追憶02 今回の話には当ゲームの基本的な情報の全てを詰め込んだ積もりであるから、余さず頭に叩き込むように(KANON)

 単刀直入に説明に入ろう。それ程、時間は取らせない。

 このゲーム“クレプスクルム・モナルカ”(略称:CCM)の簡単な概要は、先程MALIAマリアが説明したと思う。

 私達プレイヤーは、地球と等倍と言う広大な世界に放り込まれ、人間を容易に即死たらしめるエネミーがまるで野犬の様に闊歩する中を戦い抜かねばならない。

 私達には何の加護も無く、現実準拠の貧弱な身体で、ゴーレムだとか竜だとかに立ち向かわねばならない。

 政府主導のVRMMO世界は、決して、リアルの命が懸かったデスゲーム等では無い。

 例え何度殺されても、プレイヤーは生き返る事が出来る。

 尤も、死傷に伴う苦痛もまた、現実に忠実なものを味わう羽目にはなるのだが。

 今回、そんなゲームを選んだのは他ならぬ私達だ。

 ゲーム側の指定したルールに適応・順応して、勝ち抜かねばならない。

 ……特に、私には――私とHARUTOハルトには、どうしてもこのゲームを制覇しなければならない理由がある。

 それは……後々、嫌でも説明する事になるだろうが、今は目先の事が先決だ。

 

 これもMALIAマリアが既に説明したろうが、当ゲームにはMMOには珍しく“公式見解でラスボスとされるキャラクター”が存在する。

 名は“黄昏の君主”と言う、別段面白味も無いNPCなのだが。

 VRMMOに於いて、この世に“特別なプレイヤー”等、存在しない。

 しばしば、ユニーク・スキルと言う、一個人にのみ許された能力をゲーム側から付与されるケースも存在するが……そんなものは、所詮、ゲームシステムにコントロールされた出来レースに過ぎない。

 何が言いたいかと言うと。

 相応の猛者が頭数を揃えて挑めば、どんなゲームのどんなエネミーでも仕留められる筈だが、十余年、大袈裟に言えばVR民全てに狙われながらも、この黄昏の君主は不敗を貫いて居るのだ。

 ゲーム開始直後の、今の私達は、そこで彷徨うろついている野外で遭遇フィールドエンカウントするモブエネミー相手にすら尻込みするような有り様だ。

 

 最低限、黄昏の君主に挑戦するには力を蓄えねばならない。

 その為の鍵となる要素が、この世界ゲーム固有の“全能元素・エーテル”の存在である。

 これは文字通りの存在だ。

 この全能元素なるものがあれば、この世界の殆どの事柄は解決すると言って過言では無い。

 エーテルは、メタ的に言えばこのゲームの物理演算に直接作用する事を許されたアイテムだ。

 専ら、エネミーを始末するか物品を分解する事で得られるこれは、自らの身体能力や魔力を「高かった」事に改竄する――所謂レベルアップに用いられたり、あらゆる物資に変換する事で食料から日用品、果ては伝説の武具まで実体化させる事も出来るのだ。

 まず、我々プレイヤーは、このエーテルを足掛かりに戦力を整え、同時に日々の生活を維持する。

 レベルアップ、装備調達、日常の衣食住に至るまで全てを一本化したのが、この全能元素エーテルと言う名のシステムなのだろう。

 そして。

 エーテルを稼いで自らを強化した私達は、この地球サイズのオープンワールドで“変異エーテル”なるものを保有したボス個体を殺す。

 変異エーテルは、その個体によって千差万別ながら、何らかの特殊能力を一個につき一人に授ける。

 これは、単純な戦力増強のみの話では無い。

 

 ラスボス・黄昏の君主に挑戦する条件とは、変異エーテルを保有する五人パーティである事が最低条件である。

 

