「星が見えるまであとどれくらいかかるの?」

 二時間くらい。

 と美波はスケッチブックに書いて言った。

 地元で生まれて、よくこの場所から星を見ている美波は時計を見なくても、星の見える時間を把握していた。

 星が見えるまでの二時間。

 今度は文が美波の話を聞いた。

 いろんな話を聞いたけど、声の話は聞かなかった。

 そのことには触れないでいようと文は決めていた。

 その代わりに自分が絵を描くことができなくなったことにも触れないでいてくれたら嬉しいと文は思っていたのだけど、

 どうして絵が描くなくなっちゃたの?

 と美波はその答えが聞きたくて仕方がないと言うような顔をして聞いてきた。

「自分でもよくわからないんだ」と文は言った。

 文さんの絵が見たい。

 と美波は言った。

「デッサンならあるよ。少し前のものだけど、見る?」と自分のスケッチブックをひらひらさせながら文は言った。

 見る。

 とすぐに美波は言った。

 文のデッサンを見て、美波はすごく驚いた顔をした。

 すごい。うまい。

 と興奮した顔をして美波は言った。

「ありがとう」

 と文は言った。

 文さんは天才画家さんなの?

 美波は言った。

「そんなことはないよ。僕くらいの絵描きはいっぱいいる。僕は天才じゃない。そりゃ、少しくらいは才能はあったかもしれないけど、同年代の絵描きと比べても大した才能じゃないよ」と文は言った。

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