第9話 眠れない夜 ~side:柚季~

 すでに日付が切り替わり、月曜を迎えたこの週初めの深夜――


(……なんで呉人くれとはあたしの連絡を無視してるんだろ……)


 大崎柚季は、彼氏の呉人がまったく連絡に応じてくれないことを不安に思い、眠れない夜を過ごしていた。


 既読は付くが、返信は来ない。

 そんな状態が続いている。


 呉人の態度がこうであることに対して、身に覚えがない――わけではない。


(ひょっとして……浮気がバレてる……?)


 柚季は最近、近隣の大学に通う大学生とひそかに遊んでいる。別に呉人に嫌気が差したわけではなく、年上との付き合いってどんな感じなんだろう、という好奇心によるモノだった。


 これまで柚季は、年下あるいは同い年の男子としか付き合ったことがない。最新の彼氏である呉人も同級生だ。ゆえに年上の異性に対する興味が尽きず、友達が主催していた大学生との合コンに参加し、そこで知り合った佐藤じょうという大学生と遊ぶようになった。


 乗はセックスが上手い。見た目は清潔感にあふれ、性格も悪くないが、こちらに彼氏が居ることを知りつつ手を出しているので、やっぱり良くはないかもしれない。

 デートでは一応、常におごってくれる。話もつまらなくはない。しかし遊び始めてからふた月ほど経過しての感想としては、そこまで満たされる相手ではなかった。


 年上だということ以外は結局、そこまで呉人と大差がない。これなら学校で気軽に触れ合える呉人の方が良い。そう結論付けて、ぼちぼち乗のことは切り捨てようと思っていたが、もしかしたらそんな関係のことがバレているせいで、呉人は連絡を無視しているのだろうか。


(いや……バレてないでしょ……いきなり連絡つかなくなったけど、今日は別にあたしヘマしてないじゃん……)


 もっと以前にバレている可能性も考えられない。もしもっと以前にバレているなら、呉人はその時点で怒るなりなんなりリアクションを起こしているはずだ、と柚季は考える。


 柚季は知るよしもないことだが、呉人はもちろん先日の浮気目撃から今日まで、自殺での仕返しを考えていたがゆえにあえてリアクションを起こしていなかったわけである。


 それを知らない柚季は、まだ呉人には何もバレていないと結論付ける。


(……とにかく、なんか虫の居所でも悪いのかもしんないし、明日普通に話してみればいっか……)


 そう考えて、柚季はひとまず目をつむり、必死に眠ることに集中し始めた。

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