第10話 間に合った?

 よりによって発表前夜に致命的なミスが発覚した。


「これは流石にまずいよね?全体の構造計算が狂っているよ。どうしよう・・・」


 楓がパソコンの画面を見ながら言った。

 念の為に構造計算を再度してみた結果だ。


「どうしましょう?明日の発表に間に合わせないといけないのに」


「吾郎、何か方法はない?私では思いつかないわ」


 困った顔で瞳が唸ると、楓が吾郎に向かって尋ねた。


「少し見てみるよ」


 吾郎は内心では混乱しながらもそれを表に出さず、パソコンの中にある父親の遺したソフトを使って、構造計算をやり直した。 

 元々建築士だった父親が使っていたパソコンで、入っているソフトは授業で使っているのより新しく、高機能のプロ用だった。  


 その様子を不安そうに2人は見つめる。


「僕たちは一緒に進めてきた。全員の力で解決しよう。大丈夫。少しずるい気がするけど、父が使っていたソフトだと何とかなるよ。妥協する所は出るだろうけど、何、まだ12時間もあるさ!さあ先ずは構造計算をし、動かした柱を何とかしてデザインを直すだけだよ!最初にボツにしたプランがあるからさ!あれは構造計算を俺が確認しているからさ。泣くなって!確かに楓に構造計算を任せたけど、本来俺と瞳もチェックしなきゃならなかったのをしなかったんだ。つまりみんなが悪いんだ!プランBはほら、ちょっと中2病かな?となったろ?あれならまだ間に合うさ!やり過ぎなところをポチポチっとさ」


 吾郎が真剣な目で言い、そんな彼の自然なリーダーシップに楓と瞳は心から尊敬の念を感じた。

 また、そのソフトの凄さに驚きつつ、励まされた瞳と楓は吾郎と一緒に作業に戻った。


 しかし、眠い目をこすりながらの作業は2人にはきつく、途中から船を漕ぎ始め、やがて寝てしまった。

 吾郎はそっとベッドに運ぶと毛布を掛けた。

 半分寝ぼけていたが、少し休みなと言ってそのまま寝かせた。

 2人の体はもう大人の女性といってもよいほど女を主張し、柔らかく理性が飛びそうだった。

 どうしてもお尻だけは触れてしまったが、そこに悪意はなかった。


 夜が明ける頃、ようやく設計は完成した。

 それは彼らが思い描いていたものとは少し違っていたけれど、それでもなお美しく、強固な構造の体育館のデザインだった。


 テーマは私立お嬢様高校体育館建て替えプレゼンだった・・・


 瞳と楓が目を覚ました時、彼女たちはまばゆい朝日とともにベッドに寝ていることに驚き、ふとディスプレイを見るとそこに表示されていた完成したデザインを見つめた。


「これ・・・吾郎が直したの?」


 瞳が驚き楓も感嘆の声をあげた。


 その瞬間、吾郎は優しく微笑んだ。


「2人が寝ている間に、少し修正しただけだよ。」


 そして彼女たちは自分たちの格好を見た。流石に寝巻きではなく部屋着だったが、着衣に乱れがないことに気づいた。

 吾郎は彼女たちを大事にしていたのだ。

 彼女たちは毛布を掛けられていたことにも感謝した。


 しかし、彼女たちが本当に望んでいたのは、吾郎からの愛の告白だった。楓と瞳の協定はあくまでも吾郎が告白してきた方が付き合うとしてしまっていた。

 つまり、自分たちからは告白できなくしていたのだ。

 だから、さりげないボディータッチをしたり、わざと髪をかきあげたりと、女性としての魅力をアピールしていたが、これまでは空振りだった。


「吾郎、すごいよ!君がいてくれて本当によかったぞ!」


 その時2人は涙を流しながら吾郎に近づいた。


「ありがとう、その、寝てしまってごめんね。でも、これからは一緒に頑張ろうね」


 謝りつつ彼女たちは吾郎を見上げた。


 そして課題提出用の資料をメモリカードに記録を取り、念の為バックアップを取った。


 吾郎は少し休む事にし、その間に2人が朝食を作ってくれた。

 急いで食べると眠い目をこすりながら大学に向かった。

 そして、他のグループも教授に課題を提出し発表の準備を始める。


 グループ登録した逆の順番、つまり吾郎達は最後の発表となり、瞳が発表台に立ちその透き通った声でデザインの紹介を始めた。

 完成した体育館のデザインがスクリーンに映し出されると、会場からは驚嘆の声が上がった。


 楓と吾郎は瞳の発表を見守り、その声に癒されていた。


 発表が終わると、その他の者たちと一線を画したデザインに拍手喝采が起こった。

 そして次に投票が始まった。


 ・

 ・

 ・ 


 無事に全員の発表が終了し、投票は即日開票となった。教授が閉会の言葉を述べた後、結果発表が始まった。


 3位から評価が始まり、胸を張り裂くような緊張感が走る。

 吾郎たちは祈るように手をつないで結果を待った。

 もちろん瞳と楓が意識的に強く手を絡めたのだ。

 そして3位のグループ名が呼ばれる瞬間、全員が息を呑んだ。


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