星空のように光るシーツに包まれた円形のベッドです。壁には、惑星や宇宙船などの絵が描かれています。音楽は、宇宙の無重力感を表現した曲が流れます。あなたも、宇宙飛行士になってみませんか?」


 三人は、そのメニューを見て、目を疑った。彼らは、そのホテルのお部屋が、こんなにも奇抜でファンタジーなものだとは思っていなかった。彼らは、どのお部屋を選ぶべきか、迷った。


「どうしよう、どうしよう…どれも、すごく恥ずかしいよ」


「そうだね。でも、どれかは選ばなきゃだめだよね」

 瞳は困った様子で言ったが、楓はドンと構えていた。


「うん。じゃあ、一番まともそうなのは、どれだろうか?」


 吾郎が告げると部屋を決めることになった。


 3人はそのメニューを見比べた。

 しかし、どれもまともとは言えないものばかりだった。彼らは、しばらく悩んだが、後ろに気配を感じ空き部屋を見た。しかし、1部屋しかなかった。


 メニューの中一番シンプルそうなお部屋「モダンルーム。」のみだ。


「モダンルーム

 シンプルでスタイリッシュなお部屋です。ベッドは、白と黒のストライプのシーツに覆われたベッドです。壁には、抽象的な絵が描かれています。音楽は、ジャズやボサノバなどの曲が流れます。あなたも、モダンな雰囲気を楽しみませんか?」


「うん、これなら、まだいいかも。」瞳は、納得したように言った。


「そうね。」楓も同じく言った。


「これなら、少しは落ち着けるかも。」


 吾郎は申込を進めた。


「かしこまりました。」


 端末の合成声が小さくて発せられた。


「ファッションホテル・ラブリー

 モダンルーム 1001号室

 チェックイン 22:30

 チェックアウト 01:30

 料金 3000円」


 延長は1時間につき1000円。最長朝の9時まで可能。


 3人は、その料金案内を見て再び顔を赤くした。彼らは、そのホテルの料金体系が一般的なホテルとは違うことに気づいたのだ。彼らは、そのホテルが、カップルが一夜を過ごすためのホテルであることを、さらに強く感じたのだ。


 しかし、後ろの怨嗟の視線が気になり延長で申込み、お金をいれた。


「それでは、モダンルームの1001号室をご案内しますね。こちらのカードキーをお持ちください」


 端末から出てきたカードキーとレシートを受け取る。


「それでは、お部屋でお楽しみください」


 お辞儀する画像を尻目に足早にその場を離れ、早くその場から逃げ出したいと思った。彼らは、カードキーを持って、そのホテルの上り専用エレベーターに向かった。


「さあ、行こうか」


 吾郎はエレベーターのボタンを押した。


「うん」


 エレベーターの扉が開き、3人はその中に入った。


 エレベーターの扉が閉まる時に若い女が売り切れじゃん!と悪態をつく声が聞こえた。 


 3人はエレベーターの中で見つめ合った。特に2人はそのホテルのお部屋で、何が待っているのか不安に思った。

 彼らは、そのホテルのお部屋で、どう過ごすべきか分からなかったからだ。

 もしもとめられたらどうしよう?と。

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