第28話 第三基地へ

 その後、俺たちは第二層の森を問題なく攻略していった。戦力として不安だったヨツバもリリの指導があって、なかなかの戦力に成長していた。


「ヨツバ、クリスタルだ」

「うん、預かっておくね」


 ヨツバは大きめのリュックを背負っている。今回はリュックを背負ってもらっているが、そのうちVRD用のコンテナを背負ってもらうのも良いかもしれない。彼女は装備が整えば期待通りの活躍をしてくれると思うのだ。


 モンスターを狩り、ダンジョンを進み、そのうち俺たちは巨大な壁の前に到着した。


「第三基地、到着ですね!」


 そう言ってマリナが万歳をする。彼女の万歳を見てデイジーも同じような動きをした。


「バンジャーイ! バンジャーイ! ほら、ツルギ達もご一緒ニ!」

「お、おう。ばんざーい」

「「「ばんざーい!」」」


 なぜかパーティーの皆で万歳三唱をする。その様子は配信画面に映っていて。


:ばんざーい

:ばんじゃーい\(`・ω・´)/

:バンジャーイ!

:\(`・ω・´)/

:万歳!


 コメントのほうでも沢山の万歳が流れていた。ナンダコレ。ただ、悪い気はしない。


「よし、万歳三唱も終わったところで、今日の配信はここまでとしておこう。配信はまた明日もやる予定だ。その時はよろしく頼む」


:おつ

:了解。お疲れ様

:お疲れ様です

:おつおつ

:オツカーレ


 配信終了、そして巨大な壁に沿って歩き、第二基地で見たのと同じようなゲートの前に立った。ほどなくしてゲートの側から音声が流れる。


『こちら琵琶湖第三基地入場ゲートです。五体のVRDを確認しました。ゲートを開きます』


 巨大なゲートが開いていく。そして、その先にはこれまで見たのと同じような琵琶湖の基地の風景が広がっていた。


「さあ、行きましょう! 師匠!」


 マリナに急かされ、俺たちは奥に進む。目指すは……目指すはどこだ?


「マリナは第三基地には詳しいか?」

「いえ、実はここに来るのは初めてです! ですから、色々見て回りたいんです!」

「なるほどな」


 まあ、ぶらぶらと基地を見て回るのも良いだろう。そんな風に思っているとデイジーが俺たちの前に出てきた。


「デシタラ私が案内しマスヨ。私、こっちの基地には何回か来たことがありマース」

「それは助かりますね。師匠、ぜひ彼女に案内を任せましょうよ」

「そうだな。それじゃあ案内してもらおうかな」

「お任せクダサーイ!」


 デイジーは張り切った様子で前を歩き出した。俺たちはその後についていく。


「ここは第三基地デス。大規模な基地としては最も前線にある、最も深くにある基地なのデース」


 ん、ここが最も深くにある?


「第四層やその先には大規模な基地は無いのか?」

「ここから先のモンスターはかなり強力になってきますからネー。基地建設の計画はあるそうデスガ、現在はこの先の層には小規模なキャンプが点在している状態デスネー」

「なるほど」


 なら、このような場所はこの先には存在しないのだな。ダンジョン出現から数年が経過した今でも、人類はそれほど深い層まで探索を進められてはいないようだ。


「最前線の基地デスガ一通りの娯楽施設や宿泊施設は揃ってマスヨ。とはいえ、外の町程の娯楽は無いデスシ、宿泊施設は人形を置いておく場所なのデスガ」

「つまり、ここまでの基地とだいたい同じというわけだ」

「そうデース」


 デイジーは歩きながら何やら考えているようだった。俺たちを案内するための計画を練っているのかもしれない。


「皆さん。提案なのデスガ」


 そう言って前を歩く彼女は続ける。


「先に宿泊施設――ガレージデスネ。そこに一度我々の人形を預けて、いったん解散しまセンカ? 一時間ほど休憩シテ後でまた合流。それから第三基地を散策するというプランでドウデショウ?」


 第二層の探索を終えたばかりだからな。俺としては異論はない。皆に確認をとると彼女たちも異論無しという反応だった。


「分かった。なら、第三基地のガレージに案内してくれ」

「了解デース」


 方針が決まった。デイジーの案内で目的のガレージまで移動する。到着してみて驚いたのは、そこがガレージというよりはホテルのような外観をしていたからだ。


「ここ、本当にガレージなのか?」

「そうデスヨー。せっかくAランク探索者が居るんですから、それにあやかって、高級なガレージを使わせてもらわなくテハ。と、いうのは半分冗談で、私もAランク探索者デスからネー。ここは何度か使わせてもらってマース」


 なるほど。というかデイジーもAランク探索者だったのか。そんな風に思いながら彼女を見ていると、その表情が恥ずかしそうなものになった。彼女は照れるように笑いながら言う。


「私もAランク探索者ではありマスガ、順位はAランクの三十九位デス。Aランクデハ、ほぼ最下位デース」


 ふぅん。その話を聞くとAランクの探索者は四十人程度存在するのか。


「ちなみに私はCランクの二位ですよ!」


 話に入ってきたマリナが得意気に胸を張った。たぶんそれは高いランクではないと思うのだが、デイジーを見ると彼女もマリナに対しどう反応するべきか困っているようだった。


 マリナは若干スベっているのを感じたようだ。ごまかすように「あはは……」と笑う。


「……で、デイジーちゃん。案内よろしくっ!」


 マリナはそそくさと移動し、リリとヨツバの後ろに回った。まあ、彼女は今恥ずかしい感じなのだろう。こちらから何か言うと、追い打ちになる可能性がある。だが、後で彼女のフォローはしてやろう。


「じゃあ、デイジー。案内を続けてくれ」

「了解デス。ついてきてくだサイ」


 そして案内された建物の中は豪華なホテルという感じの場所だった。チェックインし、部屋へ案内される。そこは五体の人形を余裕で格納できるほどの広さがあり、豪華な部屋とマシンのガレージが融合したような見た目をしていた。


 俺たちは格納スペースに人形を待機させ、一時間ほど休憩をとる。


 休憩から戻って来るとマリナとデイジーが何かのゲームで遊んでいた。それはカラスマ工房で見たような立体映像で遊ぶゲームみたいで、そういうものに疎い俺には分からないものだった。


 さっきは微妙な空気になっていた二人だが、今ではすっかり元の調子に戻っていた。


 マリナは時々スベる時があるのだが、基本的に俺たちのパーティーのムードメーカーだ。そのことはパーティーのメンバーも分かっているし、彼女と一緒に居ると俺は楽しい。


 けど、なぜだろうか、以前彼女と姉、彼女とカラスマさんについての話を聞いたからか、彼女の明るさには何か……無理をしているのではないかと感じてしまう時があるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る