第4話 魔眼 "天啓"

 ふぅ。


 1日の授業が終わり、ほっと息をつく。

 周りの生徒は部活動や寮に帰ったりと、1人には広すぎる教室で俺は窓から外の様子を伺う。


「改めて、クソ広いなグラウンドも」


 外から見るよりずっと広いのだ。

 認識誤認魔法で外から見た景色と実際に敷地に入った時の景色が異なって見える。

 最強セキュリティ オースティン様様だ。


 グラウンドでは、氷像を作ったり 火柱の大きさを競っていたり 石の壁を作ったり 空を飛んでいたりと流石魔法学校。


 結局クラスメイトとは軽いコミュニケーション程度しか取っていないが、まあ2年間もあるしゆっくりやろうと思う。


 静かな教室の扉がガラッと開く。


「あら、イブ君まだいたの?」


 シェリー先生だ。


「ぼちぼち帰りますよ」

「イブ君は寮生?」

「オースティンの寮はレストランもあるし、温泉もあるし、更に学校まですぐなんで、取り敢えず寮でいいかなって」

「そうなのね。ところでアリア見なかった?」

「見てないすね。先生また召喚魔法しようとしてる?」

「あああ、いやいやそういうわけじゃなくて」

「じ、冗談ですよ。そんなに慌てなくても」

「そそそそうよね。まあいないならいいの!じゃあ私いくわね」


 というと、シェリー先生はそそくさと教室から出ていった。なんか気まずい空気流れたな。反省しよう。


「さて、そろそろ行くかな」


 俺は席を立ち、今日の1番のイベント会場へと向かう。

 オースティン魔法学校の最上階である、7階。生徒は6階までしか使わないのだが、それにも理由がある。俺は一応誰にも見られない様に透明化魔法を使い慎重に7階へと向かう。


 まあ使われてないとは言っても、凶悪なモンスターとかがいるわけではない。使うと危険な部屋が数個あるからだ。


 俺はその数個のうちの1つ


 記憶回想室へと向かう。


 扉の前にはアレフ校長が立っていた。

 勿論校長の許可も無しに勝手に使うわけにもいかない。承認済みだ。


 アレフ校長は一言


「今回だけだぞ」


 といい。大温情に感謝しつつ


「10分ほどで戻ります」


 と、いい中に入る。




 すげええ

 中は氷の結晶や水晶玉の様なものがそこら中に浮いている。下も氷の様だが、滑らない。どこまで滑れるか遊ぼうと思ったのに!っといかんいかん。やるべきことをやってしまおう。


 俺はまず。

 結界の強化 プラスで付与術式 魔法障壁をつける。これで、並大抵の魔法じゃ壊れない部屋になったというわけだ。


 さて。俺がなんでこの部屋に来たのかは、

 簡単な話、自分の戦闘能力はどれだけ落ちたのか知るためだ。


3年間のブランクだけではなく、世界の禁忌を犯した 死霊魔術師ネクロマンサー との戦争の影響もある。

 正直な話、あの戦いはかなりきつかった。


 右目も目としては機能はしているが、魔眼としては機能を失っている。

 それだけギリギリだったし、戦いに全振りしてたあの時の俺だから勝てたのだと今なら思う。


 っと、まあごちゃごちゃ考えてもしょうがない!さてやってみよう!


