【午後五時三十分】林 浩一郎

 IDカードを壁にタッチパネルにかざして書庫の中に入ろうとしたとき、同期の小石こいし 瑠璃るりが女子トイレから出てくるのが目に入った。


 彼女は二階の福祉部のはずなのになんで七階に……? まぁいいやと思い、書庫に入って段ボールを台車に載せていく。


 結構な量を使うようなので、段ボールの数も台車に山盛りになっている。


――キーンコーンカーンコーン


 五時半の終業の鐘がなる。くそ、勤務時間内で終わらなかったか。


 そう思った瞬間――


 自分のスーツに付けている【市章バッジ】が赤く光った。



■ ■ ■


――なんじ、【上篠かみしのにまつわりし呪い】を受けし者


――なんじ、【鍛治屋町包丁かじやまちぼうちょう】の力を得る


――なんじ衆人しゅうじんさらし者となり、我が愉悦ゆえつとならん


――なんじ、【金属を持つ人間を刺殺する】力を得たり


―― 殺 せ


―― 呪 い 殺 せ


■ ■ ■



 目眩めまいのようなものと同時に脳内に何者かの声が聞こえてきた。

 

 なにか幻聴のようなものが俺に力を使えとささやいてきた。


「金属を持つ人間を刺殺する……? なんだ……?」


 ようやく治まってきたところで、改めて自分の身に起こったことを振り返る。


「刺殺……?」


 頭のなかでそう考えた瞬間、俺の背後で物音が聞こえた。


 反射的に後ろを振り向くと、そこには左胸に包丁と思われるものが刺さり、仰向けで白目をむいて倒れている茜の姿があった。


 刺された直後だったのだろう、書庫の床に少しずつ血だまりが広がっている。


「えっ……?」


 なんで、茜が……?

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