第3話 やくそく

夏休みに突入しても、僕たちの関係は続いた。毎日秘密基地に集合しては、ユイの愚痴を聞いたり怪我の手当てをし、おままごとからかけっこまでいろいろな遊びをした。


たまに公園の子供と一緒にドッチボールや鬼ごっこ、サッカーなどもやった。ユイは最初こそビビっていたが、数分後には元気に公園を走り回ていた。


しかし、遊びとはいつか飽きるものである。


「蒸し暑いし、暑いなぁ」


「それ同じことしか言ってないよ…」


現在僕たちは秘密基地で暇を弄んでいるのだ


時刻は午後三時を指し、真夏の太陽が地面を焦がさんばかりに上ていた。ちょうど秘密基地の設計上日光は当たらないが、それでも十分蒸し暑い。


しかし、ぼく個人としてはこの暑さも許せる何とも言えない居心地の良さがあった。


「私、ヒーローって好きじゃないな」


「どうしたの?そんな世の男子を敵に回す発現なんかして」


「確かにみんなを助けるヒーローはかっこいいかもしれない、でもそのみんなに私は入ってないから。わたしはヒーローが嫌い」


さすがの僕もムカッときた、ヒーローはかっこいいだろ!深い意味なんてない小学生の怒りではあるが、好きな物を否定されるのはいい気分じゃない。


「じゃあ僕がユイのヒーローになるよ、それで証明してやる!ヒーローはかっこいいって!」


「じゃあ契約して、証明して見せて」


「いいよ!どんとこい!」


ユイが何もない所から羊皮紙と羽ペンを出現させた。

僕はそのペンを受け取ると、自信満々で書き連ねる。


1.ツヅムはユイのひーろーになる

2.いっしょう見すてない

3.これいをたっせいするために全力をつくす


「どう?こんな感じ?」

「もう二個付け足して」


4.この契約内容を達成するために障害となるもの、並び制約の影響を受け付けない


5.達成不可の場合ツヅムはユイの言う事をなんでも一つ聞くこととする


「4番って3と何が違うの?難しい言葉並んでて、僕よくわからないよ」


「気にしなくていいよ」


「………?」


これで契約内容は整ったようだ


「契約成立」


ユイがそうつぶやいたとたん、契約書が二つに分裂し僕とユイの目の前で青い炎に包まれた。


「え⁈燃えちゃったけどいいの?」


「大丈夫、紙出ろ!って念じたら出てくるから」


紙でろ! 


そう念じた瞬間、目の前に契約書が出現した


「でた!」


僕が一人でに感激している所を横目に、ユイは少しうれしそうな表情をしていた。


「これを達成したらいいんでしょ?」


「そうだよ、できるものなら…ね」


結局その日は何もせずに帰った。

この日の契約が、僕の運命を大きく変えたことも知らずに…


_________________________________________


夏休みも残りわずかとなった頃、世間では大きな事件が起こった。


それは支配系の過激派異能者による、大規模テロである。支配系異能者以外は人に在らずと謳いながら、恐竜のような生物、通称【ジャッジ】を使って虐殺を繰り広げているのだ。


支配系と強化系の人数比は3:7、ほとんどの市民は強化系である。


そんな中で七割の人間は、人間ではないと虐殺を初めたのだ、世間は大騒ぎである。


更にたちが悪いことに、政府側にも過激派がおり、政治はだいぶ麻痺してしまった。現在は残った強化系と穏健派の支配系異能者である議員などが、対策をしようと必死に頑張っているらしい。


