「雹空」

 嗤うだるまと、竦む私でこの部屋は成り立っていた。

 被害者の私は加害者の陰に、とある物を見た。見覚えの強い人形である。いや、いやそれだけではない。無くしたてのシャーペンに、幼い頃気に入っていた絵本まで彼は持ち寄って来ている。

「ね……ジュエル」

 エを言い切ったところ、彼ジュエルは冷たい体を震わせた。なぜ忘れていたのか、自分が憎いほど大切な存在の雪だるまである。

 親もなく雪だけが娯楽だった私には、初めての友達だった。今はスマートフォンのゲームや宿題で付き合う友達がいるけど、顔のない友達は、後にも先にもジュエルだけである。

 動力や過程など、センスも由来も見えないものには触れず、私はただ彼に手を伸べた。

 無謀な行動の先に、私はジュエルの悲しい顔を見た。どうしてそんな顔をするの? まだ私に伝えきれていない何かがあるの?

 名前の由来になった、きらきら輝く彼の背には定規が刺さっていた。さすがにこの定規がなんであるかを思い出すのは難しかった。しかしその定規についている桃と紺のうさぎ二体が教えてくれた。あれは初恋のシールだ。

「ジュエル……本当天邪鬼だね……顔を書いてあげたらすぐ消して、その癖拾わなくて良いものは拾って。何で公園に埋めたのを君が持ってるの」

 未だ泣き、既に敗れた親友の恋案ずる彼へ、私は歩み寄った。

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