第2話 新居へ

 港吾郎は、(以後吾郎)自分の部屋の鍵を開け、買い物袋を抱えて中に入ると適当に床へ置いた。

 そしてベッドに腰掛けると窓から見える街の景色に目を向けた。新しい環境、新しいライフスタイル、そして一人暮らしの自由。吾郎はそのすべてにわくわくしていた。


「よし、これからが本番だ。一級建築士になるために頑張らなきゃ」


 自分の夢を思い出して気合を入れた。建築デザイン学科を選択したのは自分の父親の影響だった。父親は地元の建築家で個性的な建築物を生み出していた。

 吾郎は子供の頃から父親の仕事に憧れており、父親のようになりたいと思っていた。


「でも、父さんはもういないんだよな」


 呟くと自分の胸に手を当てた。父親は、吾郎が高校生の時に交通事故で亡くなった。父親の死に大きなショックを受けたが、それでも夢を諦めず、父親の遺志を継ぐため、いや、自分の夢を追い求めて建築デザイン学科の門戸を叩くことにした。


「父さん、見ててくれよ。俺は、必ず一級建築士になって、あなたのような素晴らしい建築家になるんだ」


 吾郎は空に向かって呟いた。父親のことを思い出しながら、涙をこらえた。少しすると自分の気持ちを切り替え、立ち上がるとこれから生活する部屋に荷解きした荷物を出して整理をすることにした。


「さて、どこから手をつけようかな」


 自分の荷物を見ながら考え、服や本や雑貨などをクローゼットや机に入れていった。


「あ、これは」


 ダンボール箱の中から1枚の写真を見つけた。それは、父親と一緒に撮った写真だった。写真には父親と吾郎が笑顔で抱き合っている姿が写っていた。写真は吾郎が高校に入学した日に祖母が撮影してくれたものだ。


「父さん、ありがとう」


 吾郎は写真に手を当て、父親の温かさや優しさを感じた。

 そして写真を大切に持って机の上に置くと、写真に微笑みながら話しかけた。


「これからも、俺のことを見守っててくれよ。俺は父さんの期待に応えるんだ」


 写真に写る父親に誓った。吾郎は自分の夢に向かって、一歩一歩進んでいくことを決め、その小さな一歩としてまず自分の部屋の掃除や整理を続けた。


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「ふぅ、やっと終わった」


 自分の部屋を見回して満足した。今後は自分の部屋を自分の好きなように飾って居心地の良い空間にして行こうと思うが、少し疲れを感じて組み上がったばかりのベッドに横になって休憩した。


「ああ、気持ちいい」


 真新しいベッドに横になり、幸せそうに笑うと一人暮らしの始まりに、送り出してくれた祖母に感謝した。

 そしてこれから始まる新しい生活に期待を膨らます。


「さて、明日からは大学だ。どんな人たちに会えるんだろう」


 吾郎は自分の未来に夢を見たが、自分の運命を今はまだ知らない。


 祖母の言い付け通りに両隣と階下への挨拶を決心し、粗品を持って部屋の外に出た。



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