 現在、私はHARUTOハルト、及び、MALIAマリアとの三人パーティだ。

 後、二名の仲間を見付けた上で、地球サイズのこの世界、戦って見るまでどんな変異エーテルを持っているか解らないエネミーを始末し、誰がどの変異エーテルを受け持つかを決めねばならない。

 

 もう一つ、厄介な要素がある。

 このゲームに於ける“キャラメイク”と言う名の、自身の在り方を決める事だ。

 このゲーム、CCMでは、ゲームを運営するゲームマスターAIに申請する事により、プレイヤーの自由意思でスキルを作る事が許されている。

 所謂、スキル自作システムタイプのゲームである。

 しかし、当然ながらスタンドアローンでは無いVRMMOに於いて、一プレイヤーが野放図に、無制限にスキルを作る、等と言う暴挙を許す訳には行かない。

 スキル製作に於いては、ある程度の制限も已む無しだ。

 だが、そんな常識を差し引いても、このゲームの審査基準はかなりシビアだ。

 そのスキルを付与するに足る、相当の根拠をしつこいまでに求められる。

 それは、ゲーム内の範疇に留まらず、現実世界でのあらゆるログや、他ゲームでの一挙手一投足と言うもの全てを含むビッグデータが参照される。

 

 現状、私達三人が、四苦八苦した末にどうにか承認された事例を説明しよう。

 まずHARUTOハルト

 彼は数多のタイトルを渡り歩いて来たキャリアが有利に働いた。

 彼は基本的には拳銃の名手なのだが、今回のファンタジー世界にそんなものは存在しない。

 それでも、剣、槍、斧、ボウガン、フレイル……大抵の武器に適性ありと、このゲームの運営AIに認められた。

 具体的には、適性のある武器を使用する際、筋力と知覚に三割から最大五割程度の物理演算優遇が受けられる。

 また、MALIAマリアと初めて知り合ったと言う“HEAVEN&EDEN”等でヒーラーを担当していた実績も認められ、丁度「数多の武器を使いこなす聖騎士」の様な立ち位置に落ち着いた様だ。

 MALIAマリアについては、もっと簡単に済んだ。

 先程言及した、HARUTOハルトと初めて出会ったと言うHEAVEN&EDENなる世界。

 彼女にとっては初のVRMMOにして、五年をそこで過ごしたと言う。

 そこでの彼女は、死神の様な大鎌を主武装とし、石や砂を操作する、所謂“地属性”の魔法を用いる魔法戦士だったらしい。

 成る程、私と初めて出会った前回のロボットゲームでも、彼女の機体は光学大鎌レーザーサイズを得物としていたが、HEAVEN&EDENで慣れ親しんだ武装だったからなのだろう。

 また、恐らく、そんな大型武器を選定した理由は、女として平均的な体格……つまり「物理的な重量ウエイト」が軽いと言うハンデを、ゲームシステムの筋力補正も利用して補ったからなのだろう。

 彼女らしく、良く考えている。

 身体のいずれの部位にしても、素肌が地属性の物質に触れ(“接地”し)ていなければ、攻撃魔法を使えない制約はあるものの、やはり大鎌を使用時に限り、筋力に五割近くの補正が受けられる。

 彼女のキャラメイクも割合、すんなりと通った。

 

 私は。

 正直、前のゲームでは、武器を設計していただけだ。

 運営AIから提示された選択肢を、消去法的に選ぶしか無かった。

 私の、このゲーム、ひいてはHARUTOハルト

パーティに於ける役割ロールは。

 どう言う訳か、召喚士の様なものだった。

 モンスターや没落騎士の“霊体”を捕らえ、調律し、命令して、戦わせる。

 私は。

 それが最も、私と彼の目的に役立てるなら。

 私がどう在るべきかなど、どうでも良かった。

 与えられたロールを、全うする迄だ。

 また、先程説明した、エーテルを日用品や装備に変換する生産スキルも私が引き受けた。

 

 さて。

 残り二名、仲間を探さねば。

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