 俺は記憶結晶に手を伸ばし操作を始める。

 記憶の具現化とは言っても、俺の記憶ではなく、部屋としての記憶なのだ。

 先人達が、この部屋と思念を共通させて、倒した魔獣達が記憶されているらしい。


 俺は結晶を操作して、そのまま上級魔獣欄へと指を下ろす。

 いたいた。


 上級魔獣 キマイラ


 俺がその文字を押すと美しく輝いていた結晶や水晶玉が赤くなり割れていく。


 ズズズズズズズズ


 地震の様な揺れと地割れの様な音


 30秒ほどで音が止むと部屋の中央に黒いモヤの様なものができている。

 そのモヤは徐々に大きくなっていき、大きさが10メートルほどになった時


「ぐぉぉぉぉぉぉぉ」


という音と共にモヤが晴れる。


 モサモサとした頭に少し細い胴体、大蛇の様な尻尾間違いない。呼び出したキマイラ本人様だ。


 俺は首と指を鳴らし相手を誘う。


 少しの睨み合いの末、均衡を破ったのは向こうの突進


「がぅああ!」


 まず小手調べだ 


「重力付与」


 キマイラの動きがぴたりと止まる。


 ぐるるるという唸り声を上げながらこちらを睨む

 勿論遠慮はしない。


 俺は指を中指と人やし指を軽く曲げる。


「爆裂新星」



 あたり一面が光り、キマイラの体が隠れるほどの大爆発。

 とは言ってもこの辺は常駐魔法。


 流石に上級とも行くと……


 煙が消え始め、こちらを怒りの目で睨むキマイラ。殺意十分だな。

 言葉は通じないだろうが軽く挑発


「おーい! 次はお前が攻撃してきてくれ」


 言葉が通じた訳では無いと思うが、キマイラは歯をカチカチと鳴らし大きく息を吸う魔力感知で相手の昂った魔力の中の オーブ を読む。


「広範囲の炎攻撃」


 まあ避ける必要もない。真正面から受けてやろう。


「ブゥオオオオオオオオオオオオオオ」


 凄まじい声と同時に部屋を埋め尽くす様な火炎を吐き出した。


「試用運転だな」


 俺は左目を軽く瞑り、魔力を送る。

 目を開くと元々の赤い瞳孔の半分は深みを帯びた赤になり虹彩は赤く光る。


 俺が3年前の戦争で最強と称された所以。


 魔眼 天啓 だ。


 相手の攻撃の 効果魔法 対象範囲 付加魔法 対象威力が分かる。それに加えて 自分の目が視認する範囲の属性や 空気中の魔素やオーブの対比率がわかる為、なにもない場所からノーモーションで魔法を起こすことも可能 相手の付加魔法や属性効果、洗練度が弱い場合は書き換えることが可能である。


 ――ってわけ!

 キマイラの攻撃は、威力はそこそこだが、組み込まれている付加魔法がいまいちな為、簡単に主導権が握れる。


 俺はキマイラの攻撃をさらに圧縮し、手のひらサイズに調整をして、軽く息を吹き勝ち誇った顔で相手を煽る。


 キマイラは何が起きたか分からずその場から動けずにいる。


 俺は手のひらサイズの炎に簡単な付加魔法 威力増進 をかける。


 付加魔法と主力魔法の比率は大体 付加魔法が2の主力魔法が8 なのだが

 俺には最強の目 天啓 がある為、無茶苦茶な比率でも制御ができる。


 まあでも今回は安全をとって 付加魔法6の主力魔法が4

 無理やり形を変えられた炎はオーバーヒートを起こし色が変わり、それはそれは美しい青色の炎に変わる。


 キマイラですら見惚れてしまう神業だ。


「さようなら」そう呟くと俺は手のひらの蒼炎に再度息を吹き込む。 


 蒼炎はぼぉぉぉぉぉぉ という音と共にみるみる強い炎に変わる。


「群青」


 俺の詠唱と共にキマイラに向かって行った蒼炎は、キマイラを一瞬包んだかと思うと、すぐにキマイラと共に消えた。


「ふぅ、意外とまだまだやれるな」


 記憶回想の対象が消えると、辺りは少し明るくなる。そして、割れた水晶や結晶が蘇る。再起動可能ということなのかな?


 まあもうしないけど!疲れた疲れた。


 そのままドアを開けると、アレフ校長が立っていた。


「すみません。少し遅くなりました」

「まあいい。どうだ?調子は」

「全盛期とは全然いかないですが、50%くらいの出力は出せますね」


 アレフ校長は

「そうか」とだけ言いそのまま校長室へと戻った。


 さて。俺も寮のルームメイトに挨拶とか楽しみにしていた温泉に入るとか、まだまだやることはいっぱいだ。


 忙しい1日はまだ続くのだ!


 なんてことを考え寮へと足を進める。

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