第13話 一件落着、のちプチ騒動へ突入

「ルジっち!お務めご苦労さんでした!おかえり!」


「ルジアさん、お疲れ様でした!」


 教室に入るなり、ナギサとマキラがこちらに駆け寄りルジアに声をかけてきた。それに続いて他の面々も口々に声をかける。


「お疲れ様でしたルジアさん。次回の報復の際には時と場所を選んで証拠が残らないように手を出すようにするのが賢明かと」


「同感。闇討ちの計画やアリバイを偽証した上で事に及ぶ様にした方が今後は良い」


「もし向こうがまた何か言ってくるようなら、強い呪いがかけられる呪術具探しておくっスよ~」


 一部その発言はどうかと思うものもあったが、彼女たちなりにルジアをねぎらう意味での言葉と解釈し、聞き流しておく事にする。


「……皆、ありがとう。それと、心配かけてごめんなさい」


 そう言って黒板の前で深々と頭を下げるルジア。ともあれ、これで一件落着である。ぽんぽんと軽く手を叩いて皆に声をかける。


「よし、じゃあ授業再開するぞ。って言ってもほとんど自主学習だけどな。それじゃ、各自好きな席について始めてくれ」


 特進クラスには決まった席というのは無く、各自が好きな席に座るスタイルである。一人で黙々と自主学習をしたい時は後ろや隅っこの席に座るし、黒板を使ったり自分に質問しながら勉強したい者は前の席で授業を受けるのが普通であった。皆が思い思いの席へ座ろうとしたその時、ナギサが口を開く。


「……ん?どしたのさルジっち。一番前の席になんか座って。しかも、リカっちの真ん前の席なんて」


 ナギサが不思議そうにルジアに尋ねる。確かに、今までルジアが前の席に座ることなど一度もなかったからだ。基本的にいつも自主的に前の席に座るのはマキラぐらいで、他の面々は自分が黒板を使い授業をする際や、授業が自身の興味を引く内容だった時に前の席に座るくらいである。ルジアに至っては後ろが定位置と自分も思っていただけに思わず声をかける。


「何だ?反省の表れか?殊勝な心構えだが別にもう終わったんだし、いつもの後ろの席で授業を受けて良いんだぞ?」


 そう自分が言うものの、席に座ったままルジアが言う。


「べ、別にあたしがどこの席で授業を受けようと自由でしょう!?……そ、そう!最近目が悪くなって黒板の文字が見辛いから前に座ろうと思っただけよ!」


 そういうルジアに、マキラが声をかける。


「そ、そうなんですかルジアさん?私もそこに座ろうと思いましたが、それならルジアさんの隣に座らせてもらいますね」


 そう言ってルジアの一つ開いた横の席に座るマキラ。ナギサはまだ納得いかないようでルジアをじろじろ見ながら言う。


「えー?でもさルジっち、この前マキラっちが視力が落ちて新しい眼鏡を買おうか悩んでいたら『あたしは目が良いから眼鏡は一生不要ね』って言ってたじゃん」


 ナギサの一言で途端にうろたえだすルジア。慌てて何やら弁明を始める。


「き、急に最近視力が落ちた気がするのよ!それに、別にあたしが前で授業を受けたって良いでしょ!」


 そうルジアが言うものの、ナギサが何かに気付いたらしく更にルジアへ問いかける。


「……あれ?てかさ、ルジっちの今着ているそのシャツさ、リカっちのシャツじゃない?デザインが可愛かったからさ、あたし覚えてるんだよね」


 ナギサの言葉にルジアの服を見る。シャツの上に前開きのパーカーを羽織っているため今まで気付かなかったが確かにあの時急場しのぎで貸した自分のシャツだ。そう思っているとマキラがルジアの元に駆け寄る。


「……はい!間違いありません!ルジアさんの着ているこちらのシャツ、先輩が二週間前に着ていたシャツです!」


 ……マキラが何故そこまで自分の服を正確に把握しているのかは疑問だが、それはひとまずスルーして自分のシャツを着ているルジアに声をかける。


「確かにそれ俺のシャツだな。ていうか普通に着てるんじゃねぇよ。それ、結構気に入ってたんだぞ」


 自分がそう言った途端、教室が一斉にざわめきだした。


「ち、ちょっとどういう事!?……ま、まさかルジっちとリカっちってそういう関係って事……!?そう言えばあの日、ルジっちが戻って来たのってリカっちと朝一番だったし、まさかあの時から……?」


 ナギサが何やら誤解し出した様なので慌てて否定しようとするものの、それより早くマキラがこちらに詰め寄ってくる。


「ど……どういう事ですか先輩!詳しく話をお聞かせください!」


 自分の肩を掴みがくがくと激しく揺さぶりながらマキラが叫ぶ。あまりの強さに三半規管がおかしくなりそうだ。


「落ち着けってマキラ!別に変な意味は無いんだって!」


 マキラの手を押さえてようやくそういうものの、皆の雰囲気がおかしい。早く事情を説明せねばと思った矢先にナギサが口を開く。


「いーや!あたしの目は誤魔化せないぜ、リカっち!あれだけリカっちに反発していたルジっちが、まさかの謹慎明けからこの殊勝な態度!そしてまさかのリカっちのシャツを着用!つまり……ルジっちをリカっちが見つけて、学園に連れ戻すまでの一夜の間に二人の間に何かのフラグとイベントが発生したとみたっ!」


 そう言ってびしっと親指を立てるドヤ顔のナギサを押し退け、ルジアに駆け寄り声をかける。


「いい加減にしろ!何も発生してないから!おいルジア!お前からも早く説明しろ!こいつらの間で何かとんでもない誤解が生まれてるぞ!」


 そう言ってルジアを真っ直ぐ見つめるものの、何故か顔を少しそらして歯切れの悪い口調になるルジア。


「……べ、別にいいでしょ……服の一枚や二枚くらい。あたしが気にいったからしばらく貸しときなさいよ。そ、それに言いたい奴には勝手に言わせておけばいいのよ」


 鎮火どころか火に油を注ぐような発言をルジアが発した事により、教室内に更にどよめきが走る。


「……先生、生徒と講師の不純異性交遊についてですが……」


「……私は授業や指導に支障が無ければ問題ありません。ですので、節度を持った交際をよろしくお願いします」


「ヒュー!講師と生徒の禁断の愛、って奴っスか?何か面白そうですし、僕は応援するっスよー」


 みな口々に好き勝手な事を言い出して、教室内が騒然とする。


「誤解だーっ!!」



 ……その後、事情を一から順に説明し、クラス全員の誤解を解くと共にルジアへ服を貸さざるを得ない事情を語って皆を納得させるまでにおよそ半日の時間を費やすこととなった。

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