剣の天才は弟子を求め現代ダンジョンを刀一本で無双する(SF)

あげあげぱん

第1話 剣の天才とVRD

 八百万の神を斬る。それを求めて磨かれた剣術がある。


 かつて人々はそれを【神滅流剣術】と呼んだ。


 だがその神滅流剣術は現代の人々から忘れ去られようとしていた。


「三か月のバイト代を全てつぎ込む」


 高校の教室で、俺の言葉に高校の友人であるナオトは目を丸くした。


「まじか?」

「まじだ。三か月分のバイト代、全てダンジョン配信の準備につぎ込むつもりだ」

「じゃあまじで前から話してた計画を実行するんだな!?」


 わざとらしいくらいに驚きながら尋ねてきたナオトに俺は答える。


「ああ、ダンジョンのモンスター相手に神滅流剣術を実戦披露するんだ。その様子を見た視聴者がうちの道場に門下生としてやって来てくれれば良いが……いや、来てもらわないと困る.。そうしなければ、あの剣術は完全にこの世から消えてしまう」

「俺はささやかながらお前の配信応援してるぜ。門下生にはなれないしスパチャも投げられないがな」

「気持ちだけで充分だよ」


 そんな会話をしながら俺はスマホを操作した。ネットショップで必要な物を注文するためだ。


「それで、いつから配信を始めるんだ?」

「注文したものが揃えばいつでも始められるが、まあ三日後といったところかな」

「ダンジョン管理局の方に人形の登録はしてるのか」

「……悪い。配信はたぶん一週間ほど後になる。人形の登録申請もせねば」

「お前、どこか抜けてるよな」


 そんな会話をしているうちに次の授業への予鈴が鳴った。話はまた今度だ。


 一週間後。今日は祝日。


 俺は自宅のベッドに座っていた。スマホを操作し動画を眺める。琵琶湖上空を飛行するドローンからの映像だ。琵琶湖のかつて水があったはずの場所にぽっかりと大穴が開いている。とんでもない広さと深さの大穴だ。その周囲を囲むように建築物が連なっている。


 向こうの状況を確認し、スマホをしまった。


「準備は万全……のはずだ」


 ベッドの上で横になり、先日ネットで購入したヘッドセットを手に取った。それはVRゲーム機に似ている。


 さあ、琵琶湖へ送った人形を起動しよう。


 行くぞ!


 俺はヘッドセットを起動した。


 直後、俺の意識は埼玉の自宅から離れ、琵琶湖の人形へつながった……はずだ。周囲は暗い。ほどなくして人形に搭載された補助システムが視界にメッセージを表示した。


『遠隔接続完了。アイカメラオン。通常モードで起動します』


 ぷしゅうと音が鳴り、目の前の壁が開く。そして、視界の先では何体もの人形が行き交っていた。汎用型遠隔接続式人形、通称【VRD】と呼ばれるものだ。


 VRDは人形とはいうが等身大のロボットと考えた方が良い。ここにそのVRDが数百体は居るだろう。正確な数を数えるのは大変そうだ。


 人形の格納庫からロビーらしき空間へと歩いて出てみる。人形の操作感覚はフルダイブ式VRゲームのそれと同じだと聞いていたが、確かに自らの体のように動かすことができた。これならば神滅流剣術を披露するのに問題ないだろう。


 歩きながら周囲の様子を見回す。遠くの高い場所に巨大なパネルが目立っていた。八番ロビーと表示されているほか、様々な企業のコマーシャルが流れている。


 俺の周りを歩く人形たちにも目が行く。ほとんど人間との見分けのつかないタイプや、いかにも戦闘用ロボットといった様子のタイプ、白色で特徴がないのが特徴みたいな人形もある。


 俺が操る人形は白色の特徴が無い奴だ。一応、装備とかがあるから全くの無個性というわけではないが……特徴らしい特徴といえば腰に下げた刀とベルトポーチくらいのもの。背中に搭載された撮影用ドローンと合わせて三か月分のバイト代のほとんどが吹っ飛んだ。


「……ここにいる奴ら、ほとんど配信者か」


 俺含め、背中に配信用ドローンを搭載した人形がほとんど。それは人間と見分けのつかないタイプだろうが、戦闘用タイプだろうが、俺のような大量生産タイプだろうが同じだ。世はまさにダンジョン配信時代だな。


 俺に話しかけて来る人形は無い。気分はまるでモブキャラだな。そんなことを思いつつロビーの巨大なガラス壁に近づく。たぶん、そこそこのモンスターの攻撃には耐えられるくらいには硬いガラスだと思う。


 ガラスに手を触れ、外の景色を眺める。青空の下。巨大な穴が地下深くへ続いている。深さにも驚くが広さにも驚く。このダンジョンと呼ばれる大穴が数年前突然に発生したとは、今でも現実感が湧かないな。でも、あの中に入っていって活動を始めれば、嫌でもその現実感がはっきりすることだろう。


 じゃあ、早速ロビーから外に出てみよう。今、この巨大な建物の中の施設を利用できるような手持ちはない。いや、ここのロビーと格納庫だけは使えるのか。ダンジョン管理局に探索者として登録したのと同時に、あの格納庫は俺のものとして割り当てられている。俺とこの人形にとっては家みたいなもんだ。


 さて、外に出てみよう。


 八番ロビーから外へ、涼し気な建物内から、太陽に照らされた草地へ足を運ぶ。


 砂地を歩きながら、すぐにダンジョンの入り口にあるリフトまで到着した。ここを利用してダンジョンの第一層へと移動することができる。


「八番ロビーからのリフトは十分後に利用できます。駆けこむのはおやめください」


 リフト乗り場で甲冑騎士のようなごつい人形がアナウンスしている。素直に十分程度待つとしよう。


 さて、大切なことをおさらいしておこう。この人形がやられても俺が死ぬようなことは無いが、人形は破壊されてダンジョンに置き去りとなる。人形の回収をダンジョン管理局へ頼むには金がかかるし、俺には予備の人形も無い。ある程度稼ぐまでは人形がやられるような事態は絶対に避けねばならない。


 そして、時間になりリフトが来た。順番に乗り込み、ほどなくしてリフトが動きだした。


 五分後、リフトが到着したのは大穴の最も浅い階層、第一層だ。リフトの外には草の生えた足場が広がっている。そんな地形が深い穴の中へと続いていた。なんだか不思議だ。


「第一層に到着しました。焦らず順番に降りてください」


 こっちのリフト乗り場にも甲冑騎士が居た。言われたとおりにリフトから降りる。


 周囲の様子を確認する。足場は草地。足場は充分にあるが、気をつけなければ大穴の底へ落下の危険性もある。少し歩いた先に地面は続いていなかったりもするのだ。万が一に底へ落ちれば人形の体は衝撃に耐えられないだろう。


 モンスターの姿は今のところ確認できない。リフト乗り場のすぐ近くには出現しないか、間引かれているか……まあいい。ここで軽くウォーミングアップをしておこう。


 人の少ないところで刀を鞘から抜き、振ってみる。人形は充分人並みに動いてくれる。刀を扱うのにも問題ない。よし、身体の動きは確かめた。刀を鞘に直し、次にやることは。


 背中に搭載されたドローンを起動し飛行させる。そうして俺は目の前を飛ぶドローンに向かって名乗った。


「配信はできているな。俺はツルギ。神滅流剣術の皆伝者だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る