第54話 ヤンヤン、包囲網される!
「やっぱパイルクローだめだったかあ」
「ちっちゃいから突撃喰らうと折れちゃう感じでしたねー」
「そっかそっか。じゃあ、やっぱパイルランサーのままがいいな。邪魔にならないようにバックパックのここ。ここがちょうど隙間になるから。ここに装備しておくな。ま、ヤンヤンなら一発で取り出せるだろ」
「うんうん、自分の燃料槽交換するのより楽っぽいから平気ー」
整備長と装備についてのディスカッションをするのだ!
ま、私はもうすぐ船を降りてスバスさんと駆け落ち、中立都市で整備屋を開いて暮らす予定なんだけどね……!!
僅かな間だけど、世話になったグワンガンを守るために頑張りましょうー。
スアをしっかり整備してもらい、ついでに色々改造をしてもらったりなどするのだ。
「ゲルマ共和国のMC、この翼がいい感じでな! こいつも虎縞付けてスアにくっつけるからよ! 滑空には普通ならかなり習熟訓練が必要っぽいが……ヤンヤンならぶっつけで行けるだろ!」
「羽が生えるの!? やったー!」
どんどんスアがかっこよくなるのだ。
これは嬉しいなあ。
毎回燃料を敵から引っこ抜いて補充するの、なんだかんだで手間なんだよね。
バランスなんか考えず、パチパチといろいろなMCのパーツを外したりくっつけたりし、とりあえず今のスアの完成形みたいなものができた。
バックパックにたくさんの推進機と、翼が四枚と、格納型のパイルランサーが二本。
くっついている本体は、ゲルマのイケてる部品をちょこちょこ足してある。
「うーん、足し算の美学……! これで、世界中の機体のつええ部位を片っ端からくっつけたMCになるな。バカのパワーアップだこりゃ」
整備長の言葉に、整備士たちが大爆笑した。
えー、笑うところ無くない?
あらゆる最新型の強い部分を足し合わせてるんだから、強いに決まっているのだ。
「いや、そんなことはないっす」
「もうあの化け物、誰も乗りこなせないす」
「僕らが乗ったら加速で潰れるか」
「全身の可動を制御できなくて空中分解するす」
「ええー」
ウーコンとサーコンのあまりの物言い!
でもまあ、私が乗れるんだからこれでいいのだ。
そうこうしていたら、艦内放送でメガネさんの声が流れてきた。
『えー、本艦は包囲されているみたいです。恐らくは首長国の艦隊。それから……ゲルマ共和国の飛行巡洋艦隊……。なんでしょう、これ? 戦争でも始まるんです?』
「ええ……」
整備士の人たちから、どよめきが漏れた。
二大勢力に挟まれるというの、実は初だったりしない?
場所は首長国のある砂漠地帯。
昔は石油ってのがたくさん出たんだって。
その石油の力で、首長国は力を付け、南部大陸同盟の盟主となった。
首長国はグワンガンをこのまま帰す気がないみたい。
さらに、ゲルマ共和国の巡洋艦隊は完全に自分たちの邪魔をしたグワンガンを追ってる。
挟み撃ちだー。
私は艦橋を覗きに行った。
艦長が難しい顔をしている。
「どうなんです?」
「睨み合いだなあ。どちらも、俺らグワンガン隊を捕らえたくて仕方ないらしい」
ちらっと艦長がこっちを見た。
「その様子だと、スアの強化は終わってるみたいだな?」
「終わってます! なんかもう、あるだけ最新型の一番いいところだけ詰め合わせたよくばりセットになってます!」
「そうかそうか! じゃあ、何かあったら頼むぞ、ヤンヤン!」
「ほーい!」
※
戦場でにらみ合う三つの勢力。
ゲルマ共和国は飛行巡洋艦の甲板には、高速型MCアドラーが複数機。
共和国が所有する最強の部隊である。
その中に、漆黒のMC、ブンデスアドラーの姿があった。
修理は完全に終わっている。
機内では、ゲルマのエースであるクーゲルがアップを終えていた。
「おいおい、こりゃあ……あの虫戦艦を追っていったら首長国と激突かよ。まあいいんじゃないか? ここで同盟の首を取っておくのも悪くない」
対するのは、首長国艦隊。
所有する量産型は、全てが南部大陸同盟最新にして最強。
アタリ・ディッブン部隊である。
そしてサバクオオカミをモチーフとした彼らを率いるように、砂色の巨体があった。
殲滅型都市攻撃用MC、ゴモラー。
その最新型である。
ゴモラー・2(イスナーン)と呼ばれている。
内蔵されているコアMC、カグンはさらなるチューンを加えられている。
ゴモラー2が戦闘不能になった段階で、その推進機と武装の半分を引き継いで独立行動が可能になっている。
機内にて、少女兵士マリーヤは意識を集中していた。
「ここで会えたのは本当に幸運。絶対に決着をつけるから。出てきなさい、虎縞のMC……!!」
そしてその二つの勢力の他に……。
誰もが意識していない最後の存在。
それは、これまでグワンガンが、ヤンヤンが蹂躙してきた者たちの憎しみだった。
彼らが重ねた異常な勝利の裏で、ありえない敗北にまみれた者たちの最後の生き残りだった。
『ついに追い詰めたぞ……、陸上戦艦グワンガン……! スア・グラダート……!!』
砂漠の砂に紛れて、その異形の機体は戦いの時を待つ。
ヴァルクの胴体に、デスマン-3のバックパック。
肥大した下半身は、ゴモラーの残骸を利用していた。
そしてハードポイントの全てに、無理やりとでも言うべきやり方で火砲を搭載している。
その武装では、本来ならばまともに飛行することはできまい。
だが、少しでも浮かび上がれば、戦場の全てを射程に収めることができた。
『死んでいった者たちの怒りを、恨みを知れ……!! スア・グラダート! ここがお前の墓場となる……!!』
声を発するコクピットに、人間の影はない。
それは、AIだ。
これまでグワンガンが倒してきた機体のAIが、意志を成していた。
落とされていったパイロットの無念、十分な力を発揮する前に散った恨み。
そういったものがAIに染み込んだとでもいうのだろうか。
あらゆる戦場からかき集められた部品が、その機体を構成している。
AIは己を、パッチワーク・ファントムと呼称した。
今、この砂漠にて、ヤンヤンを三つの勢力が襲う……!
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