第2話 入学式と遭遇

「おい綾人!起きろよ!朝だぞ!!!」


 何故か俺の家なのに、勇次の声が聞こえる…何だ夢か…


「起きねえとメシ作ってやんねーぞ」


「おはようございます」


「いくつになっても食い意地半端ねぇな?!ほら飯の用意してる間に、高校の制服に着替えてこいよ」


「そうするわ」


 そう言って俺は今から行く高校の制服に着替える。三恋さんれん高校。俺たちが今日から通う高校の名前だ。

 最初は『何だこのふざけた名前は』と思ったりもしたが、人生には三度あるモテ期をモノにする努力が、生徒の学力向上の努力に似ているから当てはめて〜みたいな事が書いてあった気がする。…うんよく分からん。


 しかしこう見えても県内屈指のマンモス校で、今年の一年生だけで1000人くらいいるとか…しかも敷地もバカでかいらしい…


「ほらメシできたぞ」


「お、ありがとな勇次」


 『いただきます』とそう言って俺たちは朝食を食べ始める。…うんやっぱり俺が作るより美味い。俺もまだまだ頑張らないとな…


「そういえば綾人、俺がやったゲームやってくれたか?」


「お前なぁ…あんなラベルも付いてない、どんな内容のゲームか分かんねぇゲーム、やる訳ねえだろ?」


「まぁ確かにな、俺も古いゲーム屋で見つけたけど、何でかお前にあげたくなったんだよな…今度一緒にやってみようぜ?」


「やだね!お前とはミニットモンスター以外ゲームの趣味が合わないし、もう封印してあるよ」


「何でだよ!!!」


 俺たちはそんな事を言いながら片付けを済ませて、俺の家を出てから勇次の家に向かって歩き出した。


「なぁ…やっぱり綾人の両親は…」


「あぁ、いつも通り仕事だとよ。ただ後から兄貴と姉ちゃんは来てくれるって」


「いつも通りか…中学の卒業式の時もそうだったもんなぁ」


「だな」


 そんな事を言っているうちに俺達は勇次の家族と合流し、写真を撮ったりしながら一緒に高校へ向かって行く。


 ◇


「でっけえな……」


「あぁ…凄えな…」


 三恋高校の前に立った俺たちは、その広さに圧倒されていた。何だこれ…余裕で迷子なれんだろ…こんなの。


『おい聞いたか?!今年の一年にめっちゃ可愛い子が三人もいるらしいぜ?!』

『マジかよ?!今年入学出来て良かった〜!!!』

『あっちの方にいるらしいから見にいこうぜ!!』


 そんな高校生らしい会話がそこかしこから聞こえてくる。にしても三人の美少女…ね…なんかデジャヴを感じるのは気のせいか?


「とりあえず…式に出るために体育館行くか、綾人迷子になんなよ?」


「バカにしてんのかお前、学校如きで本気で迷う訳ねーだろ」


 そんな考えは勇次の煽り(?)によって掻き消されていった。






 …そう言ってた時期が俺にもありました。


「何処だ?ここ…」


 辺りに人はいっぱい居るが、勇次とはぐれてしまった俺に、他人に話しかけるほどのコミュ力を俺は持っていない。しかも話しかけたところで怖がられるか、キモがられるに決まってる。間違いない。

 現に俺の周りには人がいない。それどころか露骨に避けられてる…泣きそうだ。


「携帯は…クッソ!昨日充電すんの忘れてた!」


 まぁまだ式には時間があるしな、ここらで適当に時間潰して…


 ざわ...ざわ...


 俺が内心泣きそうになって居ると、周囲が何故かざわつき出し、そのざわつきは俺の近くまでやって来る。

 するとモーセの海割の様に割れた人混みを、一人の超美少女が俺に向かって歩いて来た。


「あ、あ…あの…大丈夫…ですか?」


 そう言って俺に話しかけて来た女の子は、があった俺でさえ見惚れそうになる程の美少女だった。

 艶のある美しい黒髪をサイドに流し、目は大きくシュッとした小顔にスタイル抜群の体。そんな美人が片耳に髪をかけながら俺の目の前にいる。


 …惚けてる場合じゃないな、ちゃんと返さないと。


「あ、あぁ…その…道に迷っちゃって…体育館に行きたいんですよ」


「そ、そうですか!それなら…い、一緒に行きます…か?」


 ピシッ


 …そんな事を俺如きインキャが超美少女に言われたもんだから、周りからの殺気が上がった気がする…ここは早々に退散しなければ…不相応な関わりは自分の心をからな…


「……」


 あれ?でもこの子…何だか……何だそう言う事か。ならそうするしかないか…


「じゃあお願いしてもいいですか。早速行きましょう」


「へ?…あっ……」


 俺は咄嗟にその子の手を取り、その場から抜け出した。周りから睨まれたりもしたが、睨み返せば全員目を背けた。…まあ俺目付き悪いしな。


 そう思いながらその女の子を連れて、俺は近くの校舎に入った。


「ふぅ…ここなら大丈夫かな」


「あ、あの……手が…」


「あ?!す、すみません!!!急に手なんて繋いじゃって!」


「う、ううん…大丈夫。それで、何でここに?」


「ん?えっと…勘違いならすみません、貴女が人に囲まれてるのが辛そうだったから、人が少ないところに行こうかなって思ったから…ですかね?ホントに何となくそう思っただけなんですけど…」


「っ!?……」


 やっぱりな、この子はあの人混みの中で俺みたいに人相が悪い奴に助けて欲しかったんだな。それにしても余計なお世話だったかな…

 まぁいいか、もうどうせ関わることなんてないだろうしな。


「それですみませんけど、体育館までの道って…どう行ったらいいんですかね?親友を待たせてまして」


「ふぇっ!?あ、えっと…そこの廊下をまっすぐ行って、渡り廊下を渡ったところを右に行くとあります…」


「そうですか、『ご親切にどうもありがとうございます!助かりました!』」


「っ!?…やっぱり……そうなの…?」


 後ろで何かを言っている女の子を背に、俺は体育館へと歩き出す。すると女の子が大声で「待って!!!」と俺を呼び止めた。


「貴方の……貴方の名前を教えて下さいませんかっ?!」


 …参ったな、あんまり関わりたくないんだが…まあ仕方ないか。


「俺は辻凪綾人だ!それじゃあ!」


 俺はその子に名前を言って、早足でその場を後にした。


 …それにしてもあの子…どっかで見た様な……いや気のせいだな、あんな美人一回見たら忘れるわけないしな。


 そうして俺は勇次と合流するべく、体育館へと急いだ。










「やっぱり…名前と見た目は全く違うけど……やっと…やっと会えたっ!康介君…いいえ、辻凪綾人君……」


 そう残された美少女は顔を赤らめ、潤んだ瞳で彼の背中を見てそう小さく呟いた。

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