イヌとネコの頂上決戦 どちらが人に愛されてるの?

荒川馳夫

楽しい時間、不思議な夢の世界

 日本のとある中流家庭。両親と1人の娘が住む家で、2匹のペットが飼われていた。


「パパ、ワンちゃんがじゃれてくる!」


 幼い娘に近寄って、「構って!」と主張しているかのようなワンちゃん。彼は娘の「ワンちゃん」コールに喜び、いつの日からか自分の名を「ワンちゃん」だと思っていた。


 娘とワンちゃんとじゃれあいタイムが終わると、今度はそれをながめてツンとした態度をする猫に、


「ニャーちゃん、遊ぼう!」


と娘が誘った。まるで仕方ないとでも言いたそうな態度で彼女で近づく猫。彼女は「ニャーちゃん」と呼ばれていたから、犬の「ワンちゃん」と同じように自分を「ニャーちゃん」という名だと信じていた。


「明日も幼稚園だから、早く寝なさい」

「はあい、ママ。じゃあ、ワンちゃん。ニャーちゃん。バイバーイ!」


 束の間の楽しい時間が繰り返される。それは2匹にとって楽しい時間だった。彼らはいつも決められた寝床――2匹はいつも隣り合わせで睡眠をとる――で深い眠りに落ちていった。



◇ ◇ ◇


「うーん、どこだニャア……」


 重いまぶたをゴシゴシとこすり、眼を開けたニャーちゃん。回らぬ頭を働かせ、四方に目を凝らしてみた。


「なんだ、コイツしかいないのかニャ」


 彼女の目に映ったのは愛する人を独り占めしようとする憎きワンちゃんだけ。辺りは真っ暗の見知らぬ空間で、見覚えがなかった。よって手掛かりはなし。


「こいつと2匹ぼっちは気まずいニャア。でも、起こしたくニャイし……」


 不安を感じつつはあったが、かといって隣のワンちゃんを起こすのは気が進まないニャーちゃん。それが彼女の嫉妬心から生じた思いであった。


「ふわあ。寝心地が悪いワン……。あ、おはよ」


「あんたねえ……。これが朝だと思ってるのかニャン?」


 ニャーちゃんに促され、ワンちゃんも周囲を見渡した。果てしなき地平線。何も置かれていない空間に2匹だけの状況。


「ここはどこだワン?」


「分からニャイ」


 二言だけ話が交わされると、また横になるワンちゃん。それを見て、彼の体を揺すぶるニャーちゃん。


「少しは驚けニャン!」


「どうしてワン?」


「今まで、こんなことはなかったニャン。何かおかしいニャン!」


「そうかワン?」


「そうニャ。なんであんたと2匹ぼっちでいるなんて、耐えられないニャ!」


 ワンちゃんは彼女の言い方に内心で腹を立てた。まるで自分といるのが耐えられない、とでも言いたそうだったからだ。


「僕と一緒が嫌かワン?」


「嫌ニャン!お前がいるから、私は――」


 最後まで話そうとしないニャーちゃん。それを見たワンちゃんがつい攻撃的な言葉をぶつけてしまった。


「僕も君が嫌だワン。だって――」


「なんだとニャア!」


 ニャーちゃんも彼の言葉を最後まで聞かず、臨戦態勢をとった。ここまで来ると高ぶった感情は抑えが効かず、2匹は心の奥底に秘めた思いを明かした。


「僕はあの子に愛されているワン!」


「違うニャ。私の方がもっと愛されてるニャン!」


「いいや、僕だワン!」


「あたしだニャン!」


 暗黒の空間に響く2匹の思い。それが引き金となって、2匹は語り始めた。


 そう、「どちらがよりあの子に愛されているのか」を競ったのだ。偶然にも言葉が通じ合う空間で、2匹はこれまでのエピソードを披露していった。

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