第2話 アバター作成1

「なんとか間に合ったな……」

 届いたばかりのVRヘッドセットの梱包を開けていく。

 アンメモの正式サービスは先週末から始まっているが、負荷も考慮してかベータ勢から順番に段階的に開放されている。

 新規ユーザーは今週末からの開放となっており、俺は午後からログインできることになっていた。

 なお、ベータ勢だった京は「俺はネタバレはしない主義だ」とアンメモの情報は一切教えてくれず、放課後は一番に教室を飛び出していた。


「思ってたより軽い。おっ、MRグラス仕様か」

 VRヘッドセットは後頭部を覆うものの、ディスプレイはMRグラス仕様であり、視界を塞ぐことはなかった。


「そういやフルダイブっていってたな。五感を再現ってことは脳内に直接情報を送ってるのならそもそもディスプレイは不要か……」

 よく考えたらフルダイブって技術凄すぎじゃね?


 ログイン可能時間になる前に昼ごはんを食べておくことにする。手っ取り早く、残っていたご飯を炒めて卵チャーハンにした。


「おにい、それ、何のコスプレ?」

 中学校の制服を着た妹のスイがリビングを覗いている。受験生ということもあり学校の自習室にでもいくのだろう。

「ん? コスプレじゃないぞ、今日からログインできるアンメモ用のVRヘッドセットだ」

 呆れたような目でこっちを見ながら首を振っている。

「百歩譲って、そのヘッドセットはわからないけどわからなくもない。けど、その手袋にマントはどう見てもコスプレか厨二病」

「あ……気分を高めようと正装したんだった。確かにコスプレっぽい」

 杖を用意するか悩んだんだよな。手袋は錬金術師ぽいけど、せっかくバイト先で貰ったものだし、中々本格的でかっこいいからなぁ。


「『あ……』ってなによ、あ、って。まあ、楽しそうで何よりだけど。で、アンメモって今結構話題のやつだよね。私の友達も遊びたいようなこと言ってたけど受験だしなー」

「その話題のアンメモだな。今回分のユーザー募集はもう締め切ってるし、次の募集は年明けとかって話だから、その時には受験も終わってるだろ」

 ベータ勢が2万人弱ぐらいで、今回の正式サービス開始第一弾として、ベータ勢からの紹介と合わせて5万人程の新規募集と言われていた。問題がなければ順次増やしていくらしいが、ハードウェアの増産が間に合っていないなしい。

「今回みたいにソフトウェアのライセンス招待があったらスイにやるからまずは高校に受かってからだな」

 ハードウェアは、父さんはスイに甘いから高校合格祝いと言えば買ってもらえるかもしれない。


「はーい。じゃあ、いってきまーす。おにいも夢中になった遊びすぎないようにね」

 スイはちらっと時計を見ると慌てて出ていった。



 ◆ ◇ ◆



「基本的なユーザー登録は完了っと」

 ログイン前のユーザー登録にソフトウェアのライセンス認証も完了した。ログイン可能時刻をじっと待つ。


―― 5、4、3、2、1、0……


『ようこそ、Unmemoryアンメモリー Worldワールドへ』

「セバスチャン?」

「いえ、私は犬妖精クーシーのベルナールと申します。貴方様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 そこには、垂れた犬耳がキュートな渋い老執事さんが居た。


「あー、俺は、『アズ』です。まあ、本名の品束しなづかあずまなんで、普段から呼ばれ慣れてる『アズ』でお願いします」


「それではアズ様とお呼びいたします」

 浮かび上がるステータスパネルに『アズ』と入力された。


『アズ様はUnmemoryアンメモリー Worldワールドで何を成したいですか? いえ、何もしない、そんな日々を過ごすのも良いでしょう』


「俺は、魔法、そう、ロマンあふれる大魔法をぶっ放したい!」

 魔法 is ロマン。そもそも、魔法を使いたくてこのアンメモを遊ぼうとしているんだ。


「ふむ。魔法はロマン。そういうことですか。今は冬の時代ですが貴方のその熱が溶かすことを祈りましょう」


―― チリリーン


 ベルナールさんがどこからともなく取り出したハンドベルを鳴らした。


「おわっ」

 目の前に大きな鏡が現れる。映っているのは……俺だな。丁度昼ごはん前に見た通りの姿で映っている。


「ん?! なぜ、この姿で映っている?」

 ヘッドセットだけの機械で全身像、ましてや、手袋やマントが再現されているのはおかしいだろう。


「おや、なにか不満な点が御座いましたか? アズ様の分身となるアバターはこの姿をベースに自由に変更することが可能となっております。ただし、性別や身長等はそこまで大きく変更することはできません。これは、フルダイブの特性上極端に異なった姿を長時間続けますと間隔のズレが生じて現実リアルでの生活に悪影響を及ぼすことが懸念されるためです」


「髪はもっとセットしたほうが良いとか、身長をもう少し伸ばそうかとかはあるが、そうじゃなくて、なぜこんなに現実リアルと同じ格好で再現されてるかってことだ」


「あー、そういうことですか」

 少し虚空を見つめるように動きが止まった。


「企業秘密にかからない範囲での説明は許可されました――」


 色々難しいことも話されたが、まず、身長、体重等の情報は体脂肪計なんかのように電気信号で測定可能。また、そもそも、フルダイブの実現において五感の入出力を脳波等によって行っているわけで、つまりは簡単に言うと自分の中にあるイメージが再現されているということだ。

 つまり、直近で見た自分の姿が一番反映されやすい。誰だよこんな厨二病的な魔術師の姿でログインしたやつは。


「納得していただいたところで、まずは『種族』を選択して頂けますでしょうか?」


 目の前に選択可能な一覧が表示された。

 人間以外で、獣人族や魔族、妖精族があり更に細かく選択できるようだ。


「レアな種族とかランダム選択とはあるの?」

 ランダムでレア種族を引いて無双とかもロマンではある。


「レア種族もありはしますが、先程申し上げましたようにフルダイブの特性上選択できる方は限られております。同様にランダム選択も選択可能な種族から選ばれますので、そこに表示されている種族以外になることはございません」


「なるほど、それじゃあ魔法を使うのが得意な種族ってどれです?」


「種族スキルとして『魔力操作』を持っているのは魔族ですね。いわゆる魔法を使用したいのであれば『魔人』がおすすめです。なお、どの種族を選んでもできることにそれほど変わりはありません」


「『魔人』でなくても魔法はつかえるってこと?」


「ええ、『魔力操作』スキルを取れば、ああ、一応取らなくても可能ですが魔法関連スキルの取得には『魔力操作』があったほうがよいですね。その意味で種族スキルとして最初から『魔力操作』を取得している魔族がおすすめです。ただし、種族スキルとなりますので不要となってもスキルパネルから外せないのでご注意ください」


 魔族として選べたのは『魔人』および『鬼人』。ただし、『鬼人』の場合『身体強化』のように魔力を内部的に使用するほうの適性が高いらしく、俺の求める方向性とは少し違うようだ。


「というわけで、種族は『魔人』で決定」

 種族を選択したことでアバターが少し変化して頭の横に小さな角が生えた。

 飛べはしないけど羽や尻尾も設定できるみたいだ。羽は……やっぱロマンなので付けておこう。尻尾はなしで。


 髪と目の色は赤く変更して、なかなか厨ニテイストな魔人らしいアバターが出来上がった。


「それではスキルの設定に移りましょう」



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