恋人は、サンタ、苦労する

喜島 塔

第0話「赤鼻のトナカイ」

♪真っ赤なお鼻の トナカイさんは〜 いつもみんなの〜 わらいもの〜♪


 5人の悪ガキたちが、ひとりの少女を囲んで、『赤鼻のトナカイ』を歌っている。


 女の子は、うずくまって頭を抱えている。


「おい! トナカイっ! この赤い鼻をつけろっ!」


 5人の中でも一際体格がいい少年が、少女に言った。


「やだよお……もう、やめてよお……」


  少女の大きな瞳から大粒の涙が溢れて、ポタポタと滴り落ちた。


「やーい! トナカイが泣き出したぞー!」


少女を泣かしたという征服感が、悪ガキどもの神経を更に昂ぶらせた。


「おいっ! やめろよっ! いやがってるだろう?」


 ひとりの少年が、その場に割って入った。その澄んだ瞳に少女は吸い込まれそうになった。


刹那、水を打ったように静かになり、やがて、一際大きな笑い声が教室内に響き渡った。


「サンタだ! サンタクロースが、トナカイを庇ったぞー」


 悪ガキたちは、腹を抱えて笑った。

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