第16話 魔法3

「こいつは……、良くもまぁ、珍しいというか聞いたことのないスキルばっかり持ってるものだね。アズ君に渡す情報料が溜まりまくるよ」

 難しい顔をしつつ店長は楽しそうだ。


 * 『魔力操作』

 * 『釣り師アングラ

 * 『大言壮語たいげんそうご

 * 『言霊ことだま

 * 『奇術師マジシャン

 * 『手品師マジシャン


 現在、俺が取得しているスキルはこれらの6つ。


「一応、魔術師マジシャンビルドを目指してスキルを選びはしたんですよ」

「ん、たしかにマジシャンwビルド」

 眠茶さんが笑いをこらえている。


「マジシャンでスキルを揃えるのも悪くないかもしれないよ。スキルの生え方として隣接する2つのスキルの影響を受けるものもあるからね」

 ただし、組み合わせが膨大過ぎて検証もできないと店長がぼやいている。ベータバージョン時は裏技的に派生スキルの確認が出来たらしいが、その方法もすぐに使えなくなったらしい。


「さて、それではアズ君のスキルについて順番に見ていこうか」

 そして店長によるスキル解説が始まった。


「まずは魔人の種族スキルである『魔力操作』。魔法を使うのに必須に思えるが、少なくとも精霊魔法ではこのスキルがなくても問題はないらしい」


「精霊魔法ですか!」

「ん、アズが使ってるのは多分、精霊魔法。だけどスキル構成を見ると只の手品の可能性が出てきた」

 言われて見ると確かに……

「って、魔法ですよ!魔法! 確かに見た目はしょぼいし手品っぽいけど、れっきとした魔法ですって!」


「ちなみに手に魔力を集めると精霊が寄ってきやすいらしいから後で試してみてくれ」

 精霊ってカブトムシかなにかだろうか?


「次に、というか残りのスキルだが、まあ、ものの見事に情報のないスキルばっかりだね。アバター作成時や取得時の候補に見かけたっていう話すら聞いてない。どうやって取ったの?」


「『釣り師アングラ』と『大言壮語たいげんそうご』は初期スキルとして持ち込んだやつですね。しかも、固有ユニークスキルらしくて外せなかったんです」


「初期スキルが2つもあるのも凄いが両方とも固有ユニークスキルとは……」

「アズさんの普段からの魔法語りの成果といったところですかね」


「えっ……あれ、エフィさんに魔法について喋ったことないよね……?」


「もしかして、聞こえてないって思ってました? 多分、常連客はみんな知ってますよ」

「ん、つまりアズは魔法オタクと」


「な、そんな、表立っては押さえているつもりだったのに……」

 衝撃の事実を知って崩れ落ちた。


「しかし、面白いスキル構成だね。実際、精霊魔法が発動しているのにはこれらのスキルのどれが絡んでてもおかしくなさそうなラインナップだし、相乗効果で影響している可能性もあるね。例えば、『言霊ことだま』が魔法的な働きをするとした場合、『大言壮語たいげんそうご』がその威力を高めていてもおかしくはない。『奇術師マジシャン』と『手品師マジシャン』にしても、そのうち『魔術師マジシャン』スキルが派生で生えてきても僕は驚かないよ。それに『釣り師アングラ』だが、そもそも何故このスキルが……」


「ん、ああなると店長は止まらないから、お茶でもどうぞ」

「ありがとうございます。ハーブティーですか?」

「そう。アンメモでは薬草とかと同じくお茶になりそうなのも色々生えてる」



 ◆ ◇ ◆



「手に魔力を集めるってどうするんですかね? 気合を入れる感じで良ければ角兎殴ったときがそんな感じでやってました」

 スキルの検証も兼ねて魔力操作の実験を行っている。魔力を集めると精霊の光が寄ってくるところが見られるらしいが、そもそも魔力操作自体が上手くいっていないらしい。


「ん、まずは好きにやったら良い」


 精霊が寄ってくるならばと、一応は本の精霊とされる黒の栞を手のひらに乗せる。

「じゃあ、気合をいれて魔力を集めてみます!」


 手のひらに魔力を集めるイメージで丹田の辺りから魔力を流す。いや、魔力は感じてないけど、ここは長年夢想した魔力操作が生きる場面……


「よおっし、魔力が集まる、集まるイメージ! うぉぉっ?!」

 じんわりと手のひらが熱を帯びたように感じ、栞に結ばれていた紐がパタパタと嬉しそうに揺れた。


―― 『ჇႢჇႳႵჇ』


 栞の黒い革の表面に銀の文字が表示された。


「相変わらず何が書いてあるかわかりませんね。アズさんは読めます?」


「えーと、読めるな。とりあえず唱えてみる……『ᚾᛪᚾᚪᚬᚾねみみにみず』?」 


「ん? 発動してない?」


 何の変化も見られない……。

「あっ、この魔法の発動は詠唱の意味を理解してないと駄目なパターンか。そして、この魔法はそこはかとなく嫌な予感がする」


 少し首を傾け、再度詠唱した。


「『ᚾᛪᚾᚪᚬᚾ寝耳に水』!」


―― ポタッ、ポタッ、ダバダバッ


「うぇっ?!」

 傾けた頭の下側、耳の辺りから水がこぼれた。


「み、みず?! アズさん大丈夫ですか?」

「ん、火の次は水の魔法。アズはなかなかに優秀w」

 眠茶さんが顔を背けたが肩が笑っている。


「ところで、どんな呪文だったんですか?」

 やはり、二人には聞き取れない音の羅列なようだ。


「『寝耳に水』……だな。火の方は『爪に火を点す』だし呪文の法則というか方向性っぽいものが分かった気はするが……ネタ枠かよ?!」


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