追憶43 統制樹の“三人”を始末するのに、何人の統制樹を始末すれば良いのか、その結果(KANON)

 私の招致に応じて実体化した――それこそ大木の如き――電気巨人が、即時、濃密で固体じみた電流を全身から醸し出した。

 私の脳裏に、統制樹の“三人”を結ぶ回路図を描いてやる。

 電気巨人を“負荷”の起点として、気味が悪い程に直線的な雷の太縄がその通りに互いを結んだ。

 ある程度、レジストはされていようが、どれ程のジュール熱が奴らを炙っているものか。

 電流の奔流が照射された部位が、非固体の現象にあるまじき掘削音を立てて、奴らの木質的な体をき砕く。

 これは“武器”では無い。

 私は、貴様らが手前勝手に決め付けたルールに、従順に従った迄の事だ。

 ……等と考えていると、統制樹どもがそれぞれに炎と黒煙の尾を引いて“電気回路”から退避。

 尋常の生体であれば筋肉の収縮を起こして逃げられないのだが、これもまた、木質で強引に形成した動物もどき故か。

 だが。

 JOUジョウが詠唱を終えるのには充分な隙だった。

 【煩悩、即脱奪ぼんのう、そくだつだつ】の光条が龍のように空を駆け、AOアオに襲い掛かっていた個体へまともに着弾。

 とうとう、木質の巨躯が光の飛沫をぜさせながら、五体を爆発四散させた。

 だが、JOUジョウAOアオの側へ注力した事で、MALIAマリアへの守りが空いた事になる。

 身体から長大な根の如き触腕を伸ばした統制樹が、それをジャルバーン本体に巻き付けるようにして、命綱とする。

 その上で、MALIAマリアへ飛び掛かる。

 大鎌を“ルール”によって取り上げられ、無手となった彼女は、足場から文字通り、身を投げ出した。

 最早、形振なりふり構わない統制樹が、更にもう一本の触腕を生やし、空中で翻ろうとした彼女に振るう。

 彼女はまた、翼を羽ばたかせて【アクカコソェルの光雨】を奴へ殺到させる。

 自由落下に等しい中、無数の光弾に絶えず打ちのめされながらも、統制樹は執念のように腕を振るい、彼女を鞭打つ。

 MALIAマリアは、純白の翼で全身を覆うように身を固め、その打撃を受けた。

 鎌を奪われた現状、身一つで出来る最大限の防御だったろうが、空中でコントロールを失った彼女はあえなく墜落して行く。

 火竜だとか雷竜だとか海龍だとか、様々な竜王族がジャルバーンに取り込まれて干からびた、竜の墓場とも言える情景を、彼女は墜ちて行く。

 その遺骸の内の一つ、苔むして色褪せたものに激突。

 空中で可能な限りブレーキは掛け、受け身も卒無く取れたようで、それ自体は致命傷にならなかったが。

 仰向けになった彼女へ、統制樹が落下に任せて襲い掛かり、

 

 彼女の横たわる竜の遺骸が変形、その鱗や骨格が途方も無く長大な杭と化して、統制樹を真っ向から串刺しに貫いた。

 

 彼女の白磁が如き繊手が、亡き竜の身体に“接地”していた。

 そう。

 彼女が落ちた、この竜の遺骸は、

 その生体が多岐に渡る竜の中でも、読んで字の如く“異質”な……岩石の肉体を持つ地竜のものだった。

 つまり、このジャルバーン上で、本来あり得ない筈の地属性物質。

 岩石で出来た身体など、まさしくファンタジーの産物としか言い様が無いが……強いて現実の物理法則に当て嵌めるとするならば、地竜とは珪素生命体と言えるのかも知れない。

 木質の肉体を無理矢理に造り出した統制樹ども。

 皮肉にも、似たような無理を通して生まれた珪素生命体によって、奴は串刺しの憂き目を見たのだ。

 或いは、奴らの養分となるまいとして抗った地竜が、死後に見せた意地かも知れない……とまで言うと流石に感傷的に過ぎるか。

 ともあれ、あと一歩でMALIAマリアを仕留める筈だった統制樹は、只でさえ焼け爛れた極限状態の腹に大穴を開けられ、遂に絶命したらしい。

 さて、後何体、統制樹の“三人”とやらを始末すれば良いのか。

 何時でも電気巨人に指示を送れるよう、私は身構えるが。

 ……新手の統制樹が生み出される気配が、無い。

 代わりに。

 大樹ジャルバーン全体が、小刻みに打ち震えた。

 足元から伝わり、腹に響くようなこの重低音は、奴の断末魔だったのだろうか。

 視界を覆う幹から、樹液のように染み出したのは、嫌味な程に鮮やかなあかの変異エーテル。

 どうやら、統制樹はこれで打ち止め、か。

 即ち、ジャルバーンそのものが死んだ証であり、

 理屈はこの際もう良い。

 私達の勝ちだ。

 

【天空大樹の変異エーテル】

 場にルールを定義出来る、統制樹の絶対権限。

 ただし、ルールはその場の誰にとっても公正なもので無ければならない。

 自作スキル同様、“神”の承認が下りなければ不発となる。

 

 敵を交えた場において、真の公正を貫ける者が、果たして何人居るものか。

 ジャルバーンに託されたのは、無私の心による秩序の維持か。

 或いは、秩序の限界を示した果てにある、新たな秩序の模索だったのか。

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