第21話 謎の少女の正体が判明しました

 コスメ工房のラインナップに、日焼け止めクリームが加わった。


 発売にあたり、この世界の人々にも紫外線や日焼けの概念から説明する必要があったが、ここで役に立ったのが手書きPOPだ。イラストを交えながら説明をすると、この世界の人々にも日焼け止めクリームの必要性を理解してもらえた。


 そんなこんなで日焼け止めクリームは、あっという間にラバンダ化粧水&乳液と並ぶヒット商品になっていた。


 今日もお店はお客さんで大賑わい。新たにメンバーに加わったリリーと共に、接客に勤しんでいた。


「きょ……今日も忙しいですね……」


 リリーが力なく笑いながら呟く。ただでさえ人見知りのリリーは、度重なる接客で疲れてしまったようだ。


 それでもお客さんから植物のことを聞かれると、臆することなくスラスラと解説を始めるから人と関わるのが嫌いというわけではなさそうだ。


 お疲れ気味のリリーを励ますように、陽葵ひまりはガッツポーズを浮かべる。


「閉店までもうひと頑張りだよ! 終わったらハーブティーを入れるからみんなでお茶にしようね」

「そ……そうですね。もうひと頑張りですね……」


 意気込みを新たにした直後、コスメ工房に怪しい人物が現れた。黒のローブで顔と身体を隠した小柄な人物。その姿は過去にも見たことがある。


「あの子って、確か町に行った時も……」


 町へ化粧品を売りに行った時も、ローブの少女が買いに来てくれた。化粧水と乳液を2つずつ。商品が気に入って、また買いに来てくれたのだろうか?


 ローブの少女は、音も立てずに陽葵に近寄る。何事かと身構えていると、彼女はローブで顔を隠したままボソッと呟いた。


「……てちょうだい」

「なんて?」

「だからっ! いますぐ肌を白くして頂戴!」


 少女は顔を上げて大声で叫ぶ。その拍子に顔を覆っていたローブがはらりと剥がれた。


 ローブを外した姿は、予想していた通り女の子だった。腰まで伸びたふわふわとしたピンク色の髪と、ドパーズのような黄みがかった瞳。全体的に幼い顔立ちでありながらも、強い意思を持った表情をしていた。


「肌を、白く?」


 目の前の少女に圧倒されながらも、陽葵は彼女の要望を繰り返す。すると彼女は身体にまとっていたローブをバサッと外した。


 ローブの下に着ていたのは、ふわっとAラインに広がる白のワンピース。細部には刺繍が施されていて、布地は他の女性達が着ているものよりも上質に見えた。


 陽葵がまじまじと見入っていると、少女は話を切り出した。


「以前、こちらのお店で化粧水と乳液を購入させていただきましたの。使ってみて、とてもよかったわ」

「それはありがとうございます」


 咄嗟にお礼を告げると、少女は大きく首を振る。


「今日はお礼を言いに来たのではなく、あなた方にお願いをしたくて来たの」

「お願いですか?」

「ええ、さっきもお話しましたが、私の肌を白くしてほしいの」

「白く……ですか……」


 陽葵は改めて彼女の肌をじっくり観察する。雪のように白い肌とは言い難いが、色黒というわけではない。日本人と同じようなナチュラルベージュの肌をしていた。


 もとの世界でも肌を白くしたいと望む女性は少なくない。だからこそ美白化粧品が人気を集めているのだ。


 だけど現実問題として、化粧品の力ですぐに肌を白くするのは不可能だ。


 化粧品は「人体に対する作用が緩和なもの」と定義されている。肌に付けてすぐに白くなるというのは緩和なものという定義から逸脱してしまうため、すぐに白くなる化粧品は基本的に存在しない。


「残念ですが、化粧品の力で肌をすぐに白くすることはできないんですよ」


 陽葵がきっぱりできないことを伝えると、彼女は苛立ったようにギリっと奥歯を噛んだ。


「あんなに凄いものを作れるなら、肌を白くするくらい簡単にできるでしょ?」

「残念ながらそこまでの力は……。ごめんなさい、力及ばず。だけど白い肌だけが全てではないと思いますよ」


 何気なく陽葵がフォローをすると、少女から敵意を示したような鋭い視線を向けられた。


「あなたに何が分かるの?」


 ぴしゃんと制されて、陽葵は言葉を詰まらせる。どうやら怒らせてしまったらしい。


 どうしたものかと悩んでいると、チリンチリンと音を立てながら、またしても見覚えのある人物がやって来た。


「失礼します。こちらにローブを被った人物が……っていましたね。アリア様」


 やって来たのは、町で出会った美形騎士さん。相変わらずカッコよくて凛々しい佇まいだ。後ろに束ねた金色の髪は艶々と輝いている。


 一方、美形騎士さんの姿を見た少女は、サッと青ざめた顔をする。


「セラ……まさかこんな早く来るなんて……」


 少女はその場で後退りをするも、狭い店内では逃げ場なんてなく、少女は騎士さんからがっしりと腕を掴まれた。


「また城を抜け出して。これで何度目ですか?」

「もーっ! なんで毎度毎度こんなに早く見つけるのよーっ!」

「アリア様のことなら大抵分かりますから」


 押し問答を繰り広げる二人を、ポカンとしながら眺める陽葵。するとティナが驚いたように目を見開きながら話に入ってきた。


「アリア様ってまさか……第三王女の?」

「第三王女?」


 そういえば、目の前の美形騎士は第三王女の専属騎士と聞いた気がする。ということは、目の前の少女は……。


「本物の王女様!?」


 驚いたように大声を上げると、二人は口論を中断し、陽葵に視線を向けた。それから王女様はふわりを髪をかきあげながら挨拶をした。


「申し遅れましたわ。私は第三王女のアリアよ」


 アリアに続き、美形騎士も胸に手を当てながら折り目正しくお辞儀する。


「私はアリア様の専属騎士としてお仕えしているセラと申します」


 目の前にいるのは王女様と王国騎士。信じがたい光景が広がっていた。


「そんな高貴なお方だったとは……」


 王女様自ら、森の中の小さなお店までやってくるなんて誰が想像しよう。そういうものは使いのものに任せるのが普通じゃないのか?


 陽葵が固まっている隙に、セラはアリアの手を引いて店を出ようとする。


「アリア様、帰りますよ」


 セラは帰るように促しているが、アリアはその手を勢いよく振りほどきながら拒んだ。


「いやよ! 今日はこの方たちにお願いがあってきたんだから。それを果たすまで帰れないわ!」

「お願いですか?」


 セラは怪訝そうに眉を顰める。その表情に構うことなく、アリアはもう一度陽葵と向き合った。


「少し、お時間を頂いてもよろしいかしら?」


◇◇◇


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