チンパンジーとバベルの塔

千崎 翔鶴

1.雑魚

 朝部屋を出る前に、郵便ポストの中身を確認する。誰かからの手紙なんてものが届くことはほとんどなくなったのに、それでもポストの中身が何もない日の方が少ない。

 ポストに投げ入れられていたチラシを、ぐしゃりと潰した。廃品回収のお知らせというのは別に構わない。けれど宗教の勧誘であるとか、パートナー探しであるとか、そういうものには何も心惹かれないのが事実だ。

「……毎回毎回、ご苦労なことで」

 インターネットの上に、氾濫はんらんするものがある。かつて広告というものは、新聞の折り込みチラシであるとか、テレビ番組の合間であるとか、郵便ポストに投函されるとか、それだけのものだっただろう。けれど今人々の目に一番つくものといえば、インターネットの上なのかもしれない。

 ともかくこういうもので人を動かそうというのが、透けて見えている気がした。詐欺さぎだ何だと注意喚起かんきがされる世の中にあって、だまされる人は増えているのか。

 握り潰したチラシはゴミ箱へ。古紙回収に出すべきなのは分かっていたが、もう一度開く気になれなかった。どうせ大半がこうなることくらい分かっていることのはずだ。きっと一千とか一万とかそれくらい入れて、一の反響を探している。

 毎日毎日あくせく働く人間の目の前に、簡単に稼ぐ方法がありますよというニンジンをぶら下げる。そういうものに釣り上げられてしまう人間は、いったいどれほどいるのだろう。

 一攫千金を狙える大魚でなく、きっとそこらで跳ねまわるだけの雑魚ざこだろうに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る