第5話 ヤンヤン、軍人になる!

 やっぱ、一人で村を脱出して町まで行って就職して婚活する……とか考えると気が遠くなるでしょ。

 村から一回も出たことがない人間が、限界村脱出っていうのは他力本願が一番なのよ。


 ってことで、私は常に人手不足な軍に採用された。

 もうね、若くて健康ならすぐ入れる。


 私は晴れて二等兵になった。

 ヤンヤン二等兵誕生!


「それで、何ができる?」


 面接をしてくれた艦長に聞かれる。

 ポプクン艦長は日焼けした髭面のコワモテな人だった。

 もう、めちゃくちゃ緊張した。


「はい! 畑仕事でMW使えます!」


「ふむ、じゃあパイロット訓練をさせておくか。他には?」


「うーん、とにかく健康ですね」


「じゃあ色々経験させてみるか。よし、採用」


 面接はこれで終わり。

 二等兵な私は色々な仕事を経験し、どれも適性なし!と判断された。

 それでも捨てるところなしなのが軍なのだ。


 私は厨房に配置され、シェフの見習いになった。


 それから、マクフィー少尉と会ったね!

 彼は褐色の肌のスラッとしたイケメンだった。


 こ、こんなかっこいい男が世の中にいたのかーっ!

 私は衝撃を受けたね。

 村の男なんてお腹の出たおっさんかしなびたおじいさんしかいなかったし。

 成長した若い男子は片っ端から村を飛び出していったもの。


 みんな若者を逃すまいとしたけど、夜逃げしたりしてまで次々出ていったからね。

 若者ばっかり働かせる村に、まともに子どもが残るわけないじゃん。

 未来もないしね!


 ……というか私という若い女が一人いるのに、どうして男たちはみんな逃げたのだ……!?

 むきー!


「ヤンヤン、大丈夫かい? 次はスラスターを吹かしてみよう。キミの乗ってるジャンクはやり過ぎると空中分解するからね。加減というのを学ぶにはちょうどいい……」


「はぁい少尉~」


 やだ、少尉教え方も優しい。

 好き。


 これはもう、パイロットとしての教練があるたびに絆が深まり、やがて二人はプロポーズの後に結ばれ……なんてことをもんもんと考えていたら……。

 少尉は死んでしまった。


 で、今に至るってわけ。


「ねえ整備長」


「おう、なんだ」


「この先、いい男は出てきますかねえ」


「出てくるんじゃねえの? まあ、戦争が長えから骨のある男は真っ先に死ぬからな。競争率は高いよな。ウーコンとサーコンなんかどうだよ」


「あー、人柄はいいんですけど、私より弱いので……」


「それを言ったらおめえ、選択肢が全く無くなるだろうが! ずっと独身だぞ」


「そ、それはいやあ」


 私は結婚願望がある女なのだ!!

 それに、きっとどこかにまだ見ぬ凄い旦那様候補がいるに違いない。

 私はそう信じて毎日を過ごすことにするのだった。


 役職がパイロットになってから、私は昇進した。

 二等兵から一等兵になった。

 やった、一番下じゃなくて下から二番目になった!


「ちなみにパイロットの最底辺は軍曹っすよ」


 ある時、ウーコンに言われた。


「えっ、そうなの」


「戦時昇進で艦長が上げて行ってるけど、ヤンヤンまだ若いから急に上げたら教育に良くないって言ってたっす」


「ひええ、なんだよそれー」


「ヤンヤンタメ口だけど、僕一応曹長っすからね」


「それは分かってるけど、シェフと比べて威厳がないんだよね。ヒゲ生えてないし」


「僕ら若いっすからねえ。気になるなら艦長に直談判に行くっすか?」


「なんすか。ヤンヤン艦橋行くんすか。ちょうど俺たちも用事あるから一緒に行くすよ」


 サーコンまで来た。

 ということで、私はウーコンとサーコンを左右に従えて艦橋に行くことになった。

 一等兵が曹長二人を従えている……!


 ふふふ、いい気分。


「艦長の機嫌が悪くてもヤンヤンが全部受け止めてくれるっすね、このフォーメーション」


「俺等は策士すな」


「そ、そんな狙いが」


「「ははははははは」」


 こ、この曹長どもー!

 ということで、踏みしめるたびにカンカン金属の音がする、ちょっと錆びついた床を進んでいくと、見えてきました艦橋への扉。


 ドアノブを握って、ぐいっと横にスライドさせる。

 自動じゃないのだ。


 艦橋では、操舵手が一人、オペレーターが一人、レーダー手が一人、そして艦長がいた。

 艦長が休んでる時は、副長が出てくる。

 操舵手もオペレーターもレーダー手も、三交代制らしい。


 大変だなあ……。

 パイロットなんか出撃する時だけ仕事して、あとは訓練してるんだから気楽なお仕事だよ。


「ヤンヤン一等兵か。どうした」


「あのう、艦長。パイロットって最低でも軍曹らしいじゃないですか」


「そうだな」


「軍曹にして下さいよ」


「お前はこの間入軍したばかりじゃないか。昇進は軍の決まりで月に一度しかしてはいけないことになっているんだ。なお、少尉は大尉に二階級特進だ」


「戦死したからじゃないですかー! むきー! これじゃ私、ルール違反してる感じじゃないですかー!」


「戦地は臨機応変でいいんだ。言いたいことはそれで全部か? こちらからは他に特にない……おお、曹長たちも一緒か」


「あ、はい。頼まれてた報告書を書いてきたんで……」


 交戦記録とか言うのを差し出すウーコンとサーコン。

 艦長はこれに目を通し始めた。


 もう話は聞いてくれないっぽいぞ!

 なんということだ。

 軍隊は話が通じないなあ!


 私がぷりぷり怒っていると、オペレーターの人が手を振っていた。

 長い髪をまとめた眼鏡の女の人だ。


「やっほ、元気? 凄いじゃん。ヤンヤンの活躍の事を上にも伝えたいんだけどねえ。このポンコツ戦艦がまた通信がイカれてて何にもできないの。お蔭で私たちオペレーターは艦内放送担当です」


「楽でいいじゃないですかー」


「楽だからいいってものじゃないのよー」


 そんなものか……。

 奥深いなあ……。


 この話を聞いていたレーダー手の人が顔を上げる。


「ありゃ凄かったな! みるみる、敵の光点が消えていった。とんでもない活躍だった! ヤンヤンはトップエースになれるぞー。絶対、上が知ったら大騒ぎになるだろうに」


「トップエースになったらモテますかね?」


「男ならモテると思うが、女だとあれじゃないか? 軍の高官がバカ息子の嫁にとか言ってくるんじゃないか?」


「な、なんだってー!!」


 嬉しくなーい!!


「あの、上への報告は適当に濁してもらえると……。私は有名になるメリットが明らかにないので……」


 パイロットとして戦果を上げても、何もいいことないのでは……!?

 私は気付いてしまったのだった。

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