王家への報告

 エクストリーム王国の廊下を歩く二人がいた。

 一人は白銀の鎧に身を包む金髪のグランだ。ソケットに白い宝石が埋め込まれた槍を背負っている。

 もう一人は茶髪を三つ編みでまとめたセラだ。あくびをして、背筋をのびのびしていた。

「王家に謁見するのは緊張するね」

「本当に緊張しているのか?」

 グランが苦笑すると、セラは頷いた。

「あくびは緊張をほぐすために、あえてやっているんだよ」

「変わったほぐし方だね。僕は緊張しっぱなしだよ」

 グランは溜め息を吐いた。

「ギュスターブ公爵と共に禁忌を用いた計画を進めていたからね。王家の決断によっては、僕は処刑対象になるかもしれない」

「それは……私もそうだよ」

 セラは額に汗をにじませた。

「至高の令嬢が死に戻りを行った事を黙っておこうと考えているのだから」

「死に戻りは禁忌の中の禁忌だけど、証拠を探しにくいからね。僕に報告したのだし、君はお咎めなしで済むだろう」

 グランは一呼吸置いた。


「もしも僕が処刑対象になったら、聖騎士団の団長は君に任せるよ」


「ええ!? そうなっちゃうの!?」


 セラの声は裏返り、両目が見開いていた。

 グランはきっぱりと頷く。

「飛行部隊の指揮も大変だろうけど、君が適任だ」

「まだ処刑対象と決まったわけじゃないし、深刻な顔で話すのはやめようよ」

「処刑対象になってしまってからでは、僕の考えを言えなくなるよ」

 会話をしている間に、王室に着いた。

 王室には鮮やかな赤い絨毯が敷かれてる。絨毯の先に三段の階段があり、その先に二つの玉座がある。

 二つの玉座には、それぞれ国王と女王が座っている。国王の傍らに王太子であるフランソワが控えている。

 国王が厳かに口を開く。

「入れ」

 グランとセラは二人同時に最敬礼をして、赤い絨毯の上を歩く。

 階段の手前で跪いて、国王の言葉を待つ。

「聖騎士団団長グラン、及び聖騎士団飛行部隊隊長セラ、順に報告せよ」

「この場にて報告の許可をいただけた事に、至上の喜びを感じます」

 グランは跪いたまま、報告をする。

「このたびは禁忌の魔術を使われた計画に関するご報告となります」

「禁忌だと!?」

 国王の口調が荒くなった。女王とフランソワも両目を見開いた。

 グランは頷いて続ける。

「禁忌の魔術を人に掛けて、軍隊を強くするという計画でした。首謀者はギュスターブ公爵です」

「ギュスターブ公爵……あの男なら実行しそうな事だな」

 国王は深い溜め息を吐いた。

「続けよ」

「多くの人間が凶暴化し、人を襲う怪物に成り果てました。聖騎士団が対処しましたが、手が回り切れませんでした」

「聖騎士団が対処できなかった人間はどうなった?」

至高の令嬢ハイエスト・レディーとその一行が対処してくださいました」

 至高の令嬢ハイエスト・レディー

 グランの口からこの言葉が出た時に、フランソワは両目を輝かせた。

「やはりダリアは素晴らしい人物だ」

「フランソワ、発言の許可を出されるまで静かになさい」

 女王に咎められて、フランソワは黙った。

 グランは両肩を震わせた。

「彼女がいなければ、僕もギュスターブ公爵も過ちを続けたでしょう」

「グラン、おまえもか?」

 国王の問いかけに、グランは頷いた。


「僕はギュスターブ公爵と共謀して、禁忌の計画を推し進めておりました」


「なんと……王国に忠義を尽くしてくれたおまえもか。どうして、そのような計画に手を貸したのだ?」


「禁忌の計画で国が強くなれば、多くの国民がより平和で充実した生活を送る事ができると考えたからです。しかしながら、ギュスターブ公爵にそこまでの覚悟はありませんでした。僕にも責任があります」


 国王は額に片手を置いて、首を横に振った。

「まんまとギュスターブ公爵に騙されたのだな。聖騎士団団長としてあるまじき判断だ。だが、おまえはエクストリーム王国の守護のために多大な実績を残している。それを否定するつもりはない」

 国王はフランソワに視線を送る。


「フランソワ、おまえはどう考える?」


「まずは実態を念入りに調査するべきだと考えます。利害の一致しない複数の人間から情報を得るべきでしょう」


 フランソワはハッキリとした口調で答えた。

「グランは謹慎処分とし、証拠を消すことができないように監視すれば良いと思います」

「エクストリーム王国の守護に対して痛手となるが、仕方ない」

 国王はゆっくりと頷いた。

「セラ、おまえから報告は?」

至高の令嬢ハイエスト・レディーと相対する時があり、敗れました」

「は?」

 国王の思考は完全に停止し、女王は仰天していた。

 フランソワは両目を白黒させている。

「おまえが負ける……? なんで?」

「時を操る魔術にやられました。私の聖術さえ操られました。初見ではみんな負けるでしょう」

「えっと……そうか、うん」

 フランソワがうんうんと頷いた。

「その後、至高の令嬢ハイエスト・レディーと仲良くできたか?」

「仲良くとまでは行きませんが、敵対はしておりません」

「そうか。それは良かったが……そもそもなぜ、相対する事になった?」

 フランソワの鋭い質問に、セラはどもった。

 王家に嘘を吐くわけにはいかない。

 しかし、本当の事を言えばダリアとの約束を破る事になる。

 迷っていると、グランが口を開いた。

「死に戻りを行った疑いがあったためです」

「死に戻り!?」

 フランソワの声が裏返った。国王と女王の思考は停止し、身体がこわばっている。

 グランはゆっくりと言葉を紡ぐ。

「死に戻りは、セラをしのぐ魔力の根源かと疑いました。恐れながら、念入りに調査するべきかと存じます」

「たしかに……そうだな」

 フランソワは呆けたまま頷いた。

 国王が咳払いをする。


「二人ともさがって良い。ただし、グランには監視を付ける。よいな?」


「御意」


 グランもセラも深々と礼をした。

 グランの処刑はなさそうである。

 グランは緊張した面持ちであったが、セラは安堵の笑みを浮かべていた。

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