第19話 第二層の襲撃者

 次の土曜日、俺たちは第二層にやって来ていた。この一週間で、すでに何度かここへはやって来ている。


 第二層は鬱蒼と木々の生い茂る森のような場所だ。あまり明るくはなく、木々を足場にして進むため常に落下の危険が伴う。


「さて、今日も第二層で狩りをしていくぞ。俺の貯蓄を増やしておきたい」


 デイジーとのマリナが一緒に第二層の入り口までは来てくれているが、この先は別行動だ。リリとヨツバは今日も銃の訓練らしい。


「師匠、今日も別行動。ということでいいんですよね」

「ああ、俺は資金稼ぎ。君たちは実践訓練だ。第二層のモンスターを狩るって意味では、やることは同じだがな」

「では、また後で合いマショーウ!」

「また後で」


 第二層の入り口で分かれ、俺はダンジョンの奥へ進んでいく。木から木へ飛び移りながら、背中のドローンを起動。配信を開始する。


「どうもツルギの神滅流配信講座。やっていくぞ」


:こんにちは師匠

:ここ第二層か。猿みたいに木から木に移ってるな

:今更になるけどAランク入りおめでとう

:最近第二層で狩りしてるねー

:前の配信でお金貯めてる理由話してたね


「近々人形を大改造しようと思ってな。ほぼ一から組み直すようなもんだから、結構な額になる。とはいえ、この前倒したロックドラゴンのクリスタルでも足りそうではあるが、貯金をしておいて損は無い」


 話をしながら木から木へ移動。遠くに白い猿のようなモンスターを発見した。あれを見るのは初めてではない。


 この前確認した情報によると、あれはホワイトデビルというモンスターだ。デビルとは言うが、実態を持つ猿のモンスターであるため、普通に斬ることができる。仮に実体を持たないモンスターが居たとしても気合で斬るが。


 考えているうちに俺と白猿の距離が縮まる。向こうも木を離れ俺に襲いかかってきた。そして接近した俺たちの空中戦は。


 ズバッ!


 抜刀からの一撃で白猿が切断された。黒い灰が宙を舞い、落ちそうになったクリスタルをキャッチ!


:うおおお! すげえええ!

:どっちが猿だよ

:師匠は空中でも戦えるからな

:この一週間で何度も見た光景

:凄すぎて参考にならんわほんと


「神滅流を学べばこのくらい難しくは無いんだがな。弟子二人の配信のほうも今やってるだろうから、そっちもよろしくな」


:マリナちゃんたちも配信してるんだねー

:くっ師匠か女の子たちかどっちの配信を見たら良いんだ

:どっちも見たら良いんだよっ!

:マリナちゃんたちも素早くなってきてるから同時視聴は目が追い付かん

:皆速すぎるよぉ!


 あまり速く動きすぎてもリスナーから俺のやってることが分からなくなるか。ならば。


「少し速度を緩めよう。今日はのんびり狩りの様子を配信していく」


 そう思って速度を緩めてみたのだが。


:師匠、速い。それでも速いって!

:だけどさっきまでよりは目で追えるな

:目で終えるニキすげーな

:俺もぎりぎり目で追える

:正直さっきまで動きが速すぎて俺には何が何やらだったから、今の速度は助かる


「速度はちょうど良い感じか? なら、これくらいの速度で――」


 そこまで言った時だった。ズドンッ! と音が鳴って、俺の背後を飛んでいた撮影ドローンが撃墜されたのだ。突然の攻撃――いや、それよりも――この森に銃を使うモンスターなど出ない。そこから考えられることは。


 俺はひとつの太い枝の上で脚を止めた。そして、襲撃者が現れるのを待つ。それはすぐに現れた。撮影用のものとは違う形のドローン。銃身のようなものが確認できた。あれはライフルだろうか。


 枝の上で刀を構える。直後、ライフルを搭載したドローンから弾が放たれる。そのような攻撃で俺を倒せると思うなよ。


 新滅流反撃の型――弾返し!


 刀を振り、弾を飛んできた方向へそのまま弾き返す。反射した弾はドローンに直撃し、それはきりもみ回転をしながら落ちていった。


「人間が俺を襲うとはな。偶然の事故ではあるまい」


 直後、俺の視界にノイズが走った。何だ――今のは?


「補助システム、何が起こった?」

『……』


 反応が無い。どうした? 故障か? それとも。


 考えているうちに、後方から接近する気配を感じた。振り向きながら刀を振る。刀は迫る銃弾を切り裂き、軌道を逸らした。


 銃弾は飛んで来たが、敵の姿は確認できない。


 姿は確認できないが、移動する気配は確認できる。速さだけなら俺に匹敵するだろうか。かなりの使い手だな。


「襲撃者よ! お前は敵を不意打ちすることしかできない臆病者か!?」


 挑発してみると、相手が脚を止めた。こんな安い挑発で脚を止めるとは、相手は単純なのか馬鹿なのか。あるいはその両方か。


 視界の先の枝に一体の人形が停まっていた。西部劇のカウボーイを思わせる人形。手には二兆の拳銃が確認できる。襲撃してきたのはこいつで間違いないだろう。しかし、なんのために?


「噂通りですわ。なかなかの腕です。そうでなくては挑む意味がないというもの」


 その声は意外にも可愛らしいものだった。あの人形を操っているのは女の子なのか!?


「わたくしの通り名はマリー・ザ・キッド。ブレインズ社の専属探索者にして、Aランク二位。あなたを倒し、わたくしこそがランク二位の座にふさわしいとお父様に分からせるのです」


 急に出てきて色々語りやがって。こっちは状況が理解できてないってのに。


「今の状況は理解しきれてないが、あんたは俺を倒しに来た。という理解で良いんだな」


 二位の座なんて興味ないんだがな。彼女にとっては重要なことなのだろうが。


「ええ、そうでしてよ」

「あんた。VRDがVRDを攻撃するのは違反行為だ。違反行為が確認され次第、探索者は操る人形の仕様権を停止される。遠隔接続を切られるはずだ」


 というのは最近マリナから教わった話をそのまま言っているだけだが。


「わたくしはAランクの二位でしてよ。そのようなルールを無視するだけの権力を持っていますわ」

「なるほど。その権力とやらで俺を卑怯にも闇討ちしようというわけだ」

「闇討ちとは人聞きの悪い。これは力試しであり決闘ですわ。わたくしは探索者としての実力で、あなたなんかには絶対に負けない」

「それはまあ……大した自信だな」


 俺は刀を構え、マリーは二丁拳銃を構えた。予想外の対人戦だが、負ける気はない。


「先に言っておきますが、あなたのドローンを破壊して補助システムが動かないよう妨害していることは謝ります。これ以上は卑怯な手は使わないと約束しますわ」

「その約束を信じろと?」

「信じてほしいものですわね」


 お互いに相手の動きを観察し、そしてお互いに動いたのは同時だった。

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