破王ハ睡蓮ノ花言葉ヲ知ッテイル。

兎月十彩

第1話 花言葉1「優しさ」




好きになった人は好きになってはいけない人でした。



この世の中に神様という存在があるのならきっとこの出逢いはなかったと思う。



そしてこの世の中に神様という存在があるのならきっとこの気持ちは恋にはならなかった。



だからこの世の中に神様なんていないきっといない──。





*********




『──…か』



「……」



『さや──……起』



「……ん」



「清子、起きろ」

「っ!」


耳元で響いた低い声に一気に意識が覚醒した。背中を駆け抜けたゾワッとした感覚が私を勢いよく起こさせた。


「はぁ、やっと起きた。今何時だと思っているんだ」

「なっ、お、お兄ちゃん?! なんで私の部屋に」

「ちっとも起きて来ないから起こしに来たんだよ。時間、いいのか」

「時間? ………あっ!」


パニック状態になっている頭の中に【時間】の単語が入り込み、ようやく違う意味で混乱していた気持ちは波が引くようになくなった。


「わぁぁぁ──! 今日、初日なのに!」


ベッドから飛び降り部屋から出てトイレや洗面所を慌ただしく行き来する。


「ずっとアラーム鳴っていたのになんで起きないんだ」

「もう、起こしてくれるならもっと早くに起こしてよ!」

「そんなこと言うけどな、部屋に入るなって散々いっていたのは清子だろう」

「時と場合によるのよ! あぁぁぁぁぁー、時間がぁ──!!」

「清子、朝ご飯は?」

「そんなの食べている暇ないよ! えっと……封筒、書類の入った封筒は──」

「はい、これ」

「! ありがとう、お兄ちゃん」

「全く……21にもなって中学の時みたいなやり取りが続くとは思わなかった」

「今いいから、そういうの! じゃあ行って来ます!」

「清子」


慌ただしく玄関へ行き、靴を履こうとしている私に兄が声をかけた。



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