海が黒くなっちゃった!

 

 ボクは命をはぐくむ青い海。

 今日も、お魚さんやイルカさん、サメさんやクジラさん、人間さんもボクの中を泳いでいるよ。

 いろんな命が、ボクの中にある。

 ボクはみんなが大好きで、みんなもボクが大好きで、力をあわせて生きているんだ。


 プカプカ、プカプカ。


 おや?アレはなんだろう?

 海では見たこともない、へんなモノが浮いている。


 プカプカ、プカプカ。


 あ!これのこと、ボク知ってる!

 いつも人間が、持っているものだ。

 ペットボトルっていうんだよね。

 何百万年も生きているボクは、なんでも知っているんだ!



「くるしい、くるしい、くるしいよ」


 ボクの中に生きている、お魚さんが叫んでる。


「どうしたの、お魚さん?」


「ノドになにかがつまったんだ。咳をしても、友達にとってもらおうとしても、とれないんだ。くるしい、くるしい、くるしいよ」


「よし、口をあけて、みせてみて?」


「あーん!」


 お魚さんのノドには白いなにかがつまってた。


 これのこと、ボクは知っている。

 いつも、人間が持っているものだ。

 ビニール袋っていうんだよね。

 何百万年も生きているボクは、なんでも知っているんだ。



 お魚さんのノドにあったビニール袋をなんとかとって、ボクはフヨフヨただよった。

 お魚さんはずっとくるしそうで、ボクは悲しくなったんだ。


 おや?ボクの上をフネが浮いているね。


 フネはボクの上をスイスイおよぐ。


 あっ!たいへん!フネから黒い液体がもれてるよ!

 黒い液がボクの中にながれているのに、フネは気にせず、スーイスイ。

 どんどん黒い液がながれている。


 ボクはこれのこと、知っているよ。

 油っていうんだよね。

 油がないと、フネは海の中をおよげない。

 でも、油はおいしくないから、ボクはきらい。

 油はボクを、ボクもボクの中の命をたくさん苦しめる。

 …何百万年も生きているボクは、なんでも知っているんだ。



 フネがとおくへ行ったあと、ボクはゴホゴホと咳ををしながらフヨフヨとただよった。


 あれ?なんだろう?このにおい…?


 くっさーい!


 とつぜん、くさいにおいがボクのハナに届く。


 ボクは、これを知っている!

 人間のキッチンや、おふろ、トイレから流された水のにおいだ!

 洗剤と、シャンプーと、油と、お酒と、体に悪いごはんが混じった、くさいくさーいにおい。

 それに、においだけじゃなくて、味も最悪だ。

 ボクの中に住んでいる生きものも、このにおいと味がだいきらい。

 これ以上は、このにおいにみんな耐えられない。

 ……何百万年も生きているボクは、なんでも知っているんだ。


 たくさんのペットボトルと、ビニール袋、くろい油に、くさいにおい。

 ぜんぶがぜんぶ人間が出すモノ。人間が生み出したモノ。


 ああ!もうイヤになった!

 ボクはみんなが大好きなのに、どうして人間はボクのイヤがることばかりするんだろう。

 どうしてボクをいじめるんだろう。

 なんで?どうして?なんで?どうして?

 ボクはたくさん考えた。



 …あぁ、そっかぁ…。


 ボクは納得した。


 人間は、きっと、ボクのことがきらいになったんだ。

 きらいだから、イヤがることをするんだね。


 ボクは悲しくなった。

 悲しくなって、悲しくなって、一周回って、腹が立ってきた。


 ボクの怒りが内側から、湧き出てくる。

 怒って怒って、ボクの体が黒くなる。水の色が夜空と同じ、黒くなる。


 黒く、黒く、さらに黒くなる。


 そうしてボクは、真っ青な海から、真っ黒な海になった。


 ボクの怒りは涙の雨となって、黒い雨が海の外に降り注ぐ。


 黒い雨は植物を枯らし、海の外の空気を汚す。


 ボクはやられたことをやり返してやったんだ。


 人間たちは驚いて、ボクのところにやってきたけど、ボクはカンカン。

 許してなんか、あげないぞ。


 それからしばらくして、元気に泳いでいたお魚さんやカメさんやイルカさん、みんながどこかに行っちゃって、人間もボクの中に入らなくなった。



 だれもいない海の中。


 怒っていた気持ちはどこかに行った。


 ……でも、すごく、すごく、さみしいの。

 さみしいけれど、どうしたら、青くなるんだっけ…?


 ボクはひとり、キラキラお星さまの光る夜空を見上げた。


 そんなある日の昼下がり、たくさんの人間がボクのところにやってきて、叫んだ。


「ごめんね、海さん。わたしたち人間は、ずっと海さんにひどいことをしてきたね。本当は、海さんのこと、大好きなのに。いるのが当たり前になって、忘れちゃってたんだ。これからは、ゴミを捨てないよ。油も流さないよ。汚れもきれいにしてから海に流すよ。だから、また一緒に力を合わせて、生きていきたい。ひどいことをして、ごめんなさい。いつも、わたしたち人間を愛してくれて、ありがとう」


 たくさんの人間が海の中に飛び込んで、ボクをぎゅっと抱きしめた。


 ボクの心がじんわりと、じんわりと、あたたかくなる。


 そうだ。ボクは、命が好きなんだ。


 海にすむいきものも、人間も、みんな大好きなんだ。


 みんなも変わらず、ボクのことが好きなんだ!


 ボクは愛し、愛される気持ちを思い出して、胸の奥がポカポカしてきた。


 胸の奥が、ポカポカしてくると、あら、不思議!


 ボクの体は、真っ黒から待っ青にもどったんだ!



 キレイに生まれ変わった、海の中。

 また、たくさんの命が生まれ、今やもう、さみしかったボクはいない。

 ボクの中はつねににぎやかだ。



 ボクは命をはぐくむ青い海。

 今日も、お魚さんやイルカさん、サメさんやクジラさん、人間さんもボクの中を泳いでいるよ。

 いろんな命が、ボクの中にある。

 ボクはみんなが大好きで、みんなもボクが大好きで……。

 だから、ボクたちは、みんなで力を合わせて生きていく。


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