第4話 初めまして…だよな?

「なっ?!えっ!?」


「(うふふ、静かにしないと先生に怒られちゃいますよ?辻凪君?)」


 そ、そうだった…余りの驚きに大声を出すところだった…にしても、住む世界の違いそうな美白さんが俺の横なんて…そんな偶然があるのか…


「(そ、そうだあの時はありがとうございました。体育館までの道を教えてもらって…)」


「(いえいえ、私もあの時は人に囲まれて困っていましたし…お互い様ですよ。……それに、あそこに行けば貴方に出逢えるかなって思っていたのもありますし…)」


「(え?)」


「(い、いえお気になさらず…)」


 そう言って少し頬を赤らめた美白さんは、再び前を向いてしまったので俺も先生の話を聞く事にした。


「よーしそれじゃあ?お互い初の顔合わせだろうから、簡単な自己紹介でもして貰おうかな。じゃあ名簿順に赤塚からだな。」


 先生がそう言うと、生徒が順番に自己紹介をして行き、勇次の番が回って来た。


「小柳勇次って言います!中学では部活でバスケやってました!この高校も超危なかったんですけど、親友の助けを借りてギリギリ受かりました!好きな事は体を動かすこととゲームです!よろしくお願いしゃす!」


 そう言い終わった後、勇次は爽やかな笑顔で自己紹介を終え、それと同時に大きな拍手が巻き起こり、教室中の女子の心を撃ち抜いていた。流石はイケメン滅んでしまえ。

 ただ美白さんだけは笑顔だけれど、ほかの女子の様に浮ついてはいなかった。やっぱり彼女程の美人なら勇次くらいのイケメンでも見慣れているんだろうか?


 そしてまた自己紹介が過ぎていくうちに、俺は一人の女子が印象に残った。


東堂梓とうどうあずさです!出身は◯△中学で、バレーボール部にいました!趣味はジョギングで好きな物はミニットモンスターです!よろしくお願いします!」


 ペコっと小さく頭を下げた、髪をポニーテールにして、綺麗なうなじがのぞいているスポーツ女子感のある東堂さん。


(…あの子勇次と相性良さそうだな…)


 とそんな事を思っていると、突然俺の頭に小さな消しゴムが左側から飛んで来て、左を向くと少しむくれている様な美白さんがまた声をかけて来た。

 …むくれてる顔までカワイイなんて反則だと思う。何でむくれてるのかは分からないけど……


「(……辻凪君はああいう女性がタイプなんですか?)」


「(ち、違いますよ?俺の親友の勇次と相性が良さそうだなって思っただけです)」


「(勇次…あぁ、小柳君の親友とは辻凪君の事だったんですか…タイプが全然違う雰囲気でしたので、全然分かりませんでした…なるほど…確かに小柳君の様な方のタイプであれば……)」


 そう納得がいった様な顔をしてウンウンと頷いている美白さん。

 悪かったなあんな超イケメンの親友が、こんなパッとしない奴で!もう言われ慣れたけど!


「(そうですか…私はてっきり辻凪君の好きなゲームが好きな女子という事で、辻凪君が気になられたのかと…)」


「(あれ?俺美白さんにゲームが好きって話した事ありましたっけ…?)」


「(…っ!?ほ、ほら辻凪君のカバンについているキーホルダーがミニモンのキャラクターですし!そ、それで辻凪君も好きなんじゃないかなって思っただけでっ!!)」


「(な、なるほど…)」


 すごい早口でそう捲したてる美白さん。にしても凄い洞察力とゲーム知識だ、俺が好きなこのキャラは結構マイナーなミニモンなんだけどな。


「次は…辻凪!お前だぞ〜」


 そうこうしていると、自己紹介の番が俺に回ってくる。俺は席から立ち上がり、簡単な自己紹介をする。


「え〜辻凪綾人と言います。好きな物はゲームです。よろしくお願いします」


 そう言って席に座ろうとすると、先生が「もう一言ないか?」と言って来たが、あいにく他に言えそうなことがない。


「えーじゃあ誰か辻凪に質問したい奴、いないか〜?」


 そう言って教室を見渡す元木先生。しかし勇次みたいな人気者ならわからないが、俺みたいなやつに興味を持ってくれる奴なんている訳もなく、教室はシーンと静まりかえっている。…うん地獄だ。

 そんな時その静寂を切り裂くように綺麗な声が、俺の横から聞こえて来た。


「では私から質問です。く…辻凪君の好きなお料理は、ハムレタスのサンドイッチですか?」


「え?あ、はい…ハムレタスが一番好きです……」


「そうですか、ありがとうございます」


 ニコッとそうお礼を言った美白さんを見て、教室中が満開の花畑のような空気に変わった。…凄いな美白さん、あんな地獄みたいな雰囲気だったのに質問一つでこんなに空気を変えられるなんて…やっぱり超美人は格が違う。


 …にしてもやけに美白さんの質問が限定的というか…確信的というか…?なんだかさっきからちょいちょい、みたいな感じがするけど…流石に気のせいだよな?


 俺は初めましての筈の美白さんに疑問を感じながら、再び席に座ることにした。

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