美少女幼馴染に童貞を奪われた

「いただきます」


 ご飯を食べようと手を合わせる。目の前には、黄色い卵サンド、赤色のトマトと緑色の野菜が使われたサラダ、そして橙色のみかんが朝食として用意されている。飲み物にはブラックコーヒー。優雅な朝だ。


 この朝食を用意した母さんは、父さんが病死してしまってから厳しい状況が続いている家計を支えるために、朝早くから仕事に出かけた。


 父さんを亡くした僕を支えてくれるのは母さんだけではなく、ちょうど今目の前にいる青葉もだった。そんな青葉は、僕にとって幼馴染であり、そして家族同然の存在でもある。


「それで青葉、僕に用事があるんだったっけ」


 ブラックコーヒーの入ったコーヒーカップを傾けて優雅な朝を演出しながら、耳を青葉の話に傾ける。


 青葉は勇気を出すように拳を握って、すうっと息を大きく吸い込んで言った。


「春樹……わたし、処女を喪失しました」


 しょじょ、そうしつ、聞き慣れない単語の羅列に理解するまでしばらく時間がかかってしまった。


 そして、その言葉の意味を完全に理解してからは、僕はなにを考えてなにをいえばいいのかわからなくて、すっと全身から力が抜ける。手に握っていたコーヒーカップは、それを支えていた力がなくなり重力に従って落下した。


 当然、そこそこの座高から落とされたコーヒーカップは無残にも割れてしまい、コーヒーはフローリングの床に零れて少し染み込んだ。


 その光景をぼーっと眺める僕は青葉に話の続きを詳しく訊くべきなのか、それともこの割れたコーヒーカップと零れたコーヒーを先に片付けるべきなのか、判断がつかなかった。


 だが、慌てた様子でキッチンペーパーを一ロール持ってきた青葉の姿を見てやっと再起動し、片付けながら話を聞くことにした。


「ええと、処女を喪失したんだったっけ。それは、異性と性交渉をしたって意味でいいの? 青葉はそれを望んでたの?」

「言い方が堅すぎるような気がするけど、まあ合ってる。それにわたし、ずっと好きだったから望んだエッチだよ」


 こんな時なんというべきか、僕の浅い人生経験ではわからず、そもそも普通の女子は処女を喪失したことを幼馴染に言うのか、それすら判断がつかない。僕は普通は家族にも言わないと思っていた。


 そもそも僕らはまだ学生、学業が本分だというのに、性交渉とはなんという淫らな行為だろうか。


 だからと言ってなにも言わないというわけにもいかず、もやもやとした気持ちを抱えながら僕は口を開く。


「おめでとう、と言えばいいのかな。その人とは上手く行っているの?」

「うーん……まあ確かに初体験は終わったんだけど、まだ恋人だとは思われてないと思う」

「恋人だと思われていないような人と性交渉をしたってことか……。信用のおける人ならいいんだけど、僕は心配だ」


 言いながら、コーヒーとコーヒーカップの欠片の片づけが終わったので、キッチンペーパーに乗せた大量のコーヒー付きキッチンペーパーとコーヒーカップの欠片を持って立ち上がる。


「大丈夫だよ、相手は春樹だから」


 僕の手からは無数のコーヒーカップの欠片が地面に落下し、落下点には僕の足があって、コーヒーカップが突き刺さった。どくどくと流れ出る血をどこか他人事のようにぼーっと見ながら、馬鹿みたいに青葉の言葉の意味を考えた。


「春樹!?」


 相手は春樹だから、と言ったが、別に青葉の性交渉の相手が僕だと決まったわけじゃない、別の相手が僕だったのかもしれないと意味不明なことを考える。だが、僕は青葉と性交渉をした記憶はないので、的外れというわけではないようにも思える。


「春樹、血が出てるよ! 大丈夫!?」

「あ、ああ。大丈夫だ……」


 僕の初めては知らないうちに奪われていたのだろうか。

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