第36話 ヤンヤン、山賊に落ちぶれた連中と戦う!

「ヤンヤン、俺が情報を集めたところ」


 副長が追いかけてきて教えてくれた。


「あっ! 食材を船に届けてくれればいいのにー」


「そのついでだ。山賊の正体についてだが、ありゃあお前さんが蹴散らしたガザニーア共和国軍の残党だぞ」


「えっ、そうだったんですか!?」


 この間、砂漠で出会ったと思ったけど。

 でも、あの時の黒い量産型じゃなくて、大きいMCと中にいるちょっと色が変化してたMCだけだったっけ。

 じゃあ、あの大きいのはガザニーアっていう国のMCじゃなかったってこと?


「あいつらは中立都市に戦争をふっかけた。その上、大統領の甥を名乗る首魁は好き勝手喚いた後に死んだだろ。あれでガザニーアは、大統領の身内を名乗る賊が機体を奪って暴れた、と対外的に広報した。そして奴らの首に懸賞金を賭けたぞ」


「えっ、つまりそれは……」


「頑張れ! 金になるぞ!!」


 副長がすっごくいい笑顔になった。

 私もサムズアップして応える。

 旦那様候補の活躍を見極めつつ、お金稼ぎまでできちゃうなんて最高だなあ!


 ここで副長は戻って行った。

 私は借り物武装MWで、ガッチャンガッチャン走っていく。


 これは四本脚タイプなので、安定してていい感じね。

 その代わりちょっと加速が弱い……。


 相手があの時のMCだと、攻撃避けられるかなー。

 ギリギリかなー。

 じゃあこの搭載してるマシンガンとかで相手の車輪を壊して……うんうん、イメトレでいい感じになってきた!


 そうこうしてたら、銃撃音が響いてきましたよ。

 MWを走らせて駆けつける私。


「ウグワーッ!!」


 あっ!

 さっき私にミルクとチーズを奢ってくれた人がMWごとふっ飛ばされて行った!


「ウグワワーッ!!」


 あっ!

 さっき山賊を追っ払った! って豪語してた人がゴロゴロ地面を転がっていった!


「ウグワワワーッ!!」


 あっ!

 MWの整備を引き受けてた人が爆発に巻き込まれた!

 なんで整備要員なのに最前線にいたのーっ!!


 私は慌てて爆発に飛び込んだ。

 そして、コクピットで丸くなっていたので背中の火傷くらいで助かってるその人を見事救出なのだ。

 おお、もったいないもったいない……。


「き……君は……」


「私は陸上戦艦グワンガンのちょっと強いパイロットなので! 後は任せて下さい!」


「す、済まない……!! 君にいいところを見せたくて……!!」


 うっ、わ、私のために!

 くぅーっ、私って魔性の女じゃん……!!


 じゃあ魔性の女なりに頑張るぞー!

 おーっ!


 眼の前にいるのは、あちこちボロボロになったMC。

 MWと比べると、全然大きさが違う。

 MCが人間サイズなら、こっちは子犬くらいの大きさしか無い。


 まともに勝負してはいけないのだ。


「おりゃ、マシンガン!」


 頭の上で、バラララララララッと猛烈な音がする。

 う、うるさーい!!


 これは連続で撃ってたら耳がおかしくなっちゃう。

 私は射撃を止めた。

 命中箇所も確認。


 ほうほう、この角度だとすねに当たるのね。

 じゃあもっと角度はこう……こうやって……。


『カネ! クイモノ! オンナ! ヨコセ!!』


 なんかカタコトでMCが叫んでるんですが。

 銃を構えてるけど、私はそこにカートリッジが入ってないのをしっかり確認している。

 自国から追われてて、補給がないもんね。


 つまり飛び道具は来ない!

 私はMWでシャカシャカと動いた。


『~~~~!!!!』


 凄く目障りだったようで、MCがこっちをキックしにくる。

 バックパックに車輪を付けて……これは飛ぶこともできないな。


 私はキックを掻い潜って、車輪のところまで移動した。


 バックパックと車輪台の付け根、上手く力を加えるとパコッと外れるんだよね。

 ほりゃ! そこをマシンガンで射撃!


 バラララララララッ!


 さすがに同盟の新型MCは頑丈で、この射撃でも完全には壊れない。

 だけど衝撃で車輪がバックパックから外れてしまった。


『なっ!? ウ、ウグワーッ!!』


 ずっこける山賊。


「転がったよ! あとはみんなでコクピットを叩いてー!!」


 私の声に、周りのみんながウオオーッ!!と盛り上がった。

 仰向けに転がってしまったMCなんか、ひっくり返った亀くらい無力なのだ。


「あと二機! おりゃ~!」


 私はガッチャンガッチャン走っていった。

 MWの小回りを最大限に使って、MCの股の間をくぐり抜ける。

 そしてマシンガンを後ろに向かって連射して……。


『ウグワワーッ!!』


 二機目も転倒!


『オマエ! コロス! コロス!!』


 最後の三機目が、私目掛けて四つん這いで追いかけてくる!

 うおー、これは転ばせられない!

 ある意味一番転倒に対して強い降着姿勢なのだ!


 だけどまあ、弱点があってですね……!

 私は相手のリズムを読んで、わざと急ブレーキを掛けた。


『!?』


 私をまたいで、三機目は通り過ぎて行きそうになる。

 そこで向こうはやっぱり急ブレーキをした。


 反応が早いねー。

 だけどその反応の早さを期待してたのだ。


 マシンガンが、コクピットが止まるであろう位置を予測して狙いを定めてある。


 停止したところで、残り全部をぶっ放す!

 バラララララララララッ!! カスンカスン、とマシンガンは空っぽになった。


 MCのコクピットは集中攻撃を受け続けたので、穴だらけになっている。

 一発くらいは耐えられるけど、空を飛ぶために重量を落とさないとだから、装甲厚はそこそこなんだよね。

 マシンガンの連射を直撃させられることを想定してない。


 MCは完全に動かなくなった。


 私がMWを、トコトコと股下から脱出させてくると……。


 うわーーーーーー!!と大歓声が出迎えてくれた。

 なんと、私たちがやって来た時に憎まれ口を言っていたムキムキの隊長が、大興奮して手を叩いている。


 他のみんなも大盛りあがりだ!


「やった! 山賊共を全滅させた!」


「MWでやっちまった! なんだ! なんなんだ彼女は!」


「すげえ……! 天才パイロットだよ……!!」


 ふふふふふ、凄いでしょう凄いでしょう。

 好きになっていいんですよ。


「くそっ、ちょっと狙ってたけど、俺とじゃ釣り合わなすぎる……!!」


「ああ、あまりにも高嶺の花だぜ……!!」


「もっと相応しいすげえ男がいるだろうなあ……ああ、悔しいぜ……」


 あれえ?

 雲行きが怪しいんですけどお。



 

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