第2話 ユグドテラス

 青い奇跡の星、地球。その奇跡の星が、温暖化によって海面上昇は防げず、ついに多くの島は姿を消してしまったが、人類はその対策として海上に巨大な都市を建設した。


〘海上都市ユグドテラス〙


月、火星への直行便が毎日発着している都市だ。


 往復便のため常に空港は混雑している。もちろん地球上の大陸移動にも使われているが、月、火星への便は約半数近くを占めている。


【おばあちゃん、火星には行かないの?】


【あんただけ、行っておいで。おばあちゃんは乗れないんだよ。腰も痛くなっちゃうからね】


【おばあちゃんも行こうよ。一緒に】


【ごめんね】


 こんなことは日常の会話だ。火星までは僅かに数時間。超高速運行が当たり前の世界だ。現に年配の人も乗船している。


 乗船券はあまりにも高額になるため、大半の人々は諦めるしか無い。地球に残れるからと言っても快適に過ごせるのは僅かな人達だけだ。


 大半の人々は、飢えないギリギリの食べ物、極度な高温、もしくは極度な低温地帯で生活を。


【はい、ここは、寝るとこじゃないよ!!どいてどいて!!お客さんの通行の妨げになるから】


 空港の職員らしき人に言われて、ふらふらで立ち上がる老人。先程の老人と同じく、乗船券を買えなかった人らしい。


 もはや何日食べていないのだろうか?やせ細った老人は歩くことが限界だ。あてもなくトボトボと歩き始めるが、再び倒れてしまう。


その老人に近づく男性が、


【少しですが食料をどうぞ。それと、良かったらエコノミーですが、使ってください】


【こんな…申し訳ないです。食料だけ少しいただきます。すみません…ありがとうございます】


【あなた達は生きる権利があります。乗船すれば数時間です。向こうではサポートもしっかりしています。遠慮せずに使ってください】


 老人は、涙を流しながら、両手でしっかり大切に受け取って、少しだけ水を飲むと、


【ありがとう、ありがとう、必ずお金はお返しいたします。食料は船内で大切にいただき…】


老人が話してる途中で、突如、


【うひょー、食料だせ!!】


老人の抱えている食料を奪い、逃げていく男が、


老人は反動で転びそうになるとところを、支える男性が、


【大丈夫ですか?】


【すみません、せっかくいただいたのに、ごめんなさい。ごめんなさい…】


【大丈夫ですよ、ほら、見ててくださいね】


 奪った男は突如として、倒れ込んだ。心臓が停止している。


老人に食料と乗船券を渡した男性が近づく。


【天罰が下ったね。そのとんでもない悪しき行いの引き換えが命とはね。後悔しても遅いがな】


 この男性の能力らしい。食料を取り返すと、老人に再び渡して、


【危ないから乗船まで付き添いますよ】


老人はこれで無事に火星に行けるだろう。












 

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