第23話 デート?②

 あの後俺たちは電車に揺られ、隣町の大型ショッピングモール【WAON】に来た。…移動中も色んな人に高峰さんを見るついでに俺もジロジロと見られたが、赤の他人から見た目だけで評価されると言うのはあまり気分がいいものではなかった。


 世の中のイケメンや美人はこんな視線を受けながら生きているのかと考えていると、隣から軽い荷物を片手に下げた高峰さんが声をかけて来る。


「ねぇアヤト?今更だけど…アタシの買い物にも付き合って貰って良かったの?アヤトに対してのお礼だから、アタシが楽しんだら変なのに……」


 先ほど自分の物と流華ちゃんへのお菓子の買い物を済ませた高峰さんは、俺に申し訳なさそうにそう言って来る。

 正直俺みたいな日陰者に、高峰さんの様な超がつく綺麗な女性と名目上とは言え、デートをする機会なんてもう二度と無いだろうから…それだけでも既にお礼として成立していると思う。


 先ほど荷物を持とうかと高峰さんに言ったが「軽いし大丈夫」と言われたので、俺たちは今俺の買い物の目的地へと歩いている所だ。


「え?そりゃあ勿論…せっかく高峰さんも一緒に来たんだからさ、俺と一緒じゃ難しいかも知れないけど…楽しむ権利はあるでしょ?…それに地元にはおっきな商業施設ってないじゃん?だから流華ちゃんに何か買ってあげたら喜んでくれると思ってたんだよね」


「ぜ!全然難しくなんてない!…寧ろアンタと一緒じゃないと家族以外だと楽しくないし……」


 そう思い出すように呟いた高峰さんの顔には僅かに影が差し、少し疲れた表情にも見える。…やはり高峰さんくらいの美人だと良くも悪くも人が寄ってきて大変なんだろうな。

 俺も少し意味合いは違えど、似た経験があるからこそ申し訳ないと少しは思ったが、ちょっとだけ高峰さんに親近感が湧いた。


 そんな事を話しつつ高峰さんと一緒にモール内を歩いていると「…そう言えば」と高峰さんがジト目で睨んで来た。


「…流華のことは名前で呼ぶ癖に、アタシの事は未だに名前で呼んでくれないよね…アタシはアヤトって呼んでるのにさ?」


 そう俺の真横でジーッと睨んで来る高峰さん……いやそりゃあ流華ちゃんとのハードルの高さを考えれば…ねぇ?

 そう思いながらぐぬぬ…と口を閉じていると、高峰さんの表情が少しづつ曇って行く。


「…アタシはさ?昔から仲の良い友達とか、特別な人って出来た事無くって…だから初めて出来たアヤトにはアタシの名前呼んで欲しかったんだけどな……」


「と、特別…!?」


 そう悲しそうに俯き、言葉を吐露する高峰さんを見て俺は姿を思い出し、羞恥心で言えなかっただけの心の中の俺にビンタをして言葉を出す。


「ご、ごめん鈴華さん!そんなに思い悩んでるなんて思わなくて…俺その………?」


 俺が複雑な感情でアワアワと狼狽ながら高峰……鈴華さんの名前を呼ぶと、鈴華さんの肩がプルプルと小刻みに震え出す。そして次の瞬間、俺の方に向き直って……悪そうな顔をしながら楽しそうに笑っていた。


「ぷぷぷっ………アハハハハ!引っかかったわねアヤト!アタシがそんなので大袈裟に落ち込むわけないでしょ〜アハハッ!」


 …そう俺の横で俺を見ながら大笑いをしている鈴華さん。これは俺が嵌められたのか…変な勘違いをする前で良かった…。


「も、もしかして俺今嵌められた…?」


「いひひっ♪そーよ!アヤトは今アタシに騙されたの!あ〜面白かったぁ…良い顔してたから写真でも撮っとけば良かったなぁ〜♪」


 そう言いながらスマホを構える鈴華さん。…なんだ悲しんでなかったのか、なら俺が騙された程度の事は良いか。…あまり健全な心の男子をからかわないで欲しいが!


 そう思っていると、スマホを下ろして真剣な表情に切り替わる鈴華さん。


「…でもさっき言った事は本当の事だからね?そんなに深刻には思ってないけど♪だからアヤトも、とりあえずさん付けを外せる様に頑張ってよ?」


「あ、あぁ…」


「よしよし♪流石アタシの特別な人♪さっ!急いで行こっか!どーせアヤトは買う物の前で長く悩むだろうしね♪」


「早く行くよ〜!」と言って俺の前を歩き出す鈴華さんを、俺は急いで追いかける。…なんで鈴華さんは俺がゲームの前で悩む時間が長い事を知っているんだろう?

 不思議に思いながらも俺たちは、はぐれない距離を保って目的のお店へと歩いて行く。


(…特別な人…か……)


 深い意味は全く無いだろうが…俺の顔赤くなってないよな?

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