第1話 Case1 絡んだ赤い糸(前編)

 僕は人間の恋愛をサポートする部署で働く天使のリオン。

 

 僕は、恋愛サポート部の特別対応課に所属する中級天使なんだ。


 特別対応課は人間界に来る資格が貰えるので天使の間では人気の職種。

 その分、配属時の審査も厳しくて、ここに配属される天使は、天使の中でもエリートなんだよ。


 僕らは人間界で、こんがらかった赤い糸の絡みを取り除いて、人間が適切な相手と結ばれるように恋愛のサポートをしているんだけど……

 最近はホントによく赤い糸が絡むから、とても忙しいんだ。


 もちろん、赤い糸が酷く絡むことは昔からあった。

 

 でも、そういうのは限られた、特別な運命を持つ人達がほとんどだった。王様とかね。

 そういう人間たちは、赤い糸が必要以上に絡まないような努力をしてくれていたし、人間界のバランスを保つ為に天界が口を出さない方が良い領域だとして、別の部署から”免除願い”が出されて放置されるケースも多かったんだよね。


 でも最近は、ごくごく普通の人達の赤い糸が、そこら中でぐちゃぐちゃに絡んで、ホントに大変なんだ。

 しかも、元々赤い糸で繋がっている人……つまり、人間の世界で言うとことの”運命の相手”の方が、何も知らない間に巻き込まれてたりするからもう最悪なんだよね。


 あんまり口うるさいことを言いたくないけど、ちょっとは自制してほしいなぁ、まったく。


 あ! また、ぐちゃぐちゃに絡まってる糸、発見!

 はぁ、本日3件目だな



 ~~*~~


 ある金曜の夜、石川悠里ゆうりは仕事が終わってから親友の北里智美ともみの家に来ていた。

 悠里はこのところずっと彼氏の事で悩んでいるので、悠里の話を聞くために智美が誘ったのだ。



「そもそも私には全然分からないよ、なんであんたが、あんなしょうもない男にそこまでこだわるのか」

 智美は、「彼氏が浮気ばかりする」とぐずっている悠里に言った。


 智美と悠里は中学の時からの親友でお互いをよく知っていた。


 悠里はとても美人だし中学の時から人気者だった。

 勉強もよく出来て、今も一般的には大企業と言われる会社に勤めていて、周りからの評価も高い。


 そんな悠里が、28歳になっても”俺は音楽で成功してみせる”と言い続け、今だに定職に就かず実家の世話になっている男の事が好きだと言っているのが、智美には本当に不思議だった。


「また、智美は意地悪を言う……好きなんだもん、仕方ないじゃないのぉ」

 少し酔っている悠里が潤んだ目をして、甘えるようにグズりながら言う。

「確かにマサルはダメな所ばっかりかもしれないけど、私には優しいのよ……初めて会った時、”ああ、この人だ。この人運命の人だ”って思ったんだもん」


「優しいって……浮気ばかりして、こんなに泣かせているのに?」

 呆れたように智美が言うと、悠里は勢いよくごくんと缶の酎ハイを飲んで言った。

「本命は私だって、いつもそう言ってくれるもん!」

 そう言い、悠里はテーブルに突っ伏する。


「……わかってるんだよ、このままじゃダメだって。でも、どうしてもマサルから気持ちを離すことが出来ないの。自分でもなんでか分からないくらい好きなんだもん」

 テーブルに頬をつけながら、悠里は言う。


 智美はそんな悠里を見てため息をつく。

「ああ、もう……分かったから。分かったから、もう泣かないのよ、ね?」

 智美は悠里を慰めながら、頭を優しく撫ぜた。



 ~~*~~


「うーん、これは……なかなか難儀ねぇ」

 リオンの同僚である天使イブが、ぐちゃぐちゃに絡んで毛糸玉のようになっている糸を持ち上げてため息をつく。


「凄いね、30人以上の糸が見事に絡んでるよ」

 チームの中で1番の若手天使ミウも感心したように言う。

 

 リオンの所属する特別対応課は3人一組で人間界で活動する。

 このチームのリーダは中級天使のリオンだ。


 リオンは、イブが持ち上げる糸玉にそっと手をかざして情報を収集してみる。糸を通して、繋がってる人間についてある程度の事が分かるのだ。


 リオンはかざしていた手を下に降ろすと、ため息をつく。

「ああ、やはりこれも例のケースだ……」


 ミウとイヴはため息をつくリオンを見て察したようだ。

「もしかしてアレですか? 人間界で流行っている例の……出会い系サイトで絡んだケースですか?」

 ミウがリオンに聞いた。


「うん。本当に最近このケースが増えてる。何人もの人と交わる事で、赤い糸が毛玉みたいにぐちゃぐちゃに絡んでしまうんだよな……」

 リオンが頷く。


「全く、出会い系サイトは使いようによっては運命の相手を見つけやすいツールになるのに、なんで、1人づつ丁寧に確認して進めないかな」

 ミウが呆れたように言うと、同調するようにイヴも続く。

「ホントよね。どうして一度に何人もってことになるのかしらね。こんなふうにぐちゃぐちゃに絡んだらもう切るしかないのに」

 

「切ってしまうともう同じ人とはもう繋がらないんですよね?」

 ミウが先輩であるイヴの方を見て聞く。


「ええ、それに影響はそれだけじゃないのよ」

 イヴはとても重要な事を伝かのように真面目な顔になった。

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