第38話 ヤンヤン、イケメン大佐の船に行く!

 乗り移ってきたハオシュエン大佐。

 技術者と、MWも一緒だった。


 で、艦橋にやって来て、


「や、やめろ、やめてくれー!」


 うちの艦長が懇願するのをハハハと爽やかな笑顔で受け流し、あっという間に通信機を付け替えてしまった。


「あー、斧で破壊した跡がある。これはやってるねー」


 艦長、副長、静かになる。

 一応上官だもんね!

 それにいつだったかの中佐と違って、ハオシュエン大佐は完全に善意でやってくれているのだ!


「ところで……グワンガン隊には噂のエースがいるらしいと聞いたのだが、どこにいるんだい? 可愛らしいお嬢さんだそうじゃないか」


 可愛らしい!!?!?!?


「はい! はいはいはい! 私です!!」


 私は艦橋の入り口でぴょんぴょん飛び上がってアピールした。

 ハッとする大佐。

 イケメン大佐を一目見ようと、オペレーターの三人も詰めかけてきていて、彼女たちは「ヤンヤンで間違いないですよー」「超強いんですよ」「強いという概念を超えているよね」と証言してくれた。


「なるほど、君がヤンヤン伍長か! ……おかしいな……! パイロットは曹長からスタートするはず……ははーん! 君がまだ年若いから、艦長たちが君を守ろうと思ってその活躍を過小に報告しているんだね? だからその地位なんだ!」


 多分当てずっぽうだし、大佐の部下たちはハハハ、と笑って流しているんだけど、うちの船の人たち全員がシリアスな顔になった。


「そ、その通りですよ……」


 艦長がやっと絞り出す。

 うんうん、それでいい……。

 変な活躍は報告しなくていいからね……。


「では、その素晴らしいパイロットを我らが艦、ガンガルムへ招待しよう!」


「な、なんですってー! 行きまあす!」


 そういうことになったのだ。

 接舷していグワンガンから、ガンガルムへ……。

 おお、なんか床の感触が全然違うんですけど。


 あちこちベコンベコンと音がするデコボコなグワンガンに対して、ガンガルムはフラット!

 歩きやすい!


「それから、ガンガルムはあまり揺れないんだ。免震機能があってね。大型ショックアブソーバーで常に揺れを打ち消している。乗り物に弱い人も乗りやすいようにできているというわけだよ」


「すごーい!」


 それはシェフの料理を運ぶ時も便利そう……。

 ただ、グワンガンのあの揺れは、慣れてくると寝るときに揺りかごみたいでいい感じなんだけどな……。


 食堂、格納庫なんかを次々に見せてもらう。

 す、凄い……!

 凄い設備だ!


 これに比べたらグワンガンの食堂と格納庫はバラック小屋だあ。

 それにこの陸上戦艦ガンガルムは、なんとMCを七機も搭載できるらしい。


 すごー。

 ずらりと並んでいるのは、よく手入れされたピッカピカのノックが七機。

 うーん、凄い。


 いや、機体性能だけなら、ウーコンとサーコンのヴァルクの方が上なんだけど。


「大佐! 彼女がグワンガンのエースですか?」


「まだ子どもじゃないですか。それがあの絶大な戦果を挙げたなんて信じられませんね……!」


「だが、大佐がそう仰るのだ。我々が疑うことではない」


 おおーっ!

 七人のイケてる男子パイロットが!!

 なんという環境なんだガンガルム!

 婚活女子にとっての天国か……!?


 私はクラクラした。


「せっかくだからシミュレーターで対決をしてみてはどうだい?」


 ハオシュエン大佐の提案で、シミュレーターなるものを使うことになった。

 なんです? それ?


 なんと、格納庫の一角に、コクピットみたいな見た目の装置が二つ設けてあったのだ!

 これを使うと、モニターに戦闘の風景っぽいのが映し出される。

 ノックを実際に乗って戦闘した……みたいな雰囲気を味わえるらしい。


「ほえー、やってみますやってみます」


 私が乗り込むと、イケメンパイロットの一人が対戦を申し出てくれた。

 うひょー、ありがたい……。後でお名前も聞きたい……。


 私は浮かれて浮かれて……で、シミュレーターで彼をこてんぱんにやっつけた。


 あれ凄いね!

 本当にノックに乗っているみたいだった。

 シミュレーターの戦闘データも今後に生かされるらしく、パイロットは積極的にこれを使うことが推奨されてるらしい。


「つ……強い……! 一度やりあっただけで完全に動きを読まれる……」


「なんだって!? ハハハ、こいつはゲームみたいなもんだからな。次は俺だ……ウグワーッ!!」


 完封!


「おいおい情けないぞお前ら! よし、俺の力を見せてやる……ウグワーッ!!」


 完封!!


 だんだん大佐と、これを眺めていた整備士の人たちから笑いが消えていく。

 目が真剣になってる。


「本物だな……。彼女は噂通りの、グワンガン隊のエースだ」


 お分かりいただけただろうか……。


「しかし、そんなエースがどうしてあんな鹵獲機のジャンクを使っているんだい……?」


「慣れちゃってて……。下手にAI制御されるとむしろ動きが悪くなるし、敵のこととかも戦闘でやり合うじゃないですか。そしたら動きとか覚えるし、得意なこととか不得意なことも分かるんで……」


 ざわつくパイロットの人たち。

 なんだなんだ。

 わ、私また何かやらかしましたかね……!?


 なんかいちいち何かをするたびに驚かれるし、パイロットの人たちが終わりなきシミュレーター戦を挑んできそうだったので、私は退散を決めた。


 こ、ここはイケメンパラダイスだけど、心が休まらない!

 というか私を女子扱いしてくれないのだあ!


 グワンガンに駆け戻ってきたら、整備士見習いになっているスバスさんが出迎えてくれた。

 晴れて二等兵になったんだそうで、これから頑張って出世を目指してるとか。


「あっ、ヤンヤンさんお疲れ様です! はいこれ、お茶」


「うひょー、ありがとうございます、スバスさん! そうそう、こういうのでいいんだよ、こういうので……」


 イケメンが多すぎるのも良くないんだな……!


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