~海異~ 第二話

 到着した初日、宵の薄暮れ昼下がり。

 七才になる息子の晴斗はるとはすぐにでも遊びたかったようですが、わざわざ今から水着に着替えて海に入るにはたった数時間で夜になってしまうのと、なにより移動の疲労で今日は勘弁してほしいという思いではあります。晴斗にはすぐ夜になるからもったいないと説得し、買ってきた花火をしようとなんとか話をはぐらかしました。


 旅館の女将さんに、花火をしていい場所を聞きにいきます。


「・・・ああ、それなら・・・・・・あ、でも・・・本日の宿泊はお客様だけですし、バケツなどに水を入れて消火をしっかりして頂けるのなら、ここの駐車場でもよかったらどうぞ。他、ここ周辺は外灯もなく真っ暗すぎで危ないですからねぇ。景観のいい場所に当旅館は建っていまして、少し進むと大きな崖があり本当に危険ですので、あまり遠くには出歩かないでください。一応、フェンスは張ってますが・・・・・・」


 たしかに、部屋のテラス・・・というと大袈裟で、ベランダ・・・といえば大規模な、気持ちいい風が吹き抜けながら見える海と、まるでプライベートビーチのように小さな浜辺が崖の左下に見える景色は絶景で、最高の穴場スポットを見つけた気分になれるぐらいに良いところでした。

 もっと立派なホテルが建って、多くのいろんなセレブが来れるようにしてもいいのに、とも感じさせるぐらいです。


《こんなにも良いところなのに、特にいまはシーズンのはずなのに・・・なぜ宿泊客が自分たちだけなのだろう?》


 あなたは少し不思議に思いましたが、穴場スポットの独占欲が勝り、優越感を感じながらその日は晴斗と一緒に花火をしてすぐに眠りにつきました。


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