「烏空」

 このゴミは食べられて、あのゴミは……

 ゴミ捨て人とのかくれんぼ、無音のカラスがそこにいた。

 雪降る朝は動きづらい。カラスは羽を無理に立て、電線から電線へ飛び立つ。

 カァーカァ。目星のものがない。僕は甘いものが好きなのに、人間が衛生だとか、背伸びして動くから食べられない。少しはゴミを残してよ。

 見つめた先にはまた一人。厚いコートを羽織る人が大きな袋を投げ捨てた。

 複雑と噂のカゴをこじ開けて、今日も大好物を探す。

 カァーカァ。本当はここから、出て森の中へでも行って兎を獲りたいな。この前の鳶が教えてくれたみたいに。

 カラスにやりたい事はある。しかし季節は動くのに適していない冬である。言い訳がましいカラスには、電線の上だけが家である。

 老いてしまった母ガラスは、もう少し遠いゴミ捨て場を漁ると言ったきり戻らなかった。母親を食い物にしていたこのカラスには重い出来事だった。

 カァーカァ。思い出すのは、小さい時。父親とした発声が、役に立つとそのまま信じていた。あの頃と比べて今は寒い。何より辛いことには。

 カァーカァ。僕には夢がない。

 

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