第34話 ヤンヤン、世界の屋根にやってくる!

 砂漠を越えて、ひたすら旅を続けるグワンガン。

 あてが無いのかな……?

 どこに行くんだろう。


 たまに食堂で会う艦長に聞いてみたら、


「うむ、なるべく連合の連中と会わないルートを辿っている。幸い通信機も壊れっぱなしだからな」


 破壊したまま直す気がない通信機……!!

 こうしてどうやらあてがないことを確認した私。

 せめて行先にいい男がいてくれ……!と祈る日々なのだった。


 そうしたら……。


「なんかめっちゃくちゃ大きい山が見えてきましたねえ……。壁? 壁がたくさんある」


「世界の屋根っすね」


 知っているのウーコン!

 なんだかんだで私よりも外の世界のことを知っているので、パイロット以外では役に立つ人なのだ。


「世界一高い山々が連なる辺りっすよ。この辺りは温かいっすけど、山に登っていくとどんどん寒くなるっす」


「ほえー」


 賢くなってしまった。

 というかいかにグワンガンでも、あの山は登れないでしょ。

 飛行巡洋艦が必要になるのでは?


「ちなみに飛行駆逐艦はあの山の高さまで飛べないっす。飛行巡洋艦をデッドコピーしたけど性能がそこまで上がらなくて、空気が薄くなるほど上に上がれなくなるっすよ」


「ほえー、連合の技術は基本的にアレなんですねえ」


 よく戦争やってるなあ!

 だから負けてたとも言えるんだろうけれど……。


 南部大陸同盟は、空を飛べる船は持ってないらしい。

 その代わり、水陸両用の船を使うんだとか。


 ちなみにグワンガンは泳げません。

 まあ、このあたりを行き来するのに水の中を泳げる必要ないもんね。


 そんな感じで、この辺りで色々物資を補給するみたい。

 副長が艦を降りる人員を選んでいたので、私は「はいはいはいはいはい!!」と挙手したのだった。


 こうして、また町への買い出しに参加できる私。

 MWを操縦している副長が、「そろそろ金を補充するために支部に行かねばな」とか言っていたので、近い内またあそこに戻りそう。


 世界の屋根の麓の町は、素朴な感じだった。

 いや、私の生まれ育って村と比べると百倍くらい発展してるけど。


 MWが荷物を持って行き来している。

 おっ、荷台からヤギが顔を出している……。


「この辺りはヤギを飼ってるんですねえ」


「そうだなあ。船で動物を飼ってるところもあるらしい。乗組員の精神衛生にいいんだとか聞くな」


「ヤギをペットに?」


「それもいいが、エサを用意するのが大変だろう。飼うなら犬だろうな。猫はいらんところに入り込む」


「ふむふむ……」


 グワンガンでペットを……。

 悪くないかも知れない……。

 あ、でもあの格闘戦の最中にどっか飛んでいっちゃう。

 やっぱなしだなし。


 そんな事を考えながらMWに揺られていると、この町の守備をしているらしい人たちに出会った。

 日焼けした男の人たちで、武装したMWに乗っている。

 うーん、たくましい。


 MCとMWの違いは、10m以上あってコクピットが密閉されていてバックパックがついているとMC(モーターキャバルリー)。高さ2m足らずと小柄で地上を歩いてコクピットというか、座席がむき出しなのがMW(モーターワーカー)。


 あの武装MW、乗っている人が丸出しなので危なそう……。


「おお、連合軍か! こんな僻地までくるとは珍しいな」


 副長に声を掛けてくる人がいた。

 ムキムキのおじさんだなあ。

 なんか警戒してる?


「ああ。ちょっと理由があってな。食材の買い出しに来た。ここの名産品はなんだい?」


「なんだそうか。俺はてっきり、新しい兵士でも探しに来たのかと思ったが」


「素人じゃ戦力にならんよ。それにうちにはトップエースが在籍しているんだ」


「トップエースだと? ふん、つまり言ってしまえば人殺しのプロだろう。くだらん戦争なんかをいつまでも続ける無駄飯ぐらいに売る食い物は無いね」


「そこをなんとか頼むよ。俺たちも食べ物が無いと干上がっちまうんでね」


「お前らが戦争ごっこにかまけている間に、こちらは山賊との戦いで大変になってるんだ。軍人様がその手を少しでも貸してくれりゃ、話は別なんだがね」


 おや?

 武装MWがうちのMWを取り囲んでくるんだけど。


 私はぐるっと見回した。

 ほうほう、若い人も多い……。

 ちょっと彼らのことも詳しく知ってみたいなあ。


 私は笑顔になって、彼らに小さく手を振った。

 そうしたら、何人かがでれっとなって手を振り返してくる。

 ムキムキさんが「ウガアッ!!」と若い人たちを威嚇した。


「ひーっ」


「すんませんすんません」


 若い人たちがペコペコする。

 おお、情けなし。

 いや、まああの年頃の男子はあんなもんな気がする……。


 まだ男前になる以前の段階なのだろう……。


「うむむむ」


「なんだヤンヤン、お気に召す男はいなかったか」


「いや、私が育成しないといけないようなタイプが多くてですね」


「若い男なんてのはみんなそうだぞ」


 やはり……。


「なんだ? そっちの小娘は男漁りか! 軍人で無駄飯を食う上にそんな遊びにかまけるとは……」


「いいえ! 私は真剣交際を求めています!! 結婚を前提としたお付き合いを希望!!」


「うおーっ」


 私が叫んだら、ムキムキさんが気圧されたのけぞった。

 げらげら笑う副長。


「彼女は本気で婚活しているからな。そうだ。いい男がいたら教えてくれ。お見合いをしてもらうからな」


「う、うむ」


 ムキムキさん、すっかり毒気を抜かれたみたいだ。

 そして私の話を聞いた若い人たちがひそひそ囁き合っている。


「なんでしょう」


「これはヤンヤン、お前さんが今までで一番モテる町に来たかもしれないぞ。若い衆、町の外の女に飢えている」


「な、なんですとー!!」


 耳寄りな情報なのだった。

 そんな私の前を、シャカシャカシャカーッと走っていく者がいる。


「うわ、な、なんだー!」


 それは、子犬ほどの大きさの超ミニミニMWだった。

 尻尾にモップがついていて、食料品店の店先を掃除しているらしかった。


『オキャクサン、ドイテ、ドイテ』


「あっ、はーい」


 MWから降りた私の前を、ミニミニMWがシャカシャカ走っていく。

 うーん、カワイイかも知れない!


「副長、この町でいい男と出会えなかったら、代わりに私、あれが欲しいです!」


「小さいMWか。あれならペットとしてもいいな……」


 副長の承認を頂いたのだった。


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