罰ゲームでクラスの陽キャギャルと付き合う事になった陰キャの俺が秘められた実力を暴かれて学校一の人気者になる話

斜偲泳(ななしの えい)

第1話 俺にだって選ぶ権利はあるんだが?(ありません

「――てわけだからオタク君。今日からあ~しの彼ピね」

「……オタク君じゃない。俺の名前は太田九朗おおた くろうだ」


 オタク君こと太田九朗はスマホに向けてぼそりと呟いた。


 入学式から一ヵ月、いまだに友達が一人もいない九朗である。


 昼食を食べ終わった後は小説投稿サイトカクヨムでお気に入りの作品をチェックして過ごしている。


 エロゲの主人公みたいな長い前髪、陰気な雰囲気とぼそぼそした喋り方、非社交的な態度にオタク丸出しの振る舞い、太田九朗という名前がダメ押しとなって、九朗はオタク君なるあだ名を付けられていた。


 突然意味不明な事を言ってきたのはクラスで人気の陽キャギャルである日野明星ひの あかりだ。


 その日の気分で変わる明るい金髪今日はツインテール、眩しい程に白い肌、モデル顔負けの容姿と大きな胸、無駄にデカい声とノリの良すぎ性格が特徴的な最上位カーストのティア1女子である。


「……大体、なんで俺が日野さんと付き合わなくちゃいけないんだ」

「だから罰ゲームだってば。さっき説明したじゃん?」


 引き続き、九朗はスマホに向けてぼそぼそ喋る。


 失礼な態度だが、明星は嫌な顔一つ見せずにいる。


 どこかうんざりとした態度の九朗とは対照的に、明星はなにがそんなに面白いのかというくらいニコニコしている。


 明星の言う通り、説明は受けている。


 先程明星は彼女の属するティア1グループで罰ゲームを賭けた大富豪を行っていた。


 有利な展開に明星は大口を叩いて周りを煽っていたが、土壇場で革命を起こされて大敗した。


 そこで提示された罰ゲームがオタク君の彼女になるという物だったらしい。


「……そうじゃなくて」


 九朗はウンザリと溜息をつく。


 長い前髪越しにチラリと明星を見ると、再び視線をスマホに戻し。


「……とにかく、おたく等の下らないお遊びに俺を巻き込まないでくれ」

「そんな事言われても、もう決まっちゃったし」


 二人のやり取りを見て、ティア1グループの連中がクスクスと笑う。


「おたく等ってwww」

「おたくは自分だろwww」

「流石オタク君www」


 とか言いながら。


 はっきり言って不愉快だ。


 陽キャのオモチャにされるのなんかごめんだし、そもそも九朗は陽キャが嫌いだった。


 頼むから陽キャは陽キャ同士でつるんで陰キャの事はほっといてくれ!


 なんて思っていると。


「もしかしてオタク君、彼女いるとか?」


 真面目な顔で明星が言う。


「……いるように見えるか?」


 流石に聞き咎め、半眼になって明星を睨む。


 チート級の顔面が眩しすぎて視線が下がるが、その下にある巨大な胸も目に毒だ。


 悔しいが明星は冗談みたいな美少女で、どこを見ても目のやり場に困るような存在だ。


 そうでなくとも人の目を見て話すのは得意ではないので、九朗の視線はすぐにスマホに戻る事となる。


「いるわけねぇだろwww」

「だよねwww」

「あんなのと付き合う奴いたら見てみたいwww」

「ちょっとみんな! 笑いすぎだし!」


 仲間達を注意すると、明星は申し訳なさそうな顔で手を合わせ、「ごめんね」と呟く。


 そして改めて。


「彼女いないんならいいでしょ?」

「……そういう問題じゃないだろ」

「じゃあどういう問題だし」


 あくまでも明星は罰ゲームを遂行する気らしい。


 仲間達の失礼な態度もあり、九朗はだんだんイラついてきた。


「……俺にだって相手を選ぶ権利はある」


 これには明星の目も点になった。


「ひゅ~! オタク君言うねぇwww」

「あははは! 明星じゃ役不足だってさwww」

「ヤバいwww お腹痛いwww」


 それを言うなら役者不足だろ……。


 内心で突っ込みつつ、九朗は居た堪れない状況に顏が火照った。


 九朗だって明星の方が格上である事は分かっている。


 きっとこの場にいる誰よりも、彼が一番分かっている。


 明星は可愛くて面白くて誰にでも優しいクラスの人気者だ。


 オマケにスポーツ万能で成績もよく胸だって大きい。


 対する九朗は冴えないボッチの陰キャオタクである。


 陽キャ共に笑われるまでもなく、自分でもこんな奴と付き合いたいと思う女子なんかいるわけないと思っている。


 だからこそ、明星と付き合うのはごめんだった。


 そんな事になったら晒し者も同じで、九朗にとっても罰ゲームである。


 だからどうにか回避したいのだが。


「かっち~ん。オタク君、そういう事いうわけ?」


 明星の顏から笑みが消えた。


 どうやらプライドを傷つけてしまったらしい。


「……だってそうだろ。大体、罰ゲームで付き合うとかおかしいし……」


 内心で焦りつつ、九朗はぼそぼそと反論するのだが。


「あ~しのどこが彼女として不満だってわけ!」


 怒った明星がバン! っと机に手を着いて迫って来る。


 アイドル級の顔面とグラビア級の胸が急接近し、九朗は困った。


「……いや、不満とかそういう話じゃなくてだな」

「なに? 聞こえないし! てかスマホばっか見てないでちゃんとあ~しの顏見て話してよ!」

「うわぁっ!」


 もう、明星の顏は目と鼻の先だ。


 ほんわかとした体温とフローラルなシャンプーの香りが届く距離。


 たまらず九朗は席を立った。


「と、とにかく俺はお断りだ!」


 そう叫んで教室を飛び出す。


「あ! 待てし! こうなったら意地でも彼氏にしてやるし!」

「なんで追ってくるんだよ!?」

「オタク君が逃げるからでしょ!?」


 結局その日は休み時間の度に明星と追いかけっこをする羽目になった。

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