第30話 石鹸を作りましょう
「お店も閉めたことだし、さっそく洗顔石鹸を作ろう!」
「そんなんで石鹸ができるのか?」
材料を準備する陽葵の手元を覗き込むティナ。いちから石鹸を作る時よりも材料はかなりシンプルだから不思議に思うのも無理はない。
「クリアソープは溶かして固めるだけで作れるからね。材料も少なくて済むし、とっても簡単なんだよ」
「なるほど。上手いこと調達できて良かったな」
そんな二人のやりとりを、アトリエの隅に居たリリーがうずうずしながら眺めていた。その視線に陽葵が気付く。
「ん? どうしたの、リリーちゃん」
「あっ、いえ……私の摘んできたカーミルを使っていただけて嬉しいなっと思いまして」
リリーはもじもじしながら、はにかんでいる。その反応が可愛くて、陽葵はほのぼのしてしまった。
「せっかく摘んできてくれたんだもん。有効活用させてもらうよ」
「お役に立てて良かったです」
リリーは照れながらも嬉しそうに笑っていた。
準備が整ったところで、さっそく洗顔石鹸作りを始めていく。
「じゃあ始めていくよー。まずはクリアソープをナイフで細かくカットします」
木製の板にクリアソープを並べて1cm角にカットしていく。石鹸ということもあり、強い力を加えずともサクサクカットできた。
トントントンとリズミカルな音がアトリエに響いていく。ふと顔を上げると、リリーがキラキラした眼差しで陽葵の手元を見ていた。
「よかったらリリーちゃんもやってみる?」
「いいんですか!?」
驚いたように目を丸くするリリー。「どうぞー」と引き渡すと、リリーは嬉しそうにナイフを握った。
刃先をクリアソープに沿わせてカットする。トントントンとリズミカルな音が再び響き渡った。
「なんだかこれ楽しいですねっ」
子供のように目を輝かせながらナイフを握るリリーを見て、ティナがひやひやした表情を浮かべた。
「おい、手を切るなよ」
その言葉でリリーはハッと手元を見る。
「はっ……はいっ。気を付けます」
過保護なお母さんみたいなことを言うティナに思わず笑ってしまいながら、陽葵はリリーがカットする様子を見守っていた。
「で……できました」
「ありがとー! リリーちゃん」
サイコロ状にカットしたクリアソープをビーカーに入れる。もとの世界であれば電子レンジで加熱するのだけど、今回は湯せんで溶かすことにした。
「細かくカットしたら、湯せんで溶かすんだけどー」
「はいはい、パラドゥンドロン」
陽葵がお願いするよりも先に、ティナはボウルにお湯を張ってくれた。相変わらず察しが良くて助かる。
お湯の準備ができたところで、クリアソープを湯せんで溶かしていく。クルクルと混ざながら熱を加えていくと、固形だったクリアソープが液体に変化していった。
「溶けてしまいましたね……」
「うん、ここにクレイとエキスを入れていくんだよ」
湯せんから下ろし、触れられる温度まで下がったところで、海泥、カーミルエキス、ラバンダ精油を加えていく。そして全体が混ざり合うようにクルクルかき混ぜた。
「溶かして材料を混ぜ合わせたら、型に流し込むんだけど、型はこれを使おう」
陽葵が準備したのは、お菓子作りで使う長方形の型だ。専用の型がなくても、これでも代用できるはず。
もとの世界では、牛乳パックを加工して型として代用していたこともある。2つの牛乳パックを箱状に加工して流し込めば、綺麗な長方形に固まる。
型に流し込んだ石鹸を指さして、ティナが尋ねる。
「それ、すぐには固まらないんだろう?」
「うん。固まるまで2~3時間はかかるかな」
「だと思った。貸してみろ」
「時間を進めてくれるの? 助かるー!」
ティナは魔法の力でサクッと時間を進めた。先ほど流し込んだ石鹸はすっかり固まっている。
「魔法ってやっぱり便利!」
陽葵はあらためて感心していた。
型から外した長方形の石鹸を厚さ5cmほどにカットしていく。ここまで来ると随分石鹸らしくなってきた。
「完成か?」
「ううん、まだ。ここから一週間程度乾燥させるんだけどー」
もう一度ティナをじーっと見る。
「はいはい、1週間進めればいいんだな」
「ありがとー! 助かる!」
再び魔法で時間を進めて、乾燥まで済ませる。今度こそ完成だ。
「できたぁ!」
「おお、随分簡単にできるんだな」
「ほ、本当ですねっ。あっという間です」
「これもクリアソープのおかげだね! カリンさんに感謝しなくっちゃ」
イチから石鹸を作るとなったら、こんなに簡単にはいかなかった。あっという間に完成したのは、快くクリアソープを譲ってくれたカリンのおかげだ。
今度完成した洗顔石鹸を持ってお礼に行こう。そんなことを考えながら、陽葵は出来上がった石鹸を紙に包んだ。
「洗顔石鹸も完成したことだし、明日はロミちゃんも交えてスキンケアのレッスンをしよう!」
「スキンケアのレッスン……ですか?」
「うん。洗顔の仕方とか化粧水を付けるタイミングとか、毎日のスキンケアで心掛けたいことをレクチャーしようと思ってるんだ」
「それは勉強になりそうですね」
「良かったら、リリーちゃんもおいでよ!」
「私もお邪魔していいんですか?」
「もちろん! 明日はシフトないから、閉店後に来てくれればいいから」
「わかりました。楽しみにしていますねっ」
リリーはエメラルドの瞳をキラキラ輝かせながら、うずうずするように両手を胸の前で握った。相変わらず可愛いエルフちゃんだ。
にまにましている陽葵を見て、ティナが若干引いたような視線を向けていたが、何も気付かないふりをした。
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