最近のニュースもそのことしか流れていない。極力外出は控えて家にいる、ソレが長生きのコツとなった。


だがしかし、僕はユイと合わなくてはいけない。何故ならヒーローだから


決してユイを言い訳にしているわけではないったらない。


そろそろ公園が見えてきた。

今日も青々とした空に、燃え盛る公園


「燃え盛る公園?」


公園は、燃えていた。


「ユイ‼︎」


嫌な予感以前に確信があった、あそこにユイがいる。


フェンスの抜け穴を使って公園に飛び込み、桜の木を横目に秘密基地へ突っ走る。


秘密基地の入り口が見え、燃えていないことにホッとしながら、中に突っ込んだ。


「ユイ‼︎大丈夫⁈怪我は?」


案の定ユイがいたが、顔色が悪く秘密基地の端で怯えていた。


「早くここから出よう!桜の木が燃え始めるのも時間の問題だよ‼︎」


僕はユイの手を取って公園から脱出を試みるが、動こうとしないユイを見て諦めた。


「どうしたの、何があったの?」


ユイと目線を合わせて優しく問いかける。


「お母様が、いっはい、お母様がいっぱい人を、こ、殺して。それで、それで、私も殺さなきゃいけなくて、イツモノ鎖が…あ゛あぁ」


そこには、いつも知的なユイはどこにもいなくただただ怯える少女の姿があった。


言っている内容も訳がわからず、僕は困惑した。それでも見捨てるという選択肢ははなから存在しない。


「もう一回聞かせて」


僕はユイが落ち着くまでずっと話を聞き続けた。


それで分かったことがいくつかある

ユイの家は今世間を騒がせている支配系異能者の過激派、しかも親玉らしい。


元々このテロは計画されていたらしく、母親に逆らえないユイは言われるがままに契約をしたらしい。


その内容は色々な人の能力向上、条件を追加することで異能の力を引き上げるというものらしい。


今日本中にはびこっているジャッジも異能を強化された人のちかららしい。


「ど、どれぐらいの人を強化したのか覚えてる?」


「いっぱい、たくさん…鎖に縛られてたから、逆らえないの」


「鎖って何?」


「お母様の異能、鎖を刺した人を操ることができる。血縁者や親しい人ほど効果が強く現れて、刺す鎖の本数を増やすことでも効果が強くなる。それ以外にも鎖を操って武器にしたり、鎖を高温にして炎ををまとったりするの」


なるほど、今までのムチで打たれたような怪我はその異能によるものなのか…


「ごめんなさい、私のせいでいっぱい人が…」


日頃から虐待じみた教育をされてきたユイにとって、母親は勝てない…逆らってはいけない相手なのだろう。


「お父さんは?」


「お父様は…私に無関心で…」


その時だ


『ユイ、この公園にいるのはわかっているわ。あなたが私に逆らうなんて珍しい、変な虫でもついたのかしら?』


多分ユイの母親だ


ユイの顔色は一気に悪くなり、今にも倒れそうだ。


「大丈夫、ここがバレることないって!」


なるべく小声でユイに語りかけるが、聞こえてるようには思えない。ガタガタ震えながら秘密基地の入口をじっと見つめている。


『ユイ?早く出てきなさい、出てこない時間が伸びる分、辛いのはアナタよ?』


優しく言っているようでどこか狂気をはらんだ言葉だ、それがユイを蝕んで今こんな顔をさせている。


「ユイ、ユイ、大丈夫約束しただろ?僕が絶対一緒にいるから」


「あ……、…はっ、はっ…、ほん、と…に?」


やっと落ち着いてきたユイは、僕にすがるような顔で聞いてくる。本当はそんな顔してほしくない、不安で仕方ないって顔。裏切られることを常に考えている顔だ。


周りに味方がいなくて、全部自分で抱え込んで、硬いからに閉じこもる。

ユイはそうやって自分を守ってきたんだろう、所詮小学生の僕には深くはわからない、ユイみたいに頭がいいわけでもない。


だから、友達を助ける。


理由は浅くていい、ただ友達だから。ユイには浅く感じるかもしれない、でも僕らはまだ子供で小学生だ。


「おとなになったらこの約束を後悔するかもしれない、リスクを考えて、躊躇するかもしれない」


ユイの瞳が揺れる、今にも泣きそうだ。


「今後悔しないうちに…先のことなんて考えない子供のうちに、約束すよ。僕は君だけの英雄になる」


「契約だよ?待ったはなし」


ユイはそう言って泣きながら笑った。


「じゃあ私も頑張る、だから強くなって、いつか私を助けに来て」


「いつかって、なんで…」


パッと視界が変わり、見慣れた天井が僕の視界に飛び込んだ


「は?」


それ以降、ユイとは会えなかった。

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